就業規則における懲戒の定め方について解説!~出勤停止の期間について~

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。就業規則の作成・変更でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

規律違反に対する制裁‐懲戒処分

職場規律に違反し、秩序を乱すものに対しては、企業は制裁罰としての懲戒処分を行うことができます。ルール違反者に対して制裁罰を加えることは、多数の労働者を組織し円滑に企業運営を行っていくためには必要なことであり、それを適切に行使する、あるいは行使できる体制が整備されていることは違反行為を抑止することにもつながります。

そのため、従業員によって企業秩序違反行為がなされた場合には、適時適切に懲戒処分を行えるように、企業は「使いやすい」懲戒権を備えておくことが大切です。

就業規則への「懲戒権」の定め

企業は制裁罰としての懲戒処分を従業員に対して行使できるといいましたが、使用者と労働者の関係性から当然に企業にその権限が付与されるというわけではありません。やはり使用者と労働者は雇用契約によってその権利義務が定められているという契約法の観点から考えれば、特別の処分である懲戒処分を行うためには雇用契約上の根拠が必要です。つまり、企業が懲戒権を行使し、懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒事由と手段を明記しておくことが必要となります。

労働基準法は、「制裁」の制度を設ける場合には、その種類及び程度に関する事項を就業規則に定めることを要求しています(労基法89条9号)。そのため、就業規則のどんな雛形であっても、「懲戒」に関する定めがないものはない、といってもよいでしょう。ただし、ここで大事なのが、その定めで、「いざというときに適切な懲戒処分を行えるか」という視点です。企業秩序を乱す問題社員が出てきた時に、「どんな処分ができるのか分からない、該当する条文がない」「懲戒解雇にしたいのに、懲戒事由に記載がない」では困ります。企業秩序違反行為がなされた場合に適時適切に懲戒処分を行えるように、「使いやすい」懲戒の定めを就業規則に用意しておくことが大切です。


顧問契約について

使用者側弁護士がおすすめする懲戒の定め方

懲戒事由はまとめて記載すべし

よく見かける就業規則の定めに、懲戒処分の種類ごとに懲戒事由を定めているものがあります。あるいは、軽い懲戒処分と重い懲戒処分をグループ化し、グループごとに懲戒事由を定めているものもあります。こうした定めは、どのような行為をすればどのような処分となるか、という点が明確になっているという点で予測可能性を高め、従業員にとってはメリットがあるかもしれませんが、実際上企業にとっては非常に使いにくいというのが実感です。

たとえば、「過失により企業秩序を乱し、会社に損害を与えたとき」には「譴責又は減給」に処すると規定し、「故意により企業秩序を乱し、会社に損害を与えたとき」には「出勤停止、諭旨解雇又は懲戒解雇」に処すると規定されていたとします。確かに過失という不注意によって行われたものと、悪意ある故意により行われたものとでは帰責性や違法性の点で差があることは否定しません。もっとも、過失にも重大性の程度には幅がありますし、会社への損害の程度も数万円、数十万円の場合から多いときには億単位に及ぶことすらあり得ます。会社としては、確信犯としての「故意」を立証することは難しくても、ルール違反の程度や損害の大きさ、あるいは従業員の反省や改善可能性等を考慮して、もはや社員として企業内に残しておくことを許容できないと考えた場合に、このような規定では諭旨解雇や懲戒解雇を行えない、という事態にもなりかねません(たとえ、「前各号に準ずる行為があったとき」というような包括条項があったとしても、懲戒事由と手段との関連性に疑義が生じる可能性はぬぐえません。)。これはあくまで一例ですが、こうした事態を避けるためにも、懲戒処分の種類ごとに懲戒事由を定める方法はできるだけ避けるべきだと思います。

そこでおすすめする定め方は、懲戒事由をまとめて包括的に定め、懲戒処分の種類とは対応させないで定める方法です。このような定め方をすることによって、懲戒の対象となる規律違反行為があった際に、個別の事案ごとの背景事情や動機等の様々な要素を勘案したうえで、会社としてもっとも妥当だと考える処分を行うことが可能となります。

【就業規則規定例】

第○○条(懲戒の種類及び程度)
懲戒の種類と程度は次のとおりとする。
① 譴責
始末書をとり、将来を戒める。
② 減給
1回の額が平均給与の1日分の半額、総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1以内で減給する
③ 出勤停止
・・・・・
④ 諭旨退職
・・・・・
⑤ 懲戒解雇
・・・・・

第○○条(懲戒事由)
次の各号の一に該当する場合は、前条に定める懲戒処分を行う。
① 経歴を偽り、その他不正の手段を用いて雇用されたとき
② 正当な理由なく無断欠勤したとき
③ ・・・・・
④ ・・・・・
⑤ 第○○条に定める服務規律に違反したとき
⑥ その他この規則もしくは諸規定に違反し、又は前各号に準ずる行為があったとき

「服務規律」とも連動させる

就業規則の中には、「服務規律に違反したとき」を懲戒事由に定めていないものも見受けられます。せっかく服務規律は服務規律で詳細に規定してあるのですから、その規律に違反した場合が懲戒対象となることを明確にしておくべきでしょう。これが懲戒事由に列記されていない場合、対象となる行為がどの懲戒事由に該当するのか判断するのに苦労するうえ(最後は包括条項で対応しますが)、懲戒処分の説得力を減退させる面も否定できませんので、服務規律とは連動させるようにしましょう。

「出勤停止」の期間は長くしすぎない

懲戒処分の一つに出勤停止があります。多くの企業では懲戒の種類としてこれが挙げられているものと思いますが、この出勤停止の期間は何日以内と定めるのが良いでしょうか。これは使用者側弁護士によっても意見が分かれるところではないかと思いますが、裁量の幅をもたせて「30日以内」とするのが望ましいとか、逆に短い方がいいという意見もあります。

私としては、期間は短く「7日以内」や「10日以内」程度が適当ではないかと考えています。「30日以内」などの長期間の処分が可能となると、裁量があるのは良いですが、どのようなケースだと出勤停止10日とし、あるいは20日とするのが妥当かなど、かえって判断に困ることになります。そもそも、懲戒処分の種類として「譴責」、「減給」や「諭旨退職」など複数の手段が用意されており、どの処分を行うかということにも企業が裁量を有しているのですから、裁量を増やすということはそれだけ検討すべき事項が増えることを意味します。

そのため、出勤停止の期間は、逆に裁量の余地を狭めて、短くすることがおすすめです。

労務管理には専門家の支援を

ここでは就業規則の定め方のうち「懲戒」について説明をさせていただきました。就業規則の定め方はもちろん重要ですが、就業規則は定めて終わりではありません。定めた規則は適切に運用し、あるいは運用できる体制を整えてこそはじめて効力を発揮します。ひとたび裁判となれば、適切な運用がなされていない就業規則はそれを文字どおり「規則」として認めてもらえないリスクすらあり得るということも意識して、就業規則は定め方だけではなく運用面にも気を配っていただければと思います。

労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば経営を揺るがしかねない大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。

弁護士による問題社員対応・解雇/雇止め

弁護士による就業規則の作成・チェック


顧問契約について


 

当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。

実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー

関連記事はこちら

労働コラムの最新記事