それって労働時間にあたるの?-手待ち時間の労働時間該当性
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
手待ち時間とは
めったにお客さんが来ることのない時間帯に携帯電話をいじりながら店番をしている時間や、トラックドライバーが搬入時間の調整のために路肩に駐車して時間をつぶしている時間は労働時間にあたるでしょうか?実作業に従事していないこのような時間を一般に「手待ち時間」あるいは「待機時間」などといいますが、ここではこのような時間の労働時間該当性について解説します。特に、タクシーやトラックなどの職業運転手(ドライバー)の残業代請求事件では、手待ち時間の労働時間該当性がしばしば争われます。
労働時間とは
■労働時間
賃金支払い及び労基法上の時間規制の対象となる「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。そして、この労働時間該当性は、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まります(大星ビル管理事件‐最判平成14年2月28日、大林ファシリティーズ事件‐最判平成19年10月19日)。つまり、ある時間が労働時間にあたるか否かは、就業規則や労働契約の定め如何にかかわらず、その実態から客観的に判断されることになります。
■就業時間
労働契約(就業規則)では、通常、始業時刻と終業時刻が定められます。この始業時から終業時までの時間を所定就業時間といいます。また、所定就業時間から休憩時間を差し引いた時間を所定労働時間といいます。
店番の労働時間該当性
店番の時間が労働時間にあたるということは理解しやすいのではないでしょうか。店番はいざ来客があったときに備えて店にいること自体が仕事なのですから、まさに使用者の指揮命令のもとに店にいるといえ、労働時間に該当します。たとえ暇な時間が多くてボーっと過ごしていたとしても、あるいは自由にスマートフォンで遊んでいたとしても、来客時にすぐに対応できるよう指定された店内で待機していたのであれば、やはり労働時間に該当するといえます。
なお、店番中にスマートフォンをいじることや他事をすることが禁止されていた場合、それは人事考課や懲戒処分の対象とはなり得ますが、それと労働時間性とは別問題となります。
タクシー運転手の客待ち待機時間
タクシー運転者が客待ちをしている時間は労働時間にあたるでしょうか。一般に客待ち時間も営業行為の一環として労働時間にあたるという結論は理解しやすいかと思いますが、たとえば、ほとんどお客さんが乗る見込みが薄いような場所で半ばさぼり気味で客待ちをしていた場合や、会社が指定場所以外での客待ちを禁止していたような場合はどうでしょうか。
見込は薄くとも実際にお客さんをつかまえるために客待ちをしていたというのであれば、たとえ非効率的であっても使用者の指揮命令下に置かれた営業行為として労働時間にあたると考えられます。また、会社が指定した場所以外で客待ちをしていた場合も同様に、それが営業活動として行われていたのであれば、やはり使用者の指揮命令下に置かれた中での業務といえ、労働時間にあたるというのが原則的な結論となります。
これは結局、労働時間は就業規則の内容等によって決まるものではなく、その実態から客観的に定まることの帰結です。
もっとも、客待ちと称して実際には乗車拒否の状態で昼寝をしていたり、車から離れて喫茶店で休んだりパチンコに勤しんでいたというような場合には、それらはもはや職務を放棄しているもので労働から解放された状態にあり、労働時間には該当しないといえるでしょう。ただし、使用者としてこうした実労働時間に該当しない部分を特定しこれを立証することは訴訟上容易なことではありません。
■中央タクシー事件(大分地判平成23年11月30日)
【事案】
・タクシードライバーの運行日報、タコグラフから待機時間と待機場所を推測して、30分を越える会社の指定場所以外の客待ち待機があると推測したときは、会社が定める基準に該当する場合を除き、30分を越える待機時間を労働時間から控除していた事案。
・会社は、会社の指定する場所以外の場所での30分を越える待機時間につき労働時間のカットを実施することについては、労働協約で規定されていたと主張。
【判旨】
・労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間をいうというべきである。
・タクシードライバーらがタクシーに乗車して客待ち待機をしている時間は、これが30分を超えるものであっても、その時間は客待ち待機をしている時間であることに変わりはなく、会社の具体的指揮命令があれば、直ちにタクシードライバーらはその命令に従わなければならず、また、労働の提供ができる状態にあったのであるから、30分を越える客待ち待機をしている時間が、会社の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であることは明らかといわざるを得ない。
・会社が30分を越える会社指定場所以外での客待ち待機をしないように命令していたとしても、その命令に反した場合に、労働基準法上の労働時間でなくなるということはできない。
・タクシードライバーらが会社の30分を越える指定場所以外での客待ち待機をしてはならないとの命令に従わないことを原因として、適正な手続を経て懲戒処分を受けることがあるとしても、この命令に従わないことから、直ちに30分を越える客待ち待機時間が、労働基準法上の労働時間に該当しないということはできない。30分を越えて客待ち待機をしたとしても、その時間は、争議行為中でもサボタージュでもなく、喫茶店等に入ってサボっている時間でもなく、労働提供が可能な状態である時間であるのであるから、会社の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間と認められる。
・ある時間が労働基準法上の労働時間に該当するか否かは当事者の約定にかかわらず客観的に判断すべきであるから、労働協約の規定があったとしても、会社の指定する場所以外の場所での30分を越える客待ち待機時間が労働基準法上の労働時間に該当しなくなるわけではない。
労務管理には専門家の支援を
ここでは手待ち時間、待機時間の労働時間該当性について説明をさせていただきました。こうした労働時間性は、多くは未払い賃金請求、残業代請求の局面で問題となります。残業代請求では、このほかにも「割増賃金の基礎となる賃金」、「固定残業代制度」あるいは「労働時間規制の適用除外」など、様々な法的事項が争点となりえます。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い賃金・残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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