退職の意思表示に錯語があったとして労働審判の申立てがされた事例
相談企業のエリア | 愛知県名古屋市 |
相談企業の業種 | 運送業 |
相談企業の従業員規模 | 100名程度 |
相談のジャンル | 問題社員対応、残業代請求、労働審判 |
争点 | 退職の意思表示の瑕疵 |
相談前の状況
運送業を営むA社は、社員Bを乗務員として採用したところ、Bが採用後に営業職を希望したため、営業職に配置転換をしました。役員Cは、Bが営業職として活躍できるよう指導、教育を担当しましたが、Bは役員Cの態度が気に入らないなどの理由から、社内でA社や役員Cの批判をするようになりました。このため、役員CはBとの面談の機会を設け、「職場の雰囲気が悪くなるため会社の批判や人を悪く言うことはするべきでない。自分が会社に向いていないと思うのであれば辞めた方が良い」などと話をしました。そうしたところ、Bはその日のうちに退職願を書いて会社に提出し、即日退職をしました。
ところが、数日後、Bは弁護士を代理人に立て、退職願は自分の意思で書いたものではないから無効であるなどと主張し、労働者の地位にあることを前提とした賃金及び未払残業代の支払請求をしてきました。このため、A社はBへの対応を当事務所に相談されました。
相談後の提案内容・解決方法
A社としては退職の有効性を譲る考えは一切なかったため、若干の交渉を経た後、Bは労働審判の申立てをしてきました。
労働審判委員会からは、退職願の提出に至る過程には不合理な点があり、転職先のあてもないまま即日退職することも不自然であるなどとして、役員Cの言い分の信用性に否定的な心証を持たれることになりました。このように不利な点を指摘されることにはなりましたが、会社としては譲れない争いであったため、訴訟も辞さないという強い態度を示し、最終的には会社にとって有利な内容にて調停が成立しました。
担当弁護士からの所感
退職の意思表示の効力が争われるのは、使用者の勧めによる不本意な退職願の提出がなされるケースです。
自筆の退職願が存在している以上、会社としては退職の事実を争われること自体心外だというように考えることが多いように思います。しかしながら、客観的に冷静な視点で見てみれば、業務の引継ぎ期間を一切設けず、次の転職先も見つけないまま、翌月の生活資金にも事欠くような状況で即日退職をするということは、何か不自然ではないか、と裁判所からは疑われることが通例です。このような場合は、当該社員が即日退職を希望することになった積極的な理由を主張・立証する必要がありますが、本件ではそのような事情が見当たらなかったため、会社にとってはどうしても不利な状況にありました。
もっとも、社員BがA社の労働者としての適格性を欠いていたという点は事実であり、仮に役員Cの退職勧奨に不適切な面があったとしても、BがA社を退職することは双方にとって望ましい、という価値判断は十分に通用するものだと思います。この点を強く主張したことで、社員Bの退職自体はやむを得ないという方向性を労働審判委員会に理解いただき、最終的には訴訟に至らず会社に有利な解決を図ることができました。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。