元従業員との団体交渉
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、労働組合との交渉を有利に進めるための方法をご提案するとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。合同労組やユニオンなどの労働組合との交渉でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
退職した元従業員の問題に関して団体交渉が申し込まれた場合、会社は使用者として団体交渉に応じなければならないか?
使用者が団体交渉を正当な理由なく拒否することは労働組合法7条2号によって禁止されていますが、解雇した従業員や契約期間満了で雇止めにより退職した契約社員などの「元」従業員に関わる団体交渉を拒否することはできるでしょうか?既に会社と「元」従業員との間に雇用関係はないわけですから、会社は「使用者」として団体交渉への応諾義務を負わないのではないか、との疑問がわいてきます。
労組法上の「使用者」とは、労働契約関係ないしはそれに近似ないし隣接した関係を基盤として成立する団体的労使関係の一方当事者と解されています。したがって、近い過去に労働契約関係があった場合にも、それを基盤とした労組法上の使用者性は肯定されることになります。このことの帰結として、次のような労働者の所属する労働組合が団体交渉を求めた場合には、会社は「使用者」として団体交渉に応じる必要があります。
- 解雇された労働者
- 雇止めされた労働者
- 任意退職後(辞職、合意退職後)、退職金の割増、年休の買い上げ等の退職条件について交渉を求める労働者
- 雇用期間中の未払時間外労働手当の支給などの労働条件について交渉を求める労働者
このように、退職者の属している労働組合が解雇撤回や退職条件、あるいは在職中の残業代請求等に関する団体交渉を申し入れてきた場合には、会社は使用者として団体交渉を拒否できません。このことは、元従業員が、退職後にユニオンや合同労組に加入した場合(いわゆる駆け込み訴えの場合)であっても変わりませんのでご注意ください。
10年前に解雇した従業員から団体交渉が申し込まれたら?
退職後の元従業員が加入する労働組合からの団体交渉に応じなければならない場合があることは上記のとおりですが、それでは、退職後、5年、10年と月日が経ってから突然団体交渉を申し込まれた場合にも、やはり会社は「使用者」として団体交渉に応じる必要があるのでしょうか?
この場合は、ケース・バイ・ケースで個別具体的な検討が必要となりますが、5年程度の期間では「使用者」性を失わず、会社は団交応諾義務を免れないと考えた方が無難ではないかと思います。
このことは、「解雇された労働者はいつまで解雇無効の主張ができるのか」という解雇無効の訴えが許容される期間の問題とも密接に関連していますが、現行法上は解雇無効確認の訴えについて出訴期間の制限がないことから、やはり個別具体的にその無効主張を許容するか否かの検討が必要といえるでしょう。
この問題に関してはいくつかの裁判例がありますが、一例として次の裁判例が参考になります。
【日本鋼管鶴見造船所事件(最判昭和61年7月15日)】
事案
従業員Aは解雇後約6年10か月経過後、従業員Bは解雇後約4年5か月経過後に団体交渉の申し入れをしたのに対し、会社は団体交渉を拒否。会社に対し不当労働行為救済命令が出されたことから、会社がこれを争った事件。
判決要旨
(原審:東京高判昭和57年10月7日)
「両名は解雇の効力を争って裁判所に労働契約上の地位の存在することの確認請求の訴を提起していたものであって、解雇後漫然とこれを放置していたものではなく、かつ、参加人らは、組合を結成し、又は組合は加入してから直ちに右申入れをしていることが認められる。」「使用者側と労働者側との労働条件の意見の不一致について協議・決定するため団体交渉がなされるが、解雇に関する問題は労働者にとって最終的で最も重大な事項であるので、その解決方法として団体交渉ばかりでなく、苦情処理、労働委員会への提訴、裁判所への訴訟の提起等が考えられ、それが、それぞれ目的・機能を異にするものであるから、労働者がそのあらゆる手段を利用しようとするのは必然であって、その一を選択することによって他を選択し得なくなるものではない。」従業員Aについては「すでに高等裁判所の判断が示され、」従業員Bについて「地方裁判所の和解が試みられる等長期にわたり訴訟的解決に種々の手段が尽くされているが、これによって団体交渉が無意味となるものではない。」
また、解雇された労働者が退職金を受領し長期間解雇の効力を争わなかったにもかかわらず、その後解雇の無効を主張して提訴したような事例では、裁判所は、信義誠実の原則(民法1条2項)を適用して労働者側の請求を排斥しています。
愛知県レ・パ事件(名古屋地判昭和46年5月26日)
事案
解雇処分を受けた原告らは、愛知県地方労働委員会に対し、その取消しを求める不当労働行為救済申立をなしたが、中央労働委員会において原告らの申立は棄却された。原告らは申立棄却の命令書を受領しながらもその取消しを求める行政訴訟を提起せず、同命令が確定。その後約10年経過後、原告らが解雇処分の無効を主張して提訴した事件。
判決要旨
「原告らは、本件処分後退職手当等を異議なく受領したうえ、前記中央労働委員会の棄却命令を受けてから後10年間という長期に亘り本件処分を争う法律上事実上の手段を全くとらなかったのであるから被告において、原告らが労働関係の消滅を争わないものと確信し、その前提のもと・・・活動をつづけてきたことは容易に推認することができる。」「右のように一切の事実関係及び法律関係が形成され、10年という長年月が経過した後において、突如として本件処分の無効を主張するが如きは、たとえ、本件処分に原告ら主張のような瑕疵が存したとしても、それは労働関係上の権利の行使として恣意的にすぎるとのそしりを免れず信義誠実の原則に反するものというべきであるから、原告らは、本訴において本件処分の無効を主張することは許されないと解するのが相当である。」
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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