派遣労働者の同一労働同一賃金
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。派遣業の皆さまでお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
労働者派遣法の改正
労働者派遣法が改正され、2020年4月1日から、派遣労働者に対する同一労働同一賃金待遇を行うことが派遣元事業主の義務となります。この「派遣労働者の同一労働同一賃金」とは、派遣先に雇用される通常の労働者(無期雇用フルタイム労働者、いわゆる正社員)と派遣労働者との間の不合理な待遇差を解消することをいいますが、改正労働者派遣法では、次の2つの方法のうちいずれか一つを選択してその同一労働同一賃金待遇を確保することが求められています。
① 派遣先均等・均衡方式
派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇
② 労使協定方式
一定の要件を満たす労使協定による待遇
派遣先均等・均衡方式
均等待遇とは
①職務の内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務の内容・配置の変更の範囲が同じ場合には差別的取り扱いを禁止
均衡待遇とは
①職務の内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して不合理な待遇差を禁止
均等・均衡方式における待遇改善の流れ
①【派遣先】比較対象労働者の待遇情報の提供(労働者派遣法26条7項、10項)
②【派遣元】派遣労働者の待遇の検討・決定(労働者派遣法30条の3)
③派遣料金の交渉
④労働者派遣契約の締結
⑤【派遣元】派遣労働者に対する説明
1)雇入れ時:待遇情報の明示・説明
2)派遣時:待遇情報の明示・説明、就業条件の明示
⑥【派遣元】派遣労働者に対する比較対象労働者との待遇の相違等の説明(派遣労働者から求めがあった場合)
労使協定方式
過半数労働組合又は過半数代表者と派遣元事業主との間で一定の事項を定めた労使協定を書面で締結し、労使協定で定めた事項を遵守するときは、労使協定に基づき待遇を決定することができます。
労使協定で定める事項
①労使協定の対象となる派遣労働者の範囲
②賃金の決定方法
イ)派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるもの
ロ)派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの
③派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること
④「労使協定の対象とならない待遇(労働者派遣法40条2項の教育訓練及び40条3項の福利厚生施設)及び賃金」を除く待遇の決定方法(派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く)との間で不合理な相違がないものに限る)
⑤派遣労働者に対して段階的・計画的な教育訓練を実施すること
⑥有効期間(2年以内が望ましい)
⑦労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合はその理由
労使協定方式における待遇改善の流れ
①【派遣元】厚生労働省の通知で示される最新の統計を確認
②【派遣元】労使協定の締結(労働者派遣法30条の4第1項)
③【派遣元】労使協定の周知
④【派遣先】待遇情報の提供
⑤派遣料金の交渉
⑥労働者派遣契約の締結
⑦【派遣元】派遣労働者に対する説明
1)雇入れ時:待遇情報の明示・説明
2)派遣時:待遇情報の明示・説明、就業条件の明示
⑧【派遣元】派遣労働者に対する比較対象労働者との待遇の相違等の説明(派遣労働者から求めがあった場合)
職種別の賃金統計
同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準として局長通達で示される統計には、賃金構造基本統計調査及び職業安定業務統計があります。厚生労働省から示される統計の賃金水準と対応する個々の派遣労働者の時給換算した賃金とが同等以上か否かが比較されます。
通勤手当の取扱い
次の二つの方法のうち、労使の話し合いによってそのいずれか一つを選択して決定します。
① 実費支給により「同等以上」を確保する
協定対象派遣労働者に対し、通勤手当として派遣就業の場所と居住地の通勤距離や通勤方法に応じた実費が支給される場合には、一般通勤手当(「72円」)と同等以上であることが必要です。
② 一般の労働者の通勤手当に相当する額と「同等以上」を確保する
定額支給の場合などは、一般通勤手当(「72円」)と派遣労働者の通勤手当を時給換算して比較します。
行政機関への報告
労使協定を締結した派遣元事業主は、毎年度、労働局へ6月30日までに提出する事業報告書に労使協定を添付する必要があります。また、労使協定方式の対象となる派遣労働者の職種ごとの人数、職種ごとの賃金額の平均額を報告しなければなりません。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、派遣労働者の同一労働同一賃金について説明をさせていただきました。2020年4月1日施行の改正労働者派遣法に基づき派遣労働者の均等・均衡待遇が法制化され、派遣会社には法律及び厚生労働省の策定するガイドラインに従った対応が求められます。
同一労働同一賃金を含めた労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば重大なサンクションを受けるなど大きなリスクを企業にもたらす恐れがあります。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
関連記事はこちら
労働コラムの最新記事
- 退職時の誓約書を拒否された際の対応方法について弁護士が解説
- 問題社員対応を見据えた就業規則の作り方とは?弁護士がポイントを解説!
- 社用車の自損事故での自己負担の割合とは?従業員に弁償させたい場合の流れについて弁護士が解説!
- 退職時の誓約書への署名拒否にどう対応すべきか?競業避止義務を課すための有効な方法とは
- 【コラム】退職後の競業避止義務違反を防ぐ! -競業避止契約と違約金の定め-
- 【コラム】競業避止義務に違反した退職社員に対して退職金の返還請求をする!
- 【コラム】年功序列型賃金の限界と人事制度改革
- 【コラム】同業他社への転職を防ぐ誓約書作成の勘所 - 抑止力ある競業避止義務を課すために
- 【コラム】年休取得時に支払う賃金-各種手当は「通常の賃金」に含まれるか
- 【コラム】業務上の負傷・疾病で療養・休業を続ける従業員を解雇できるか?
- 【コラム】運送業者必!歩合給の制度設計と賃金制度変更の手引き
- 【コラム】運送業者必見!残業代リスクを大幅に軽減する賃金制度設計
- 【コラム】運送業者必見!高額化する残業代請求リスクに備えあれ
- 内部調査等に従事する者の守秘義務とは?-改正公益通報者保護法
- 実労働時間がタイムカードの打刻時間どおりでない場合
- 退職した従業員から損害賠償請求をされた際の会社側の対応方法とは?事例を基に弁護士が解説!
- 雇い入れ時の健康診断は省略可能か?-定期健康診断での代用・入社後/退職予定者への対応策について!-
- 36協定の締結を労働組合に拒否された!-残業・時間外労働・結びたくないと言われた会社にとってのデメリットとは?弁護士が解説!
- 70歳までの継続雇用-改正高年齢者雇用安定法に対する企業の向き合い方
- 経歴詐称の社員を解雇したい!
- 社員が始末書を提出しない!
- 懲戒処分の社内公表はどこまで可能?社内通知に注意点・判断基準について弁護士が解説!
- 企業の採用の自由と調査の自由
- 定年後再雇用と嘱託社員~契約更新の注意点と雇止め法理~
- コロナ禍における労務対応‐在宅勤務とフレックスタイム制
- 懲戒処分には弁明の機会の付与が必要?-懲戒解雇の進め方や団体交渉への弁護士の同席について解説!
- 傭車運転手からの団体交渉‐業務請負者と労組法上の「労働者」
- 移動時間と労働時間について-出張での移動時間や勤務時間について弁護士が解説!-
- 退職勧奨はどこまでできる?-「辞めるつもりはない」とはっきり言われたら
- 有期契約社員の雇止め-契約社員から雇止めが不当だと主張されないために
- 濫用的年休申請への対処法
- 余剰人員の削減!でも中小企業が整理解雇を行う前にやるべきこと
- タイムカードでの残業代・残業申請について弁護士が解説!打刻での時間外労働の計算方法について
- 在宅勤務のための費用は会社が負担すべきか?-テレワークにおける費用負担
- 企業の街宣活動への対応方法とは?-違法となる場合・街宣車がうるさい場合は通報できる?-
- 身元保証契約には極度額の定めが必須!-民法改正への対応
- 不況時の人員削減‐中小企業のための整理解雇実行の手引き
- 派遣事業の適法性リーガルチェック‐派遣業と請負業
- 派遣先から減産による休業措置がとられたら‐休業時に派遣会社がとるべき対応
- 団体交渉で休業補償100%を求められたら‐休業と休業手当
- テレワーク導入の手引き‐弁護士がすすめるテレワーク規定の要点と成果を上げるための4つの視点
- 経営上の理由により従業員を休ませる場合の対応‐休業補償と政府による休業支援策
- 労働者派遣契約-契約事項と情報提供義務
- 労働者派遣事業の許可‐派遣事業を始める方へ
- パワハラ対策が義務化!-パワハラ防止法
- 労働者の健康管理-医師による面接指導義務
- 社内に労働組合ができたらどう対応するか‐労働組合の要件
- 労基法改正-新たな残業規制
- 年5日の年次有給休暇の取得が義務化
- 経営者必見!定額残業代制に関する重要判決と時代の変化への対応
- 経営者必見!定額残業代制が否定された場合の三重苦
- 労災事案の賠償請求に対する使用者側対応と労災保険
- 外国人労働者への労働関係法令の適用と社会保険
- 不法就労の防止と対応
- 外国人技能実習生の受入手続
- 派遣労働者への労働条件の通知と就業条件の明示
- 労働者派遣期間の制限と適正な運用
- 相次ぐ技能実習認定の取消し‐外国人材受入れ企業はより一層のコンプライアンスを
- 派遣契約の終了と派遣労働者の処遇
- 「残業代込みの給料」-定額残業代制の留意点
- 季節により繁閑がある場合は1年単位の変形労働時間制で時短を
- 予期しない残業代請求を受けないための就業規則の規定と運用
- 賞与の支給を適正に定める就業規則のポイントと注意点
- 就業規則における懲戒の定め方について解説!~出勤停止の期間について~
- 残業代に含まれる手当とは?計算方法について弁護士が解説-基礎賃金に含まれる手当とは?家族手当は含まれる?残業手当・固定残業代について弁護士が解説!-
- 問題社員対応事例③(従業員に損害賠償を請求したい!)~モンスター社員対応~
- 変形労働時間制は運用が鍵!
- 行き詰った団体交渉を打破する‐あっせん手続の活用
- 残業代請求を和解で解決する場合の注意点-和解と賃金債権放棄
- 労働委員会への救済申立てに対する対応
- 降格処分はこう使う!
- 無期転換ルールへの対応-有期契約社員の更新、雇止めと就業規則の改定
- 日常業務に関する事項と団体交渉
- 労働条件の不利益変更-就業規則の修正・変更は自由にできるか?
- 就業規則がなければできないこと
- 従業員への貸付金の返済金を賃金から適法に控除する方法
- 残業許可制でダラダラ残業を防ぐ!
- それって労働時間にあたるの?-手待ち時間の労働時間該当性
- 就業規則に潜む危険-雛形をそのまま使っていませんか?
- メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任
- 円満に内定取消を行う方法
- 求人票記載の給与額と契約上の給与額
- 経営事項と団体交渉
- 賞与(ボーナス)を巡る問題と団体交渉
- 会社を守る36協定の締結方法
- 残業単価の計算方法とは?-時間単価・労働時間について弁護士が解説!-
- メンタルヘルス不調社員対応のポイント
- 使用者のためのマタハラ、育児・介護ハラスメント対応の手引き
- 「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」
- 残業時間の立証-使用者による労働時間の適正把握義務
- 管理職と残業代請求-管理監督者とは
- 残業代未払いに対する罰則とは?残業代請求は拒否できる?ー遅延損害金についても弁護士が解説!
- 問題社員対応事例②(従業員が会社のお金を横領した!)~モンスター社員対応~
- 問題社員対応事例①(ローパフォーマー社員を辞めさせたい!)~モンスター社員対応~
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き③(パワハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き②(セクハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き①(基礎知識編)
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part3
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part2
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part1
- 懲戒処分を行う場合の留意点
- 退職金の減額・没収・不支給
- 能力・適格性が欠如する問題社員対応のポイント
- 雇止めと団体交渉
- 解雇無効についての団体交渉
- 未払い残業代請求についての団体交渉
- 団体交渉を有利に進める方法
- 退職した元従業員との団体交渉
- 団体交渉に弁護士を入れることのメリット
- 団体交渉申入書が届いたら
- フレックスタイム制の活用法
- 働き方改革③-高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)とは
- 働き方改革②-同一労働同一賃金とは
- 働き方改革①-新しい残業規制とは