【コラム】運送業者必見!高額化する残業代請求リスクに備えあれ

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

 

運送業者の残業代請求リスク

残業代請求について

労働者による使用者・企業に対する未払残業代(割増賃金)請求は広く行われていますが、中でも運送業者に対する請求はことのほか多い傾向にあり、しかも運送業者に対する請求額は高額になりがちであるという特徴があります。その理由としては、大きく次の二つがあると思います。

必然的に発生する時間外労働

トラック運送事業は典型的な労働集約型産業であり、収益を得るためには長時間にわたる稼働が必要となりがちです。特に長距離輸送の場合には、輸送時間が法定労働時間(1週40時間、1日8時間)に収まらないことが多く、時間外労働が必然的に発生し得ます。統計上、トラックドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較して、大型トラック横転者で432時間(月36時間)長く、中小型トラック運転者で372時間(月31時間)長いという結果が出ています(公益社団法人全日本トラック協会発行「日本のトラック輸送産業現状と課題2022」)。

時間外労働が長時間にわたり発生するため、適切に割増賃金の支払が出来ていなかった場合、未払残業代の金額はどうしても高額となってしまいます。

人手不足とドライバー視点の給与体系

人手不足は運送業界に限りませんが、運送業界では特に顕著な傾向があります。40歳未満の若年就業者数は全体の24.1%である一方、50歳以上が45.2%を占めるなど高齢化が進んでおり、若い労働者の確保が課題となっています(前掲「日本のトラック輸送産業現状と課題2022」)。

ここで問題となるのが、採用にあたって、応募を得られやすいようにするために月給額を良く見せる給与提示をしてしまうケースが多いことです。もちろん、就労実態に対する提示給与が法に適合していれば問題ありませんが、労働基準法を無視した賃金制度となっていることが散見され、旧態依然の給与条件が未払残業代を発生させる温床となっています。

経営者・使用者側に法違反の認識はなく、むしろドライバーに良かれと思って善意で提示していることがほとんどではありますが、残念ながらそういった認識は司法の場では通用しません。意図せずして、しかも経営者側にとっては納得しがたい未払残業代を発生させないためにも、賃金制度の設計は特に注意が必要な事項といえます。

残業代の高額化と頻発する未払残業代請求

残業代は今後増々高額化していくとともに、労働者から使用者に対する未払残業代請求も頻発化していく可能性があります。

残業代の高額化
賃金請求権の時効が3年に延長

未払残業代請求権の時効は、これまで2年とされていました(労基法115条)。これが、令和2年4月1日施行の改正民法により、3年へと伸長されることとなりました。したがって、令和2年4月1日以降に発生する賃金の消滅時効は3年となります。

これまで、未払残業代として請求される未払賃金は2年分に限定されていましたが、これが1年分増えることとなりますので、単純に考えると請求額が従来の1.5倍の規模になる可能性があります。

60時間超の割増率が50%へ引上げ

1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合の60時間を超える時間外労働については5割以上の率とされていますが(労基法37条1項但書)、これまでこの割増率は中小企業には適用が猶予されてきました。この猶予措置は働き方改革関連法により廃止されることとなり、令和5年4月1日より中小企業にも適用されることとなります。

深夜労働と併せれば割増率75%のインパクトがあり、労働時間の管理を厳格に行わなければ、想定を超える金額の割増賃金が発生する恐れがあります。

未払残業代請求の頻発化
社会環境の変化

長時間労働の是正を一つの柱とする働き方改革が推進され、長時間労働に対する風当たりが強まっています。労働者側も長時間労働に対して敏感になっており、働き方に対する疑問から残業代に対する関心も高まっています。

情報の拡散

インターネットの普及により、調べたいことはすぐにネットで調べられる時代になっています。このため、残業代に対する関心の高さからも、労働基準法をはじめとする労働関係法規について、使用者に比べて熱心に調査をする労働者が増えています。

弁護士・ユニオンによる支援

上述したように、運送業者に従事するトラックドライバーについては、慢性的な長時間労働により割増賃金が発生する時間外労働が多くなりがちであり、また、使用者側が意図せずして労基法に適合しない給与条件としてしまっていることが多いため、高額な未払残業代が発生しやすい傾向があります。このため、労働者側に立つ弁護士やユニオンなどが、トラックドライバー向けの未払残業代請求支援を行うべく、積極的な広告宣伝活動をするなど請求活動が活発化しています。

使用者側としては、こうした請求を受けた際に防御活動をすることは当然重要ですが、請求を受ける以前から予防戦略を図り、未払残業代が発生しない賃金制度を設計するなど賃金体系や労働時間管理の改革を実行していくことが大切といえます。

残業代請求リスクをなくすための賃金制度設計を

ここでは、高まる運送業者に対する未払残業代請求リスクを説明させていただきました。

企業の労働関係法令の遵守への風当たりは強まる一方ですが、残業代の支払いは当然すべき企業の責任です。ここで大きな問題は、企業としては残業代を「支払っているつもり」である一方、その支払方法が労働基準法を無視したものであるために、「未払い」と認定されてしまうという認識と事実の不一致です。こうした未払残業代請求は「支払っているつもり」であった経営者・企業にとっては容易に納得しがたいものであり、感情的にもなりがちです。

労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い賃金・残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。これらのリスクは、労働基準法をはじめとした労働関係法規をしっかりと理解した上で、適切な賃金制度設計をすることで防ぐことが可能です。労務管理については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、法改正や判例動向に対応した制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。

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