在宅勤務のための費用は会社が負担すべきか?-テレワークにおける費用負担

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。就業規則の作成・変更でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

在宅勤務の拡大と費用負担問題


新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、感染防止や危機対応としてのテレワーク(在宅勤務)を導入する企業が増えています。在宅勤務は、労働者にとって通勤時間が無くなり、ライフワークバランスも取りやすいといった様々なメリットがある制度ですが、パソコンなどの初期投資や光熱費などの費用を労働者と使用者のどちらが負担すべきかといった新たな問題が投げかけられています。そこで、ここでは、在宅勤務における費用負担の問題を検討してみたいと思います。なお、テレワーク全般の問題については、【テレワーク導入の手引き】で詳しく説明していますので、こちらも合わせてご参考ください。

在宅勤務で要する費用

在宅勤務で必要となる主な費用には、次のようなものがあります。

初期投資

・パソコン購入費用
・ディスプレイ購入費用
・デスクなどの環境整備費 等

継続費用

・インターネット通信費
・電気代等の光熱費

対応は各社様々

「他の会社はどうしているだろうか」と気になるところですが、各企業の対応は様々です。LINEでは、在宅勤務における水道光熱費や通信費等に充てるための「新型コロナ対応手当」を月5000円支給していることが早くから話題となっていました。あるソフト開発会社では、在宅勤務1週につき1000円の在宅勤務手当を支給していますが、その分通勤定期代の支給をしない取扱いがされています。また、在宅勤務制度開始時に、一律5万円の在宅勤務手当を1回のみ支給するといった会社もあります(日本経済新聞2020年5月20日社会面記事)。

他方で、費用負担をまったくしていない会社もあり、「仕事のための出費なのにと思う部分がある」との会社員の声が聞かれます(同記事)。

法律上は使用者が負担する義務はない

このように、企業の対応は様々ですが、前提として押さえておきたいのが、法律上は使用者が在宅勤務費用を負担する必要はないという点です。このことは、通勤費用とパラレルに考えると分かりやすいかもしれません。多くの企業で半ば当然のように通勤費用を負担していますが、この通勤費用も本来は労働者が負担すべきものであって、使用者が負担する必要のないものです。そもそも労働契約とは、「当事者の一方が相手方に使用されて労働し、相手方がこれに賃金を支払うこと」を合意する契約ですので、使用者が労働者に支払うべき「賃金」は「労働の対価」です。したがって、通勤費用にしても、在宅勤務費用にしても、これらは労働者が負っている「労務の提供」という義務を履行するための準備的な費用であって「労働の対価」ではありませんので、労働契約の原則からすれば労働者が負担すべきものということになります。

もっとも、実際には、「通勤手当」などを設けて通勤費用を使用者側が負担している企業が多くあります。これは、「他社がそうしているからそういうものだと思っていた」と無意識にされている会社もあるかもしれませんが、多くの他社が通勤費用を負担している中で、自社だけが負担をしないというのはどうしても企業の魅力が見劣りしかねません。通勤費用を使用者が負担する企業が多いのは、採用面での魅力向上や、従業員のモチベーションや企業への帰属意識を高め、働きやすい環境を整えることによって生産性を向上させようという企業意識の表れであることが多いのではないでしょうか。

「通勤手当」から見えてくる「在宅手当」の在り方

このように、通勤費用とパラレルに考えれば、在宅勤務費用をどうしようか、といった問題にも一つの方向性が見えてくるのではないでしょうか。私の考えの一つとしては、緊急事態宣言等のコロナ対応の中で、1か月、2か月といった短期間だけの臨時的な在宅勤務の場合には、在宅勤務時の費用を賄うための「在宅手当」の支給は必要ないと思いますが、恒久的な制度として在宅勤務を導入する場合には、通勤手当に代わるものとして「在宅手当」を設定されるのが良いのではないかと思います。

恒久的な制度として在宅勤務を導入する場合

恒久的な制度として在宅勤務を導入する場合、通勤費用とパラレルに考えれば、労務提供のための準備費用としての在宅勤務費用を使用者が負担することは、これまで通勤費用を負担してきたことのメリットと同様の効果を生むものと思います。会社への帰属意識を高め、費用を気にすることなく存分にパフォーマンスを発揮してもらうためにも、働きやすい環境整備は会社へ出勤する場合と在宅の場合とで異なるものではないかと思います。在宅勤務の割合を相当程度設けるのであれば、その分通勤手当を削ることも可能であり、トータルでの費用負担は変わらないかむしろ下げることも可能です。

在宅勤務が臨時的な措置の場合

緊急対応として臨時的に在宅勤務を導入したものの、業務の内容が在宅勤務になじまず1,2ヶ月の短期で在宅勤務を廃止するような場合には、資金に余力がある企業は別として、無理に在宅勤務費用の負担を使用者が行う必要はないものと思います。こうした企業では、多くの場合感染リスクの防止といった安全配慮の観点や従業員側の強い要望に基づいて行っている一方、在宅での業務にそもそも限界があり、生産性も低いといった事情がありますので、そうした場合にコストだけ上昇させることは妥当とは言えません。

いずれの場合であってもパソコンは会社が用意すべき

恒久的な制度として在宅勤務を導入する場合はもちろんのこと、臨時的な措置として在宅勤務を行わせる場合であっても、できる限り業務に使用するパソコンは使用者側が提供すべきでしょう。勤怠管理に必要なソフトや業務に必要なソフトのインストールをはじめとしたパソコンの設定上の問題もあり、また業務用のパソコンを使用して業務を行う方が業務効率は上がります。

何より大事なのは、情報漏洩リスクの防止であり、私的なパソコンを使用させると情報漏洩リスクが高まるばかりか、いざ問題が生じたときにパソコンの回収や調査に支障が生じます。

在宅勤務を視野に入れるのであれば、オフィスのパソコンもできる限りノートパソコンに切り替え、オフィスと在宅と両用できるようにしておくことが望ましいでしょう。

費用負担の在り方を決めたらテレワーク規定に明記を

在宅勤務費用をどのようにするか決定したら、その内容をテレワーク(在宅勤務)規定に明記します。在宅勤務者と出社する人との間での不公平感をなくすためにも、必要経費の負担についてルールとして明確化することは不可欠です。

テレワーク規定については、【テレワーク導入の手引き】で詳しく解説していますので、こちらをご参考ください。

テレワークの導入・運用には専門家の支援を

テレワークは、新型コロナウイルスの感染防止対策や緊急時の事業継続性確保といった危機対応を可能にするのみならず、労働生産性向上や優秀な人材確保といった働き方改革の手段としても効用が高いものです。今後、働き方改革として在宅勤務を制度として定着させていこうとする企業も増えていくのではないでしょうか。他方、制度設計が曖昧なままスタートさせたり、管理・運用がずさんであったりした場合には、「隠れ残業」を理由とした未払残業代請求等の思わぬ労務トラブルを引き起こしてしまうリスクがあります。労働関係法規に適合し、かつ成果を高めるテレワーク制度を導入・運用するためには、人事・労務に強い弁護士や法律事務所等の専門家による支援を受けられることをお勧めいたします。

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