労基法改正-新たな残業規制

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働き方改革と新残業規制

政府が進める「働き方改革」によって、時間外労働に対する規制にもメスが入れられることとなりました。事実上上限なく青天井で残業をさせることができていた無規制にも等しい労働時間法制を改め、長時間労働=健康障害=過労死等という悪の根源とも言われるようになった長時間労働を是正することにその意図があります。
  
この新しい時間外労働の上限規制は2019年4月1日から施行されていますが、中小企業への適用は2020年4月1日からとなります。中小企業においても、もはや待ったなしに新残業規制に合わせた労務管理を行うことが求められます。
  
なお、働き方改革と新残業規制については、【働き方改革①-新しい残業規制とは】でも詳しく解説していますので、併せてご参照いただければと思います。

残業規制が「告示」から「法律」に格上げ

告示による時間外限度基準

労働基準法は、1週40時間、1日8時間という最長労働時間についての原則を定めていますが(労働基準法32条)、その36条によって、労使の間で協定(いわゆるサブロク協定)を結び行政に届け出ることによってこの法定労働時間を延長することを認めています(労働基準法36条)。
  
36協定によって労働時間を延長できるといっても、何も指針がないというのではさすがに規制の意味がありません。そこで、36協定によって延長できる労働時間については、「労働基準法36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平10.12.28 労告154)が定められていました。この限度基準では、1か月の時間外労働の上限時間は45時間、1年間の時間外労働の上限時間は360時間とされています。

事実上は青天井

限度基準が定められているとはいえ、それは法律で定められたものではありません。法律でないために、限度時間(1か月45時間、1年360時間)の基準はあっても、その基準には罰則等による強制力がありませんでした。また、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付の36協定を締結することができ、特別条項によって青天井の限度時間を設定することができました。
  
このように、法的強制力がなく、事実上青天井となっていた時間外労働の限度基準を法制化し、罰則規定を設けて強制力を持たせることとなったのが、働き方改革の名のもとに行われた残業規制に関する法改正です。

新しい時間外労働規制-法改正の要点

法改正による新しい時間外労働規制は、これまで時間外限度基準告示によって定められていた内容をベースとしながら、それに修正を加えて長時間労働の抑止を強化しています。新残業規制による時間外労働の限度時間は次のとおりです。

原則(労基法36条3項、4項)

・1か月  45時間
・1年  360時間

例外‐特別の事情がある場合(労基法36条5項、6項)

・1か月 100時間未満
・1年  720時間
・2か月ないし6か月間の1か月あたりの平均 80時間以内
・月45時間を上回る回数は年6回まで

限度時間の上限(原則)‐労基法36条3項、4項

時間外労働の原則的な上限は、従来の時間外限度基準告示の内容から基本的には変更されていません。
  
改正労働基準法は、「労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る」(労基法36条3項)と規定したうえで、その限度時間について、「限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間」(労基法36条4項)と定めました。
  
したがって、限度時間の上限は、従前どおり、1か月45時間、1年360時間となります。なお、1年単位の変形労働時間制において3か月を超える期間を対象期間と定めて労働させる場合には、1か月42時間、1年320時間が限度時間となります(労基法36条4項)。

限度時間の上限(例外)‐労基法36条5項、6項

この原則としての限度時間は「通常予見される時間外労働」を想定したものですが、事業においては「通常」とは異なる「臨時的」「特別的」な事情により時間外労働をさせる必要性が生じることは否定できません。そこで、法律においても、こうした事情がある場合に原則的な限度時間を超えて時間外労働をさせることができることを許容しています。従来の時間外限度基準告示との違いは、この例外に対して様々な縛りをかけ、その縛りに罰則に裏付けられた強制力を持たせたことです。限度時間の例外に対し実質的な規制を設けたことが、法改正の最も重要な点となります。

限度時間の例外に対する規制4項目

① 1か月における時間外労働及び休日労働は100時間未満(労基法36条6項2号)
② 1年について時間外労働できる時間は720時間(労基法36条5項)
③ 2か月ないし6か月のそれぞれの期間における時間外労働及び休日労働の1か月あたりの平均時間は80時間以内(労基法36条6項3号)
④ 月45時間を超えて時間外労働をさせることができる月数は、1年について6か月以内(労基法36条5項)

時間外労働と休日労働

時間外労働も休日労働も一般的には「残業」と表現されるものですが、法律上は分けて考える必要があります。そのため、少しややこしいですが、例外に対する規制4項目においても、規制の対象が「時間外労働」だけなのか、「休日労働」も含まれるのかは注意して区別する必要があります。
  
上記4項目のうち、休日労働が含まれるものは①の100時間規制と、③の80時間規制です。つまり、限度時間の最大である1か月100時間未満という規制は、時間外労働(労働時間の延長)と休日労働を合せて計算されることになります。

上限規制の法的強制力-違反に対する罰則

告示によって示されていた時間外限度基準には、これに違反した場合の罰則規定がありませんでしたが、法改正により、上限規制違反に対する罰則が新たに設けられました。
  
上限規制(労基法36条6項)に違反した場合には、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」(労基法119条)が課せられ得ます。この罰則規定は、事業主はもちろんのこと、労働時間を管理する責任者に対しても適用されるところですので、労務管理者は厳密な労働時間管理を責任もって行う必要があります。

適用猶予業種

以上の新残業規制に対しては、適用の猶予が認められている業種があります。

適用猶予・緩和業種(労働基準法附則139条~142条)

・工作物の建設の事業
・自動車の運転の業務
・医業に従事する医師
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業
  
これらの業種においては、その業務の特殊性から、基本的に法施行から5年間、時間外労働の上限規制の全部又は一部が適用されないこととなっています。もっとも、これらの業種についてもその適用が猶予されているに過ぎませんので、早めに法改正による時間外労働の上限規制に適合するような労務管理を実現していくことが望ましいといえます。

労務管理には専門家の支援を

ここでは、中小企業にも2020年4月1日から適用される新しい残業規制について説明させていただきました。
  
企業に対する労働関係法令のコンプライアンス確保への要請は強まる一方であり、企業は法改正に対応してより一層労務管理を強化することが必要となっています。
  
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い賃金・残業代請求あるいは労災事件となって大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、法改正や判例動向に対応した制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。


 

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