タイムカードでの残業代・残業申請について弁護士が解説!打刻での時間外労働の計算方法について
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
残業代請求とタイムカード
労働者から企業に対して未払残業代の支払請求がなされる場合に、往々にしてその根拠として出されるものがタイムカードです。例えば、終業時刻が17時00分であった労働者について、タイムカードの打刻時間が17時20分となっていた場合に、その20分間が時間外労働に当たるという主張がなされます。未払賃金の時効が2年(2020年4月からは当面の間3年)のため、たとえ1日あたりの時間は短時間であったとしても、積み重ねれば相当額の残業代請求となりえます。
タイムカードを備えている事業場においては、その運用を誤れば、思わぬ残業代請求を受ける可能性があるため注意が必要です。
残業代の支払対象となる労働時間とは
時間外割増賃金を含めた賃金の支払い対象となる「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。そして、この労働時間該当性は、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まります(大星ビル管理事件‐最判平成14年2月28日、大林ファシリティーズ事件‐最判平成19年10月19日)。つまり、ある時間が労働時間にあたるか否かは、就業規則や労働契約の定め如何にかかわらず、そしてまた、タイムカードの打刻時間にかかわらず、その実態から客観的に判断されることになります。
タイムカードの意味
出退勤の確認
タイムカードを備え付けている会社は多いかと思いますが、そのタイムカードを使用する目的や意味は、会社ごとに異なり得ます。タイムカードを単に従業員の出退勤を確認する目的に使用している場合は、タイムカードの打刻時間は単に従業員の社内滞留時間を示しているに過ぎないことになるため、タイムカードの打刻時間から時間外労働の有無は直ちに導かれません。残業代の支払対象となる残業をしていたか否かは、上司の指示・命令に従った労働をしていたか否かによって決まることになります。
労働時間管理が目的でないことを明示すべき
もっとも、タイムカードの持つ意味というは、一義的に決まっているわけではありません。労働時間を管理するものとしてタイムカードを利用している会社もあるでしょう。
したがって、タイムカードの打刻時間そのものを労働時間として計算するものでない場合は、その旨を就業規則等に明記し周知しておくべきです。さもないと、タイムカードがどのような趣旨で用いられていたものかというところから争いとなり、過去においてタイムカードの打刻時間どおりに残業手当を支払ったことがあるなどの事実関係や慣行がみられる場合には、タイムカードの労働時間管理性を否定することは難しくなるでしょう。
M屋事件‐東京地判昭和63年5月27日
【判旨】
・時間外労働賃金は管理者が時間外労働を命じた場合か、黙示的にその命令があったものとみなされる場合で、かつ管理者の指揮命令下においてその命じたとおり時間外労働がなされたときにのみ支払われるべきものである
・一般に使用者が従業員にタイムカードを打刻させるのは出退勤をこれによって確認することにあると考えられるから、その打刻時間が所定の労働時間の始業もしくは終業時刻よりも早かったり遅かったとしてもそれが直ちに管理者の指揮命令の下にあったと事実上の推定をすることはできない
・タイムカードによって時間外労働時間数を認定できるといえるためには、残業が継続的になされていたというだけでは足りず、使用者がタイムカードで従業員の労働時間を管理していた等の特別の事情の存することが必要である
営業係の社員に対する就労時間の管理が比較的緩やかであったという事実を考えると、打刻時刻と就労とが一致していたと見做すことは無理があり、結局、タイムカードに記載された時刻から直ちに就労時間を算定することは出来ない
「タイムカード打刻時間=労働時間」とならないために
使用者に厳しい裁判例の傾向
このように、出退勤の管理を目的としてタイムカードを利用している会社では、タイムカードの打刻時間からは直ちに時間外労働は認定されないのが原則です。
ところが、実際には、裁判となった多くの事件において、タイムカードの打刻時間から労働時間が推定され、これを否定するためには使用者側に特段の事情の反証が求められています。これは、使用者に労働時間を管理すべき義務が課せられていることの裏返しとして、タイムカード等の客観的な記録が一応ある以上は、それらが労働時間に当たらないことの証明責任を事実上使用者に負わせようとするものです。こうした裁判例の傾向を必ずしも是とするものではありませんが、この実情を無視して会社が勝つことはできません。裁判例の動向を抑えたうえで、会社の主張が正しいと認められるような労働時間管理の仕組みと運用を行うことが使用者には求められています。
原則に立ち返った「指示・命令」を徹底
時間外労働は、その名のとおり、雇用契約によって予定されていた所定労働時間を超えて行われる労務の提供行為であり、本来的には例外的な行為です。また、それぞれの事業場は労務を提供する場所である以上、労働する必要もないのに在社をしているということも、法的思考としてここに疑念が生じざるを得ないのも無理からぬことです。このため、時間外労働の管理においては、次の事項に留意しながら、その適切な運用を行うよう努めるべきといえます。
・タイムカードの意味を明確にする
・時間外労働を行う場合は、その日ごとに申告・承認を徹底する
・時間外労働の内容を具体的に明示する
・タイムカードその他の客観的記録と一致しない時間外労働がある場合は、その齟齬について従業員から理由を聴取するなど労働時間性を確認する
・指示・命令に基づかない不要な時間外労働を行う従業員に対しては、残業禁止命令を出すなど使用者の立場を明確にする
【使用者の労働時間把握の責務】
平成13年4月6日労働基準局長通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」では、使用者に対し、タイムカード、ICカード等の客観的な記録による方法等により、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し記録すること等を指示しています。
【S印刷事件‐東京高判平成10年9月16日】
会社が従業員の労働時間の把握のためにタイムカード及び直行・直帰届以外の措置を講じていなかった場合においては、従業員の実労働時間は、タイムカードの記録に基づいて作成された個人別出勤表によって推定するのが相当であると判示
【Yデザイン事務所事件‐東京地判平成19年6月15日】
使用者には労働者の勤務時間を把握する義務があり,タイムカードに手書きの記載があるのに何ら是正を求めることなく放置してきたことに照らすと,会社は同記載を事実として受け入れてきたと推認されるのであって,タイムカードの記載は従業員の出退勤の実態をほぼ正確に反映したものと認めるのが相当であると判示
労務管理には専門家の支援を
ここではタイムカードの打刻時間と時間外労働について説明をさせていただきました。残業代請求がなされる事案では、こうした労働時間性に関する問題のほか、「割増賃金の基礎となる賃金」、「固定残業代制度」あるいは「労働時間規制の適用除外」など、様々な法的事項が争点となりえます。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い賃金・残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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