就業規則に潜む危険-雛形をそのまま使っていませんか?

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。就業規則の作成・変更でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

就業規則が会社を守る

就業規則とは、会社と労働者との関係を規律するルールであり、雇用契約の契約内容に相当するものです。企業は、賃金や労働時間などの労働条件を統一的に設定することで効率的な事業経営を行うことができるようになり、また職場規律が明記されれば労働者に対する指揮命令が容易になり、これに違反する者への制裁等が可能になります。
  
このように重要な機能を営むものが就業規則ですから、いざ労働者との間で労働条件に関してトラブルが生じ、あるいは職場規律に違反するような問題社員への対応の場面において、就業規則がない場合、使用者に不利となり、あるいは対応しようにも身動きがとれなくなってしまいます。労働者との契約内容を明確にするとともに、企業秩序を定立・維持して円滑な企業経営をするためには、就業規則を定めることは必要不可欠といえます。

作り込まれていない就業規則はかえって危険

もっとも、就業規則を作ってさえおけばそれでいいというわけではありません。職場のルールであるところの就業規則は、当然ながら、労働者のみならず使用者をも拘束します。したがって、何も考えずにどこかの就業規則の書式を流用して使用していた場合、自社にはまったくあてはまらない、あるいは意図せず不利な内容となっていたとしても、その就業規則の定めに企業は従わなければならなくなります。厚生労働省が公表しているモデル就業規則をそのまま使っている、あるいはどこかのインターネットのサイトからダウンロードしたものをそのまま使っているという企業は要注意です。それらを基礎に据えることは良いですが、それぞれの企業の実情に合わせてカスタマイズすることは不可欠です。就業規則もその定め方を誤ると、その存在がかえって企業を苦しめることになります。
  
就業規則は、「作り込み」が非常に大切なのです。

就業規則の最低基準効

よくある誤解が、「うちは雇用契約書で労働条件を定めているから就業規則よりも個々人ごとの契約の方が優先されるはずだ」というものです。この誤った理解が、しばしば企業に不測の事態をもたらします。
  
労働契約法12条は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則の定める基準による。」と規定しています。つまり、就業規則には、そこに定められる労働条件が各事業場における強行的な最低基準として労働契約を直接規律する効力(最低基準効)があることになります。

最低基準効の例1-定年退職

たとえば、就業規則に「定年退職年齢は65歳とする」と規定されていた場合に、中途採用者Aには早く辞めてもらおうと考えて「60歳をもって定年退職とする」という内容の労働契約書を交わしていたとします。この場合、就業規則の定めよりも不利な内容である「60歳をもって定年退職とする」との労働契約書の定めは無効となり、中途採用者Aも就業規則の内容どおり定年退職年齢は65歳となります。

最低基準効の例2-通勤手当

たとえば、賃金規定に「通勤交通費は全額支給する」と規定されていた場合に、中途採用者Bの通勤交通費の金額が想定していたものよりも高かったため「通勤交通費は月額2万円を限度とする」という内容の労働契約書を交わしたとします。この場合、就業規則の定めよりも不利な内容である「通勤交通費は月額2万円を限度とする」との労働契約書の定めは無効となり、中途採用者Bにも就業規則の内容どおり通勤交通費全額を支給しなければならなくなります。

就業規則は周知してはじめて効力をもつ

せっかく作成した就業規則も、労働者への周知を怠っていた場合その効力が否定されるため注意が必要です。
法は、就業規則が労働契約の内容を規律するための要件に、使用者が就業規則を「労働者に周知させていたこと」を定めています(労働契約法7条)。会社として隠しているつもりはなくても、就業規則の重要性を理解していなかったがために、あるいは関心がなかったがために周知を怠り、労働者から「会社の就業規則は見たことがありません」「就業規則の内容について説明を受けたことはありません」などと言われてしまうことがあります。このような場合、たとえ就業規則に基づき懲戒処分を行った場合や転勤命令を行った場合もこれらが無効となり、会社の主張が根底から崩れてしまいかねません。
  
就業規則は作成しておけばよいというものではありません。その内容をしっかりと作り込む必要があるとともに、それを労働者に周知してはじめて企業を守る就業規則となるのです。
  
なお、就業規則の内容が労働契約の内容として採用の過程で労働者に説明され、それに対する同意が得られた場合には、就業規則の内容は契約内容そのものとして効力を取得します(労働契約法6条)。このような対応ができている企業では労働者とのトラブルが生じた際も就業規則の周知が問題となることはありませんが、トラブルを防ぐためにも就業規則は周知しておくことが大切です。

就業規則の周知義務と罰則

使用者には、労働者に対し、作成した就業規則または変更した就業規則を周知すべきことが、労働基準法によって義務付けられています(労基法106条1項)。使用者が同条に違反して周知をしなかった場合には、30万円以下の罰金に処せられ得ます(労基法120条1号)。

就業規則の周知方法(労基則52条の2)

①常時各作業場の見やすい場所へ提示し、又は備え付けること
②書面を労働者に交付すること
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

労務管理には専門家の支援を

ここでは就業規則作成の重要性について説明をさせていただきました。就業規則に関しては、このほかにも労働者からの意見聴取や労基署長への届出、あるいは就業規則の具体的な定め方など、法的事項を踏まえて検討を行い、使用者が予期しない不利益を被らないように適切に作成・変更・運用をする必要があります。
  
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば経営を揺るがしかねない大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。


 

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