残業代の計算方法 - 家族手当は算定基礎賃金に含まれるか?

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

残業代の基礎賃金

いわゆる「残業代」と呼ばれる割増賃金は、①法定時間外労働(労基法37条1項)、②深夜労働(労基法37条4項)、③法定休日労働(労基法37条1項)
  
の3つのケースで発生します。それぞれの労働(残業)をさせた場合には、①時間外労働では25%、②深夜労働では25%、そして③法定休日労働では35%の割増率で割増した賃金を使用者は労働者に対して支払う必要があります。
  
ところで、日本企業では、労働者に支給されるいわゆる給料としては、基本給のほかに家族手当や通勤手当、あるいは住宅手当等の各種手当が含まれることが多く、賞与のある会社も多いのが一般的です。そこでここでは、「割増率を適用する基準となる賃金とは何か?」をテーマに、割増賃金の基礎となる賃金に含まれるもの、除外されるものについて解説していきます。

通常の労働時間の賃金

割増賃金は、「通常の労働時間の賃金」に対して各割増率を適用することによって計算されますが(労基法37条1項)、この「賃金」とは、労働の対価として労働者・使用者間で合意され使用者によって支払われるものをいいます。そうすると、基本給や手当などその名称は様々ですが、使用者から労働者に支払われる金銭は、全体として「使用されて労働することの対価」として支払われる性質を有していますので、支給される金銭のすべてが「賃金」として割増賃金の計算の基礎となるというのが原則的な考え方といえます。
  
もっとも、法は、いくつかの類型に該当する賃金を割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外することとしています(労基法37条5項)。これらが「除外賃金」と呼ばれるものです。

除外賃金

除外賃金には、大きく分けて、次の3類型があります。
  
① 家族手当など個人的事情に基づく手当
② 臨時に支払われる賃金
③ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  
それぞれについて詳しく説明していきます。

①家族手当など個人的事情に基づく手当

次の各手当は、割増賃金の基礎となる賃金に参入されません(労基法37条5項、労基則21条1~4号)。
  
イ) 家族手当
ロ) 通勤手当
ハ) 別居手当
ニ) 子女教育手当
ホ) 住宅手当
  
これらの手当が除外されるのは、時間外労働に対する割増賃金額が、労働の内容や量とは無関係な労働者の個人的事情で変わることに合理性が認められないことを理由としています。同じ残業をしているにもかかわらず、家族手当の支給されていない労働者よりも子どもがいて家族手当が支給されている労働者の残業代が高くなるのはおかしい、ということです。同じ時間だけ残業しているのであれば、それに対する対価が子どもの有無によって変わることは公平性を害することになります。

除外賃金該当性は実質で判断

このような趣旨で除外されるものですので、除外賃金にあたるか否かはその名称の如何を問わず、実質的に判断されます。労働から離れた「個人的事情」により支給されているものか否かがポイントです。例えば、家族手当と称される手当であっても、扶養家族の有無や人数などの個人的事情を度外視して一律の金額で支給されるものは除外賃金に該当しないことになります。一律の支給となっていれば、それは「個人的事情」に基づいて支給されているというよりは、単に労働の対価たる賃金が名称を変えてその名目に割り振られているだけに過ぎないと評価されることになるでしょう。

住宅手当

除外賃金としての「住宅手当」であるためには、同じように「個人的事情」を反映した制度設計とする必要があります。正社員には月額○万円、といった支給方法では「個人的事情」を反映しているとはいえませんので、除外賃金には該当しません。また、持家居住者は月額○万円、賃貸住宅居住者は月額○万円といった支給方法も、個別の住宅費用を度外視した形といえますので、やはり除外賃金には該当しません。除外賃金たる「住宅手当」といえるためには、住宅に要する個別の費用に応じた支給方法とする必要があります。

【除外賃金にあたる規定例】

・家賃の○○%(上限○万円)、住宅ローン月額の○○%(上限○万円)
・家賃月額 4万円~6万円   住宅手当1万円
     6万1円~8万円  住宅手当2万円
     8万1円~     住宅手当3万円

② 臨時に支払われた賃金

臨時に支払われた賃金とは、「臨時的・突発的事由にもとづいて支払われたもの」及び「支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するもの」をいいます(昭和22・9・13発基17号)。例えば、結婚手当や私傷病手当、加療見舞金などがこれに当てはまります。そもそも「通常の労働時間の賃金」とはいえないことから除外されています(労基則21条4号)。

③ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は算定基礎賃金から除かれます(労基則21条5号)。例としては「賞与」があります。他には、1か月を超える期間で評価される場合の勤続手当等が該当します。なお、賞与という名称がついていても、定期的に支給され、支給額があらかじめ確定しているものは「通常の労働時間の賃金」といえますので、除外賃金にはあたりません。例えば、年俸制の場合で16分割にして夏季と冬季にそれぞれ2か月分ずつ上乗せ支給するようなケースでは、その上乗せされた分は除外賃金たる賞与には該当せず、割増賃金の基礎となる賃金に含まれます。

支給の趣旨と基準を明確に

各種手当などが除外賃金に該当するか否かは、残業代の計算に大きな影響を与える重要な問題です。家族手当も通勤手当も、あるいは住宅手当も、その実質が伴っていないがために除外賃金にあたらないと評価されてしまえば、それらはすべて割増賃金の算定基礎賃金に含まれることとなり、残業代の単価が跳ね上がることになります。
  
各種手当を設ける場合には、その目的に合わせて支給の趣旨と基準を明確にし、除外賃金に該当する性質を備えるよう規定することが大切となります。

労務管理には専門家の支援を

ここでは「残業代」の基礎賃金の内容について説明をさせていただきました。残業代を巡る問題では、このほかにも「労働時間性」、「割増賃金の計算方法」、「固定残業代制度」あるいは「労働時間規制の適用除外」など、様々な法的事項についての検討が必要となり、使用者が予期しない、あるいは意図しない残業代が発生しないよう適切な労務管理の実施が求められます。
  
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。


 

当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。

実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー

関連記事はこちら

労働コラムの最新記事