残業単価の計算方法とは?-時間単価・労働時間について弁護士が解説!-
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
基礎時給-「通常の労働時間の賃金」
いわゆる「残業代」と一般的に呼ばれている割増賃金が発生するのは、
①法定時間外労働(労基法37条1項)
②深夜労働(労基法37条4項)
③法定休日労働(労基法37条1項)
の3つのケースです。
そして、それぞれの労働(残業)をさせた場合には、時間外労働では25%、深夜労働では25%、そして法定休日労働では35%の割増率で割増した賃金を使用者は労働者に対して支払う必要があります。
では、この割増率を適用する基準となる賃金額(時間単価)はどのように決まるのか?というのがここでのテーマです。割増賃金の計算の基礎となる「通常の労働時間の賃金」(以下「基礎時給」といいます。)の計算方法を解説していきます。
賃金形態で異なる基礎時給の算定方法
割増賃金の具体的な算定方法については、労規則19条1項に定めが置かれています。同規則は、労働者に支払われる賃金の性質に応じて、それぞれ次のように算出した基礎時給に、法定時間外労働時間数、深夜労働時間数、法定休日労働時間数を乗じて割増賃金の金額を算定すると規定しています。
■時給制の場合(労規則19条1項1号)
時間によって定められた金額(時給額)。
■日給制の場合(労規則19条1項2号)
日給の金額を、一日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額。
■月給制の場合(労規則19条1項4号)
月給の金額を、月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額。
■出来高払制(歩合制)の場合(労規則19条1項6号)
賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間)において、出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額。
月給制の計算方法
多くの企業では、正社員について、「1か月○○万円」という月給制を採用していると思います。そこで、ここでは月給制の場合の基礎時給の算定方法について詳しく見ていきます。
■月によって異なる所定労働時間数
月給制の場合は、上記のとおり、月給の金額を月における所定労働時間数で除して基礎時給を算定します。もっとも、一口に「1か月」といっても、通常は月によって所定労働時間数が異なってきます。1か月が30日の月もあれば31日の月もありますし、土・日・祝が休日の会社では、祝日の有無によっても労働日数は変動します。一月に20日間働いてもらう月もあれば、18日間しか労働日がない月もあるでしょう。このように月によって所定労働時間数が異なることから、基礎時給を一月ごとに区切って計算してしまうと月によって基礎時給が異なってしまうことになります。同じ1時間の残業をしても、月によって残業代の金額が高くなったり低くなったりするのはいささか不合理です。そこで、労規則では「月平均所定労働時間」という考え方を取り入れています。
■月平均所定労働時間
これは、一言でいえば、月によって実際の所定労働時間は異なるから、1年間の平均値で考えましょう、というものです。つまり、1年間の所定労働時間の合計を12で割って、その年の「1か月あたりの所定労働時間の平均値」を計算し、それをもとに時間単価を算出する、というものです。
月平均所定労働時間 = 一日あたりの所定労働時間数×年間の所定労働日数÷12
年間の所定労働日数は、これも年によって異なり得ますので、会社カレンダーなどで確認して計算します。
計算例
たとえば、2018年で見てみた場合、「土曜、日曜、国民の祝日が休日」と定められている会社では、年間の所定労働日数は248日となります。
この会社の一日の所定労働時間が8時間であれば、248×8=1984時間が年間所定労働時間数です。そして、これを12か月で割れば、月平均所定労働時間数が165時間と算出することができます。
ここで、ある社員の月給が30万円だとすると、基礎時給は30万円÷165時間で1818円となります。
残業代のジレンマ
一日の所定労働時間を8時間としている会社は多いと思いますが、これをたとえば7時間としたり、夏季休暇や年末年始休暇を取り入れ、あるいは創立記念日を休日と定めたりするなど、従業員への配慮等から労働時間を減らし、休日を増やすほど、会社にとっては残業代の負担が増えるという一種のジレンマがあります。一日または一週の所定労働時間を短縮すること、または休日を増加させることは、月の所定労働時間数を減少させることになりますので、割増賃金の算定にあたっての基礎時給が上昇してしまうためです。
賃金の額や所定労働時間等の基本的労働条件を決めるにあたり、こうした側面からも検討しておくことは経営上有益となります。
なお、たとえば、月給の金額だけで見れば同業他社と比べて低いような場合でも、休日が多く設定されていれば、基礎時給は同業他社よりも高いということがあります。採用活動においては、こうした点を会社の魅力として効果的に伝えることも考えられます。
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労務管理には専門家の支援を
ここでは「残業代」の基本的な算定方法について説明をさせていただきました。残業代を巡る問題では、このほかにも「労働時間性」、「割増賃金の基礎となる賃金」、「固定残業代制度」あるいは「労働時間規制の適用除外」など、様々な法的事項を踏まえて対応を検討する必要があり、使用者が予期しない、あるいは意図しない残業代が発生しないように適切に労務管理をする必要があります。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や社会保険労務士などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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