退職勧奨はどこまでできる?-「辞めるつもりはない」とはっきり言われたら

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

退職勧奨の意義

退職勧奨とは、退職の意思表示を促すための使用者による労働者への働きかけをいい、多くは不況時の人員整理のため、あるいは能力不足の著しい社員や非違行為のある社員等を解雇する前段階として行われます。退職の「勧奨」に過ぎませんので、労働者による自発的な意思表示を促すものである限り、そうした事実行為は原則として自由に行うことができます。退職勧奨の結果、労働者から辞職の申出がなされ、あるいは合意解約についての同意が得られた場合は、労働契約が終了することになります。

労働者から「辞めるつもりはない」とはっきりと言われたら

退職勧奨はあくまで退職に向けた働きかけに過ぎませんので、それに応じるか否かは労働者の自由な意思のもとに決めることができるものです。したがって、その勧奨行為は、労働者の自由意思を尊重する態様で行うべきことになります。
  
では、使用者からの退職勧奨に対し、「辞めるつもりはないのでもうその話はしないでくれ」と言われたら、それ以上退職勧奨は一切できなくなってしまうのでしょうか。
  
このような場合であっても、使用者は直ちに諦める必要はありません。一度断られたとしても、その後翻意する可能性がある以上、二度、三度と説諭を行うことは基本的には許されるといえます。こうした幾度にもわたっての働きかけは、退職勧奨に限らず営業その他広く社会一般で行われていることからも、退職勧奨に限って否定されるべき理由はありません。

退職勧奨の限界

もっとも、退職勧奨に限らずですが、そうしたアプローチは節度を守って行われるべきことは当然です。あまりに執拗に辞職を求めるなど、労働者の自由な意思の形成を妨げ、その名誉感情など人格的利益を侵害する態様で行われた場合には、退職勧奨も違法なものとなり得ます。
  
例えば、退職勧奨に応じない意思を明確にしている労働者に対し、毎週毎週呼び出しては退職勧奨を行い、しかも人事担当者らが4,5人で取り囲んで毎回2時間にもわたって行うような態様は、労働者に与える精神的苦痛も大きく、もはや労働者の自由意思の形成を阻害しているといえるでしょう。「辞めます」というまで執拗に、かつ多大な圧力をかけるやり方は、「勧奨」の域を逸脱しているものですので決して行ってはいけません。

【最判昭和55年7月10日‐下関商業高校事件(判タ434号172頁)】
判旨

A教員に対しては2か月余りの間に11回、B教員に対しては4か月余りの間に13回、それぞれ市教委に出頭を命じ、6名の勧奨担当者が一人ないし四人で一回につき短いときでも20分、長いときには2時間15分に及ぶ勧奨を繰り返し、しかもその中で、Aらが退職するまで勧奨を続ける旨の発言を繰り返し述べていたなどの事案について、退職勧奨として許容される限界を越えているとした原審の判断を是認し、退職勧奨を違法と判断

【大阪地判平成11年10月18日-退職強要事件(労判772号9頁)】
判旨

上司らが約4か月間にわたり、30数回もの「面談」「話し合い」を行い、その中には約8時間もの長時間にわたるものもあったこと、この「面談」において、対象社員に対し、CAとしての能力がない、別の道があるだろう、寄生虫、他のCAの迷惑などと述べ、大声を出したり、机をたたいたりしたこと、この一連の面談のなかには、対象社員が断っているにもかかわらず、その居住する寮にまで赴き行ったものが複数回あったこと、対象社員の家族にも会って、対象社員が退職するように説得をしてくれとも述べていたことなどの会社の対応について、社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となると判断

退職勧奨にも「労働者側の視点」を踏まえた戦略を

使用者側の思惑が前面に出てはダメ

退職勧奨は、使用者が退職してほしいと考えている労働者に対して行うものですので、それは多分に使用者側の思惑に基づくものといえます。もちろん、勤務態度不良、能力不足、非違行為など、退職勧奨を行うきっかけや理由を作っているのは労働者側であるという考えがあるかもしれませんが、だからといってそうした問題は直ちに「退職」に結びつくものではありません。
  
この点が非常に重要で、そうした労働者側にある問題事由から、「退職して然るべき」「本来なら解雇だ」という経営者側の思いが強すぎると、つい退職勧奨が行き過ぎてしまいかねません。また、特に考えもなしに、唐突に「辞めてくれ」という話をしがちであり、それでは労働者側から大きな反発がなされかねません。

退職勧奨は合意による退職を目指すもの

退職勧奨は、あくまで労働者の自発的な退職の意思表示を促すものですので、必ずしも会社側の意に沿う返事がなされるものではないと心得ておくべきものです。また、解雇という使用者の一方的通告によって労働契約を終了させるのではなく、円満に合意による退職の実現を目指すものですので、労働者側にとって任意にその選択をできるだけの条件ないし環境整備が必要です。
  
そのためには、果たしていきなり退職勧奨を行うことが適切か否か、配置転換や労働条件変更の打診等を踏まえたうえで行うべきか否か、退職に向けたインセンティブの設定は必要か否かなど、退職勧奨も、様々な考慮に基づいたプランを立て、実行していくべきものといえます。

「労働者側の視点」を踏まえた立案と実行を

退職勧奨は、それを受けた労働者の側にとっても、会社から必要とされていないという事実を突きつけられるものであり、そうであれば、その能力を発揮する場を他に求めた方が将来性の点でプラスのことも多いでしょう。労使双方にとって良い結果を実現するためにも、安易な考えと不誠実な態様でもって退職勧奨を行うべきではなく、「労働者側の視点」を踏まえて対応をすることが、退職勧奨を奏功させるうえでは肝要なことだと考えます。

労務管理には専門家の支援を

ここでは退職勧奨について、これを行う場合の留意点等を説明させていただきました。企業は余剰人員、問題社員を巡って非常に悩ましい状況に直面することが多くあるかと思いますが、使用者と労働者との雇用契約関係は労働関係法規による規律に服する以上、法的事項を踏まえた対応が必要です。労働法規等を無視して対応を行えば、使用者が予期しない、あるいは意図しない問題がさらに発生する恐れがありますので、注意が必要です。
  
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば大きなリスクを企業にもたらします。労務管理や労働者対応については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。


 

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