懲戒処分を行う場合の留意点

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

問題社員に対する懲戒処分

企業が行う社員に対する懲戒処分は、その名の示すとおり従業員の企業秩序違反行為に対する「制裁罰」です。企業は、無断欠勤・遅刻、業務命令違反や横領・背任行為などに及んだ従業員に対して、企業の秩序・利益を維持するために懲戒処分を行うべき場合がありますが、他方で、労働者にとっては重大な不利益を受ける制度であるともいえます。そのため、「懲戒処分」といっても使用者の完全な自由裁量で行えるものではなく、ここでも労働者保護の視点からの法規制が及んでいるにことに留意して、適切かつ効果的にこれを行う必要があります。

懲戒処分の種類

懲戒処分の手段と内容は概ね次のものが挙げられます。

(1) 譴責・戒告

「譴責(けんせき)」とは、「始末書を提出させて将来を戒めること」をいいます。「戒告」は、将来を戒めるだけで始末書の提出を伴わない場合に用いられることが一般的です。

(2) 減給

一時的な賃金カットです。一見絶大な力をもった懲戒処分のようにも思いますが、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」ことが労働基準法91条に定められており、減給」には実際上大きな制限が加えられていることには注意が必要です。なお、一つの懲戒事由に対してできるのは一度の減給だけですので、賃金総額の10分の1に至るまで平均賃金1日分の半額の減給を何度にもわたってできるわけではありません。

(3) 降格

役職・職位・職能資格などを引き下げる処分です。ここでいう「降格」は懲戒処分としての性格を持つものですので、人事権の行使によるものとは区別する必要があります。

(4) 出勤停止

労働者の就労を一定期間禁止することをいいます。「自宅謹慎」や「懲戒休職」などと呼ばれることもあります。出勤停止期間中の賃金は支給されないことが通例ですので、たとえば出勤停止5日間とした場合、週休2日制の会社であれば約4分の1の賃金がカットされるのと同じですから、かなり厳しい処分といえます。

(5) 諭旨解雇

懲戒解雇事由がある場合であっても、酌量的に、従業員に退職願または辞表の提出を勧告し、自ら退職するよう促すものです。所定期間内に勧告に応じない場合は、懲戒解雇に処することになります。

(6) 懲戒解雇

懲戒解雇は、解雇予告なくして即時に従業員を解雇するもので、まさに懲戒処分の極刑といえます。退職金不支給が伴うことも多く、再就職にも重大な影響を及ぼします。

就業規則への懲戒規定の定め

懲戒処分は企業秩序違反者に対し使用者が行う特別の制裁罰ですので、これを行うためには、その事由と手段を就業規則に明記しておくことが必要です。
  
通常は、「第○条 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨退職または懲戒解雇に処する」などと規定し、懲戒事由を複数列記します。そして、あらゆる懲戒事由をすべて列記することは事実上困難ですから、最後に「その他この規則および諸規定に違反し、または前各号に準ずる行為を行ったとき」などの包括条項を定めておきます。この包括規定があれば、懲戒事由が就業規則に定められていないから処分できない、ということはまず起きないでしょう。
  
懲戒解雇を行う場合に、退職金についても不支給とするのであれば、退職金規定などにその旨を明記しておくことも必要です。
  
なお、出勤停止の定めにおいて、これを「最長1か月」など長期間の幅を持たせると、どういった事由があれば1か月の出勤停止となり、どういった事由であれば1週間となるか、など、裁量がありすぎて実際上使いづらいことが多いですから、このあたりの規定の仕方にも注意をした方がいいでしょう。

始末書を提出しない従業員への対応

譴責(けんせき)は、「始末書を提出させて将来を戒めること」をいいますが、なかには始末書を提出しない手ごわい従業員がいることもあります。始末書を提出しない従業員に、無理やりその提出を強制することはできません。無理強いをすると、かえって人格権の侵害などを理由に会社側が賠償責任を負わされることにもなりかねません。始末書の提出を命じているのですから、懲戒処分は既に行使したことになります。始末書不提出の事実は、その後の昇格・降格、異動、賞与などの人事に関する裁量の中で対処すれば良いでしょう。

弁明の機会を与えるべし

懲戒処分は、「制裁罰」であり、あたかも刑事裁判で「懲役刑」や「罰金刑」といった刑罰を科すことと同様な性格を持つものですから、本人にも弁明の機会を与えることが必要です。刑事裁判では、被告人には弁護人がつき、必ず反論をする機会が与えられていることと同様です。使用者は、従業員を懲戒処分に処するにあたっては、必ず本人の言い分を聞く機会を設ける必要があるのです。
  
こうした弁明の機会を付与しているか否かは、懲戒処分の有効性が争われたときには必ずと言っていいほど問題になりますので、注意が必要です。
  
また、就業規則において、懲戒処分をするには役員らで構成する「懲罰委員会」や「賞罰委員会」を開催するなどと明記されている場合には、これを開催したうえで懲戒処分を決定する必要があります。懲罰委員会の開催は必須の手続きではありませんので、そうした合議体を組成して対応する余裕のない場合には、就業規則にこのような定めを置かないようにしなければいけません。

懲戒処分は文書で行う

口頭による処分では、それが従業員のどのような行為に対する処分なのか、あるいは単なる指導・注意なのか制裁罰としての懲戒処分なのか、など、あいまいな点を残すことになります。反省をみせない従業員など、そもそも問題社員と思われる従業員の場合、後々懲戒処分の有効性をめぐって争われる可能性がありますので、会社としてはそうしたスキをつくらないようにすべきです。  
懲戒処分は、「いつ、どこで、誰が、何を、どうした」など、懲戒の対象となる事実を具体的にあげたうえ、「懲戒処分通知書」などの文書によって行います。

処分は相当な範囲でのみ行える

使用者が、労働者を懲戒することができる場合であっても、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効」となります(労働契約法15条)。いわゆる懲戒権濫用法理と呼ばれるもので、懲戒処分は、たとえ懲戒事由があったとしても、その行為の性質・態様、被処分者の勤務歴などに照らして、相当な程度でのみ行うことができます。つまり、その懲戒処分は「重きに失しないか」ということが審査されているといってもいいでしょう。
  
たとえば、社長に対する暴言があったとしても、それでいきなり懲戒解雇は重過ぎると考えられますし、宴席でなされたセクハラ言動について、それを理由に直ちに懲戒解雇に処するというのも、やはりその量刑は重過ぎると評価され得るでしょう。
  
また、これまで会社のパソコンを使って就業時間中に私用メールを行ってきた社員がいた場合に、これを黙認あるいは簡単な注意だけで済ませてきたのに、ある従業員に対してだけ「譴責」などの制裁罰を科すことも、相当性を欠くと判断され得ます。同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同じ程度であるべきという「公平性」も求められるからです。これまで事実上黙認してきた服務規律違反行為に対して懲戒を行おうとする場合には、今後は懲戒処分をもって厳格に臨むことを、従業員らへ事前に十分警告しておく必要があります。


 

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