退職した従業員から損害賠償請求をされた際の会社側の対応方法とは?事例を基に弁護士が解説!
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
労働者による解約(辞職)のルール
期間の定めがない雇用契約において、労働者は2週間の予告期間を置けばいつでも退職することができると規定されています(民法627条1項。ただし、純然たる月給制(遅刻、欠勤による賃金控除がないもの)における解約申入れは、翌月以後についてすることができ、しかも当月の前半にしなければならないとされており(同条2項)、年棒制における解約申入れは3か月前の予告が必要であるとされています(同条3項))。
このように労働者に辞職の自由が認められていることからすると、一般的には、労働者が法律に従って辞職した場合に、辞職自体が違法であるとして損害賠償請求をすることは困難であると考えられます。
もっとも、会社としては入社直後の従業員が突然退職してしまえば大きな損害を被ることになります。ここでは、そのような突然退職した従業員に対する損害賠償請求が認められた事例を紹介させていただきます。
【ケイズインターナショナル事件-東京地裁平成4年9月30日(労働判例616号10頁)】
事案
被告(従業員)が原告(会社)に入社したところ、入社後4日間出勤したのみで約1か月後に退職した。被告が退職した結果、取引先を失った原告は少なくとも1000万円の損害を被った。
この損害に関し、被告は原告に対し200万円を支払う旨の「確約書」を提出したが、被告が支払わなかったため、原告が確約書に基づく請求を行った。
判旨
・判決では、損害賠償請求を限定する事由として、次の①から④の事由が挙げられた。
①原告には1000万円あまりの損害が生じることになるものの、「被告に対する給与あるいはその余の経費を差し引けば実損害はそれほど多額のものではない」こと、
②原告は被告の人物、能力等について、ほとんど調査することなく、紹介者の言を信じたにすぎなかったことが認められるから、「採用、労務管理に関し、欠ける点があったといわざるを得ない」こと、
③「期間の定めのない雇用契約においては、労働者は、一定の期間をおきさえすれば、何時でも自由に解約できるものと規定されているところ(民法627条参照)」、原告が被告に対し、雇用契約上の債務不履行としてその責任を追及できるのは、欠勤した日からその月末までの損害にすぎないこと、
④労働者は右期間中の賃金請求権を失うことによってその損害の賠償に見合う出捐をしたものと解する余地もあること。
・①から④の事由を述べたうえで、本件においては、信義則を適用して、原告の請求することのできる賠償額を限定することが相当であるとして、原告が被告に対して請求することができるのは、およそ3分の1の70万円が相当であると判示した。
損害賠償請求をすることのリスク
このように退職した従業員に対する損害賠償請求が認められる可能性がないわけではありませんが、仮に認められたとしても、信義則の適用により大きく減額されてしまい、会社が望むような金額にはならないということが想定されます。
しかも、損害賠償請求をする場合、次のようなリスクが想定されます。
まず考えられるものとしては、元従業員の側からも未払残業代の請求など在職中の違法行為に関する請求がなされることが考えられます。
また、従業員に対して訴訟を提起したこと自体が不法行為と評価されて、反対に損害賠償責任を負ってしまうリスクがあります。
【プロシード元従業員事件‐横浜地判平成29年3月30日(労働判例1159号5頁)】
事案
原告(会社)に入社して、訴外A社におけるシステム開発業務に従事していた被告(従業員)が入社から9か月後に躁うつ病により退職したところ、原告は、被告が躁うつ病という虚偽の事実をねつ造して退職し、業務の引継ぎをしなかったことが不法行為に当たるとして1270万円の損害賠償請求を行った(本訴)。また、被告は原告に対し、原告の退職妨害、本訴提起、準備書面による人格攻撃が不法行為又は違法な職務執行に当たるとして損害賠償請求をした(反訴)。
判旨(本訴)
・「不安抑うつ状態にあった者が躁うつ病である旨を述べたとしても、それが虚偽のものであるとはいい難い。」
・「民法627条2項所定の期間の経過後においては、被告が躁うつ病である旨を述べたかどうかにかかわりなく、雇用の解約申し入れの効力が生ずることになる」のであるから、被告の退職によりA社から増員が取り消されたことによる損害1080万円及び被告の欠勤によりA社からの支払が20万円減額されたという損害と被告の行為との間には因果関係が認められないと判示した。
損害賠償請求が認められないだけでは済まない?
プロシード元従業員事件では、本訴請求が棄却されただけでなく、反訴においては、「原告(反訴被告)主張の損害が生じないことは、通常人であれば容易にそのことを知り得たと認めるのが相当である。」とされ、それにもかかわらず、「原告における被告(反訴原告)の月収の5年分以上に相当する大金の賠償を請求することは、裁判制度の趣旨目的に照らし著しく相当性を欠くというべきである。」と判示されました。
会社が従業員の月収の5年分という過大な請求したということもあり、退職した従業員に対する訴えの提起自体が不法行為に当たるとして慰謝料等合計110万円の支払いが命じられています。
労務管理には専門家の支援を
ここでは退職した従業員に対する損害賠償請求について説明させていただきました。従業員の退職により、採用にかけた費用が無駄になったり、業務に支障が生じ売上減少につながったりするほか、ある日、突然退職を切り出されることで、期待していた従業員から裏切られた気持ちになるという心情は強く共感できるところです。とはいえ、慎重に検討せずに損害賠償請求をしてしまうと却って会社が損害賠償責任を負ってしまう可能性もあります。
退職した従業員に対する損害賠償請求を考える場合、まずは労務の専門家である弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
常に依頼者様の立場に立ち、困難に直面しても創意工夫をして乗り越えていきたいと考えております。依頼者様にとって最良のリーガルサービスを提供できるよう日々研鑽していく所存でございます。
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