労働者派遣事業の許可‐派遣事業を始める方へ
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。派遣業の皆さまでお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
労働者派遣事業
人手不足や働き方の多様化が進む今日では、労働者派遣へのニーズも高まっています。もっとも、労働者派遣は、企業が他企業からその雇用する労働者の提供を受けて、その労働力を自企業の業務の遂行に利用するものですから、通常の二者間の雇用契約関係と異なり、雇用責任・使用者責任が不明確・不十分となるなどの危険が生じうる上、常用雇用を侵食する恐れもあります。こうしたことから、労働者派遣を事業として行う場合には、厚生労働大臣の許可を得る必要があり、許可を得て事業を始めた後も、その監督を受け毎年事業報告をすることが義務付けられています。
許可申請の流れ
労働者派遣事業を行おうとする者は、所要の事項を記載した労働者派遣事業許可申請書を主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局を経由して厚生労働大臣に提出し、その許可を受ける必要があります(労働者派遣法5条1項)。許可を得るまでの流れは概要次のとおりです(厚生労働省「事業許可までのプロセス」資料参考)。
①事業計画の立案
↓
②事業所等の準備
↓
③派遣元責任者講習受講
↓ ※ 申請に先立ち派遣元責任者が派遣元責任者講習を受講する必要有
④申請書類等の準備
↓
⑤申請
↓ ※ 申請から許可・不許可の判断までは概ね2~3か月程度
⑥許可証の受領
↓
⑦事業開始
許可申請で準備すべき書類
許可申請にあたっては、労働者派遣事業計画書のほか様々な書類を準備する必要があります。事業を行う者が法人か個人かによって若干準備すべき書類は異なりますが、法人の場合は次の各書類が必要となります(労働者派遣法5条3項)。
・定款又は寄付行為
・登記事項証明書
・役員の住民票
・最近の事業年度における貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書
・最近の事業年度における法人税の確定申告書
・法人税の納税証明書
・事業所の使用権を証する書類(賃貸借契約書等)
・就業規則又は労働契約(教育訓練の受講時間を労働時間として扱うこと、無期雇用派遣労働者を労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇しないこと等を定めることが必要)
・派遣労働者のキャリア形成を念頭においた派遣先の提供のための事務手引、マニュアル等
・派遣元責任者の住民票の写し
・個人情報適正管理規定
許可の基準
厚生労働大臣は、許可の基準に適合していると認めるときでなければ労働者派遣事業の許可をすることはできません(労働者派遣法7条)。法律では、許可の基準を次のとおり定めています。
1. 当該事業が専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるもの(雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合として厚生労働省令で定める場合において行われるものを除く。)でないこと。
2. 申請者が、当該事業の派遣労働者に係る雇用管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして厚生労働省令で定める基準に適合するものであること。
3. 個人情報(個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。以下同じ。)を適正に管理し、及び派遣労働者等の秘密を守るために必要な措置が講じられていること。
4. 前2号に掲げるもののほか、申請者が、当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること。
「専ら派遣」の原則禁止(労働者派遣法7条1号)
いわゆる「専ら派遣」とは、労働者派遣事業が専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるものをいいます。この「専ら派遣」は、派遣元事業主の労働力需給調整機能としての役割が果たされないことから、原則禁止されています。
雇用管理を適正に行うに足りる能力の確保(労働者派遣法7条2号)
事業主には、派遣労働者の保護及び雇用の安定を図るため、派遣労働者に係る雇用管理を適正に行うための体制が整備されていることが求められます。具体的内容は非常に細かいですが、概略だけピックアップすると次のような事項が判断されます。
(ア) 派遣労働者のキャリア形成支援制度
・教育訓練の実施計画の策定
→実施する教育訓練は有給かつ無償が原則
・キャリアコンサルティングの相談窓口の設置
・キャリア形成を念頭に置いた派遣先提供を行うための規定整備
・教育訓練の時期・頻度・時間数等
→派遣労働者全員に対する入職時の教育訓練は必須
・教育訓練の周知等
(イ) 適正な雇用管理を行うための体制整備
・派遣元責任者に関する事項
→3年以上の雇用管理の経験
→職業安定行政又は労働基準行政に3年以上の経験
→民営職業紹介事業の従事者として3年以上の経験
→労働者供給事業の従事者として3年以上の経験
→派遣元責任者講習の受講(許可申請受理の日前3年以内) 等
・派遣元事業主に関する事項
→労働保険、社会保険の適用
→名義借でないこと 等
・教育訓練に関する事項
→安全衛生教育の実施体制の整備
→能力開発体制の整備 等
個人情報の適正な管理と派遣労働者の秘密の遵守(労働者派遣法7条3号)
業務の過程で得た派遣労働者等の個人情報を管理する能力が要求され、たとえば次のような事項について判断されます。
・派遣労働者等の個人情報を取り扱う事業所内の職員の範囲の明確化
・個人情報を業務以外の目的で使用、漏洩しないことについての教育
・個人情報の収集、保管、使用にあたっての留意 等
事業を的確に遂行するに足りる能力の保持(労働者派遣法7条4号)
労働者派遣事業を的確、安定的に遂行するに足りる財産的基礎、組織的基礎や事業に適した事業所の確保等一定以上の事業遂行能力が要求されます。労働者派遣事業を労働力需給調整システムの一つとして適正かつ有効に機能させ、派遣労働者の保護及び雇用の安定を図るため、次のような事項につき判断されます。
(ア) 財産的基礎に関する事項
・資産の総額から負債の総額を控除した額(基準資産額)が2000万円以上(事業所が複数の場合はその倍数)
・基準資産額が負債の総額の7分の1以上
・事業資金として自己名義の現金・預金の額が1500万円以上(事業所が複数の場合はその倍数) 等
(イ) 組織的基礎に関する事項
・派遣労働者数に応じた派遣元責任者の配置等
(ウ) 事業所に関する事項
・事業に使用しうる面積がおおむね20㎡以上 等
(エ) 事業運営に関する事項
・派遣事業以外の目的の手段として利用するものでないこと 等
許可の有効期間
労働者派遣事業の許可の有効期間は、許可の日から起算して3年です(労働者派遣法10条1項)。更新を受けた場合の有効期間は以後5年となります(同条4項)。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、労働者派遣事業を始めるにあたっての手続き及び許可基準の概略について説明をさせていただきました。労働者派遣事業においては、改正労働者派遣法により派遣労働者の均等・均衡待遇(同一労働同一賃金)が法制化されるなど、様々な法規制に従った対応が求められます。
派遣労働者の雇用管理を含めた労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば重大なサンクションを受けるなど大きなリスクを企業にもたらす恐れがあります。労務管理と運用については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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