派遣労働者への労働条件の通知と就業条件の明示
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。派遣業の皆さまでお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
派遣労働者の二面性
労働者派遣は、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる」(派遣法2条1号)ものです。派遣労働者の雇用関係は派遣元との間で結ばれますが、就業する場所は派遣先事業所となるため、①派遣元との雇用契約、②派遣先での就業条件の二つの観点から派遣労働者の労働条件を定める必要があります。
派遣元との雇用契約
労働条件の通知
派遣元は、派遣労働者との間で労働契約を締結する場合、労働条件を明示する義務を負っていいます(労基法15条1項)。明示すべき事項は、労働基準法施行規則第5条第1項が14号にわたり列挙していますが、その内容は次のとおりです。
① 労働契約の期間に関する事項
② 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
③ 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
④ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
⑤ 賃金(退職手当及び⑧の賃金は除く。)の決定、計算及び支払いの方法並びに支払いの時期に関する事項
⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
⑦ 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに支払いの時期に関する事項
⑧ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)及び最低賃金額に関する事項
⑨ 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせるときはこれらに関する事項
⑩ 安全及び衛生に関する事項
⑪ 職業訓練に関する事項
⑫ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑬ 表彰・制裁の種類及び程度に関する事項
⑭ 休職に関する事項
以上の事項を労働条件通知書によって派遣労働者に通知します。なお、通知はFAXや電子メール等によって行うこともできます。
労働条件は就業規則によって定めるべし
常時10人以上の労働者を雇用する使用者は、就業規則を作成する義務を負っています(労基法89条)。就業規則には、必ず定めなければならない必要記載事項がありますが、実はそのほとんどが先に見た労働条件通知書等によって明示すべき労働条件の内容と重なっています。
したがって、雇用する労働者が10人以上いる使用者はもちろんのこと、たとえ10人未満の場合であっても、就業規則を作成し交付することによって使用者は労働条件の明示義務のほとんどを果たせることになります。
ここが大事!就業規則は雇用形態ごとに作成を
就業規則は官公庁が公表しているモデル就業規則のようなものをそのまま使用するのではなく、それぞれの企業にあったオリジナルのものを作りこむべきです。実態と規定があっていない場合には、その就業規則が使用者に不利に働き自分で自分の首を絞めることになりかねません。
そして、就業規則を作りこむことと同じくらい大事なことが、雇用形態ごとに就業規則を用意することです。昨今では、期間雇用である有期雇用派遣労働者だけではなく、無期雇用派遣労働者を採用する例が増えています。また、新規採用のみならず、有期から無期へ転換することも多くなっています。派遣労働者において、有期と無期とで労働条件の内容が異なることは当然です。
例えば、派遣元が派遣先によって労働者派遣契約を中途解約された場合に派遣労働者をどのように処遇できるかについても、有期雇用派遣労働者と無期雇用派遣労働者とでは異なります。こうした場合に、労働者から思わぬ要求を受け会社が窮することがないよう、就業規則や労働条件の定め方には最も注意を払いたいところです。
就業条件の明示
就業条件の明示事項
派遣元は、派遣労働者に対し、労働契約締結時における労働条件の通知のみならず、派遣開始時の就業条件を明示することが必要となります(派遣法34条1項)。明示すべき事項は次のとおりです。
① 派遣をする旨
② 就業条件(派遣先との労働者派遣契約で定めた事項のうち、個々の派遣労働者に関するものを明示します)
③ 個人単位の期間制限に抵触する日
④ 派遣先の事業所単位の期間制限に抵触する日
登録型派遣の場合
登録型派遣の場合等で、労働契約の締結と労働者の派遣が同時に行われるときは、明示すべき事項が重複するものについて、労働条件の通知と就業条件の通知を兼ねて一つで行うことが可能です。
ここで注意が必要なのは、無期雇用社員に転換されているにもかかわらず、従来の方法を踏襲して労働条件の通知と就業条件の通知を連動させてしまうことです。無期雇用派遣労働者と有期雇用派遣労働者とでは、賃金や就業場所等の取扱いの点で労働条件が変わるべきはずなのに、特定の派遣契約の就業条件とリンクした労働条件の通知の体裁をとることは、意図しない思わぬ誤解を生み、後々大きなトラブルとなりかねません。
無期雇用へと転換したのちの労働条件の通知と就業条件の通知には注意が必要です。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、労働者派遣における労働条件の通知と就業条件の明示について説明をさせていただきました。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば重大なサンクションを受けるなど大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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