実労働時間がタイムカードの打刻時間どおりでない場合
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
タイムカードにより出退勤管理をする際の注意
労働者から会社に対して残業代請求がなされる場合、その労働時間を示す証拠として用いられることが多いのがタイムカードです。
会社がタイムカードを出退勤管理のために用いており、労働時間管理のために用いていない場合であっても、労働者からタイムカードの打刻時間どおりの残業代を支払うよう請求されてしまうことがあります。
そのため、タイムカードを出退勤管理の目的で導入している会社においては、タイムカードの打刻時間により労働時間を認定されてしまわないように注意する必要があります。
ここでは、タイムカード(入退館記録表、ICカード)が導入されていたものの、タイムカードによる労働時間の算定が否定された裁判例を紹介させていただきます。
【ヒロセ電機(残業代請求)事件‐東京地判平成25年5月22日】
・①就業規則において時間外勤務は所属長からの命令によって行われるものであると明記されていたこと
・②実際の運用として、毎日、時間外勤務命令書の「命令時間」欄の記載によって時間外勤務命令が出され、翌朝、従業員本人の申告内容を所属長が確認して時間外労働が把握されていたこと
・③業務時間外の会社設備利用が認められており、会社構内において業務外活動も行われていたことからすると、事業場にいたからといって必ずしも業務に従事していたとは限らないこと
・①②③の事情からタイムカードに打刻された入館時刻から退館時刻までの時間について、会社の客観的な指揮命令下に置かれた労働時間と推認できない特段の事情があるとされた
【オリエンタルモーター(割増賃金)事件‐東京高判平成25年11月21日】
・原告は、平成22年4月1日、新卒社員として被告に入社し、平成23年3月31日に退職したところ、平成22年7月から12月までの間、常時1時間から5時間の残業をしたとして未払賃金の支払等を求めた事案。
・「ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示すものに過ぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちに被控訴人が時間外労働をしたと認めることはできない。」
・その上で、時間外労働該当性について、日報作成、翌日訪問する営業先の下調べ、発表会への参加などについて、個別に検討した上で、残業の必要性、業務命令の有無、業務該当性といった観点から時間外労働該当性を否定した
タイムカードの打刻時間を労働時間と認定されてしまわないために
ヒロセ電機(残業代請求)事件においては、就業規則で時間外勤務は所属長からの命令によって行われるものとされ、それ以外の時間外勤務は認めないと明記されていました。また、実際の運用においても、毎日、時間外勤務命令書の「命令時間」欄の記載によって時間外勤務を命じられ、翌朝、時間外勤務について本人が「実時間」を記載し、所属長が確認することで把握されるという厳格な運用がされていました。
また、オリエンタルモーター(割増賃金)事件でも、時間外勤務については、課長以上の管理職が受命者に対して残業を指示し、指示内容や指示時刻等を記載した指示書に署名する方法により管理運用がされていました。
2つの裁判例の事案では、自己申告制が採用されており、それが厳格に運用されていました。時間外労働の管理がタイムカードではなく、残業申請とその承認によりなされていたというためには、自己申告制度が厳格に管理されており、これにより時間外労働の管理がなされていたといえることが不可欠であるかと思われます。
また、ヒロセ電機(残業代請求)事件のように就業規則において時間外労働の把握方法(タイムカードの利用目的が出退勤管理等であることの記載も含む)を明確に周知しておくことも重要であるかと思われます。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、実労働時間とタイムカードの打刻時間が異なる場合の企業対応についてご説明させていただきました。自己申告制を採用している会社においても、残業申請のない時間外労働を黙認している等制度の運用が曖昧な場合には、自己申告制により時間外労働の管理がなされているとは認められないおそれがあります。
労働者が会社構内には滞在しているものの、時間外労働をしていたとはいえない場合にタイムカードの打刻時間どおりに時間外労働を認められないためにも時間外労働の厳格な管理を行うことでタイムカードの打刻時間と実労働時間との差を大きくしないことが肝要になってきます。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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