解雇無効についての団体交渉
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、労働組合との交渉を有利に進めるための方法をご提案するとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。合同労組やユニオンなどの労働組合との交渉でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
合同労組・ユニオンから解雇処分の撤回を求められたら?
解雇や雇止めした従業員が合同労組に加入し、労働組合から解雇処分撤回の団体交渉の申し入れがされた場合、入念な準備に基づいた慎重な対応が特に必要です。解雇無効の問題は、経営者の方の想像をはるかに超えた金額の支払リスクを伴いますので、ともすれば会社の死活問題になりかねません。対応ポイントをしっかりと押さえ、場合によっては専門家の支援を受けながら解決を図る必要があります。
金銭解決の可能性を探る
解雇された従業員は、その解雇の法的な意味での有効性はさておき、何かしらの問題を起こして、あるいは能力的その他の点で問題があったために会社からの退場を求められたというケースが多いかと思います。解雇に至る過程や解雇処分の事実などから、会社と従業員との信頼関係は完全に破綻していると言っても過言ではありません。したがって、従業員の側も、真剣に解雇を無効とすることによって会社に戻りたいというよりは、金銭的な補償を求めている場合も多いのです。
労働組合と従業員がその団体交渉を通じて本心としてどこを目指しているかという点を見定めることは、会社の方針を立てる上で大事なことといえるでしょう。
第2回目の交渉が鍵
本音のところで金銭解決を求めていたとしても、いきなり金銭解決をほのめかすような合同労組はいません。第1回交渉では、厳しく会社側の解雇処分を批判し、解雇の撤回を求めてきます。
第2回目の交渉になってはじめて、金銭解決の可能性をほのめかしてくることがあります。「生活がかかっている」「解決方法はいろいろある」「会社にとっても早期解決が望ましいと思う」など、様々なアプローチがあります。第2回目でそうした組合側の匂わせが弱い場合には、第3回目になされるでしょう。第3回交渉でも執拗に解雇無効を主張してくる場合には、交渉は難航することが予想され、裁判手続きに移ることも覚悟していかなければなりません。
解雇法制への正しい理解が必要
日本は簡単に従業員を解雇できない国であるとよく言われていますが、確かに解雇の有効性は厳しく判断されるのが現実です。しかしながら、解雇の難しさは、単に労働者の保護という理由によるものではありません。日本の解雇ルールの厳しさは、本質的には長期雇用制度(終身雇用制度),年功賃金制度を核とする日本型雇用システムに拠っています。最近では年功賃金制度等に変化がみられますが、まだまだ日本では会社と社員の雇用関係はメンバーシップとしての意味合いが強いといえます。このことから、たとえ問題社員であっても会社側に指導改善を尽くすことが強く求められることになり、結果として解雇の有効性が厳しく判断されることになるのです。
解雇の有効・無効の検討
日本の解雇規制を正しく理解し、解雇処分の有効・無効をしっかりと見極めることが必要です。当該事案に類似した裁判例とも照らし合わせながら、「裁判になったらどういう結論が予想されるか」をシミュレーションします。訴訟が提起されると、解決まで1年、2年とかかる可能性も高く、訴訟経済的な視点での分析も欠かせません。判決で解雇が無効となる可能性と、もしそうなった場合の支払金額を検討し、訴訟となればどれだけのリスクを背負うのかを正しく認識しなければいけません。
ここまで検討してはじめて、団体交渉に臨む戦略、方針を決めることができるのです。事前検討が不十分なまま甘い考えで勝負に出てしまうと、とんでもなく大きな痛手を負うことがありますので注意が必要です。
解決金の金額提示は労働組合にさせるべし
金銭解決の方向性が示されたとしても、最初の金額提示は労働組合側にさせるべきです。解決金の水準に決まりはありませんが、やはり最大値を最初に引き出すことが後々の金額交渉を有利に運ぶ一つのポイントになります。
労働組合側も交渉に慣れていることもあり、なかなか金額提示をしようとしないため、交渉には難しさが伴います。
もっとも、たしかに裁判となったら会社側に厳しい判決が予想される場合であっても、会社側のスタンスとしてはあくまで解雇有効です。会社はこの立場にある以上、金額提示は組合側にて行うべきことを粘り強く交渉していきたいところです。
【解雇権濫用法理】
解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。
(労働契約法16条)
【高知放送事件(最判昭和52年1月31日)】
■事案
解雇された従業員は報道部勤務のアナウンサー
寝坊により午前6時から10分間放送されるべき定時ラジオニュースを全く放送できず(第一事故)
その2週間以内に,再び寝坊により定時ラジオニュースを5分間放送できず(第二事故)
■判旨
「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。」
本件は、「寝過しという過失行為によって発生したものであって,悪意ないし故意によるものではなく」
「ファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ,第一,第二事故ともファックス担当者においても寝過し・・・たのであり,事故発生につき被上告人【注:アナウンサー】のみを責めるのは酷」
「上告会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかった」
などと述べて、解雇処分を解雇権の濫用として無効と判断。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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