企業の採用の自由と調査の自由
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
困った社員を採用しないために
問題社員と企業のストレス
企業にとっては、遅刻・欠勤を繰り返し、あるいは業務命令に背くなど勤務態度の悪い社員や、能力が著しく劣っている社員、会社への誹謗中傷を繰り返す不誠実な社員など問題のある社員を採用したくないと考えることは当然です。こうした問題のある労働者は、企業の円滑な運営を妨げるとともに、経営者をはじめ他の社員にも多大なストレスをもたらします
ハードルが高い解雇
いったん採用した労働者を解雇することは、解雇権濫用法理(労働契約法16条)による制約に服することから、決して容易なものではありません。問題社員といえども、当該労働者を解雇するためには周到な準備と適切なプロセスを経る必要のあることが通例ですが、企業にとっては相当なエネルギーを要します。
そのため、企業はでき得る限り、採用時に自社に適合する者か否かを見極めることが大切となります。
※なお、問題のある労働者という表現は、ある企業にとっては不適合という意味であって、そうした方々の人格を否定しているものではありません。当該企業にとって、その能力等を発揮できる別の企業や組織等において就業いただくことが望ましいと受け止められる労働者をいいます。
採用の自由
採用の自由
「人」の問題は企業経営の根幹をなす最も重要な事項です。いかなる人物をいかなる基準で採用するかについては、企業経営のリスクを負う使用者に委ねられるものであって、法律等による制限に反しない限り、使用者には採用の自由が認められます。
法律上の制限
使用者が有する採用の自由も法律による制限に服しますが、代表的な法律上の制限には次のようなものがあります。
・性別を理由とする採用差別の禁止(男女雇用機会均等法)
・組合員であることを理由とする採用差別の禁止(労働組合法)
・障害を理由とした採用差別の禁止(障害者雇用促進法)
・嘱託再雇用等の定年後継続雇用義務(高年齢者雇用安定法)
三菱樹脂事件最高裁判決(最判昭和48年12月12日)
採用の自由についての代表的判例としては、三菱樹脂事件判決があります。企業の採用の自由と労働者の思想信条の自由との対立が問題となった事件ですが、最高裁は次のとおり企業活動に対して理解のある判示をしています。
「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。」
調査の自由
調査の自由
採用の自由が企業に認められていることに伴い、その採用の自由を享受するため、企業には採用時の調査も広く認められることになります。
この点につき前掲最高裁判決は次のように判示しています。
「企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。」
「企業者において、その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立ってその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。」
プライバシー侵害と不法行為
企業に調査の自由が認められるといっても、それは無制限ではなく、法律による制限には当然に服します。そのため、応募者のプライバシーを侵害するような方法・態様で調査を行ったような場合は、不法行為(民法709条)にあたり損害賠償責任が発生する可能性があります。
応募者の調査は、採否決定のために必要な範囲内で収集し、またその方法も社会通念上妥当なものであることが求められます。
B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件(東京地判平成15年6月20日)
「特段の事情がない限り、企業が、採用にあたり応募者の能力や適性を判断する目的で、B型肝炎ウイルス感染について調査する必要性は、認められないというべきである。また、調査の必要性が認められる場合であっても、求職や就労の機会に感染者に対する誤った対応が行われてきたこと、医療者が患者、妊婦の健康状態を把握する目的で検査を行う場合等とは異なり、感染や増悪を防止するための高度の必要性があるとはいえないことに照らすと、企業が採用選考において前記調査を行うことができるのは、応募者本人に対し、その目的や必要性について事前に告知し、同意を得た場合に限られるというべきである。」
労働者の個人情報保護に関する行動指針
個人情報保護やプライバシー保護の要請の高まりから、厚生労働省は、「労働者の個人情報保護に関する行動指針」を定め、企業の調査に対して一定の制約を課しています。これはあくまで情報収集に関する行動指針であり、その違反のみをもってして直ちに法的責任に結びつくものではありませんが、コンプライアンスの観点から企業はこの指針を調査時の参考とすべきといえます。
【禁止される調査事項】
① 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
② 思想、信条、信仰
③ 労働組合への加入、労働組合活動に関する個人情報
④ 医療上の個人情報
労務管理には専門家の支援を
ここでは、企業の採用の自由と応募者調査の自由について説明させていただきました。調査の自由についての概要はここで解説したとおりですが、いかなる事項を調査し、あるいはどのような態様での調査が可能かは、個別事情ごとに異なってきます。企業は、採用時の調査を行うにあたっては、どこまでの情報が取得可能か、何をしてはいけないのかなどについて、各種法規制を踏まえたうえで事前に検討をしておくことが求められます。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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