テレワーク導入の手引き‐弁護士がすすめるテレワーク規定の要点と成果を上げるための4つの視点

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。就業規則の作成・変更でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

本記事で書かれている内容

テレワーク導入に必要な4つの視点


新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、感染防止や危機対応としてのテレワークが注目を集めています。ここでは、テレワークの導入を検討されている企業のために、あるいは既に導入されている企業がその適切性を検証できるように、テレワーク規定の要点を中心に、テレワークを効果的に導入・運用するために必要な4つの視点をお伝えします。

▼テレワーク導入のために抑えるべき4つの視点

1.効果を高める目的設定-様々なテレワークスタイル
2.自由はルールの枠内で‐失敗しないためのテレワーク規定
3.労使の共通認識醸成を‐目標設定と人事評価・賃金制度
4.ペーパーレス化とWeb会議-IT環境の整備と情報セキュリティーの確保

1. テレワークのスタイルも様々‐制度導入の目的と効果

テレワークとは

そもそも「テレワーク」とは何かといえば、ひと言で表すと「会社以外の場所で仕事をすること(事業場外勤務)」であり、代表的なものが自宅で仕事をする「在宅勤務」です。また、会社が従業員向けに自由に利用できるサテライトオフィスを用意して、会社に来なくとも仕事ができるようにすることもテレワークです。あるいは、自宅やサテライトオフィスに限らず、カフェや旅先など、従業員が好きな場所でモバイル端末を活用して仕事をするモバイルワークもテレワークの一つと言えます。
  
そうすると、テレワーク導入を考える企業としては、まずどのような態様の「テレワーク」を導入するのかを検討しなければなりません。ここを曖昧にしては、制度設計全体にほころびが生じてしまいます。

テレワーク導入の目的は

企業によってテレワークを導入する目的は様々だと思いますが、代表的な導入目的には次のようなものが挙げられます。
  
▶定型的業務の効率性(生産性)の向上
▶勤務者の移動時間の短縮
▶顧客満足度の向上
▶非常時(地震、新型インフルエンザ等)の事業継続に備えて
▶通勤弱者(身障者、高齢者、育児中の女性等)への対応
▶付加価値創造業務の創造性の向上
▶勤務者にゆとりと健康的な生活の実現
▶オフィスコストの削減
▶優秀な人材の雇用確保
  
総務省「平成30年通信利用動向調査」によれば、テレワーク導入の目的に「定型的業務の効率性(生産性)の向上」と「勤務者の移動時間の短縮」を挙げている導入企業の割合が多くなっています。
  
新型コロナウイルスによる影響を受け、今後は「非常時の事業継続」の目的も重要となってくるでしょう。平成30年の総務省の同調査によれば、テレワークを導入している又は具体的な導入予定がある企業は26.3%という結果が出ていますが、新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、政府の自粛要請や安全のために従業員を出勤させられないという状況も想定され、緊急時におけるBCP(事業継続計画)の観点からテレワーク導入を検討する企業は増えることが予想されます。

導入効果の実際

テレワークを導入した企業の実に81.6%もの企業が、導入目的に対する効果について「非常に効果があった」又は「ある程度効果があった」と回答しており、テレワークを肯定的に捉えています(総務省「平成30年通信利用動向調査」)。
  
導入効果を高めるためには、導入目的を明確にしたうえで制度設計を行うことが大切となります。

2. 自由はルールの枠内で‐失敗しないためのテレワーク規定

運用ルールの策定は必須

テレワークは、自宅など会社以外の場所で働く働き方ですから、会社からの監視・監督が弱く労働者側の裁量で自由に働ける要素を含有しています。テレワークのスタイル自体様々なものがあり、働き方の自由度が高いが故に、制度設計をしっかりと行っておかないと、使用者側は「こんなつもりじゃかなった」と従業員の働き方に大きな不満を持つことになり、結果として労働者側との軋轢を生む結果となりかねせん。
  
テレワークを導入する目的と労働者側のニーズも意識したうえで、自社にふさわしい制度を設計し、テレワークの運用ルールを策定することが必要です。

テレワーク規定の要点

テレワーク導入に当たっては、就業規則そのもの又は就業規則から委任された独立の規定を策定するなどしてルールを明確にすることが必要となります。テレワーク規定には様々なものがありますが、抑えておくべき要点をまとめると次のとおりです。

① 導入するテレワークの態様

テレワークにも在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワークなど態様が様々です。導入するテレワークが在宅勤務なのか、それとも幅広くモバイルワークを認めるかなど、テレワークの定義又はテレワークが可能な就業場所を特定します。

② 希望申請と許可制

テレワークの導入目的にもよりますが、労働者の申請に応じて希望者だけにテレワークを行わせるのか、あるいは業務命令として企業主導でテレワークをさせるのかという方向性を明確にしておきます。
  
業務内容や当人の勤務態度等からテレワークに不適格な社員もいるかと思いますので、たとえ希望制にしたとしても、会社側に必要性・相当性を踏まえて対象者を決定する権限があるように制度設計することが大切です。

③ 使用者の指示・命令権限

テレワークも、労働条件のうちの「就業場所」の一つと言えますが、就業場所を限定している雇用契約でない限り、業務命令の一態様として使用者の指示・命令によって在宅勤務等に従事させることは本来的に可能と考えられます。
  
もっとも、無用なトラブルを避けるためにも、基本的な制度設計としては、上記②のような許可制にするとともに、業務上の都合により使用者の命令によってテレワークを命じることがあることや、許可したテレワークを企業側の判断によっていつでも取り消せることを明確にしておくべきといえます。

④ 始業・終業及び休憩時間

基本的には所定の始業・終業時刻をそのまま適用することにはなりますが、柔軟な働き方による生産性向上や労働者の便宜を考えれば、必ずしも出社する場合と同じ始業・終業時刻を適用することが正解とは言えません。この場合、始業・終業時刻を変更できる旨規定するとともに、休憩時間を含め労働者から必ずそれぞれの時刻を報告させるよう義務付けるべきでしょう。

⑤ 時間外労働は原則禁止

もともと残業がなし崩し的に行われているような職場では、その考え方を在宅勤務等のテレワークにも持ち込まれかねません。ダラダラと長時間の労働を黙認する結果となり労働生産性が向上しないばかりか、使用者にとっては不本意な残業代が発生してしまいます。監視・監督が及びにくいテレワークでは、原則として時間外労働を禁止するとともに、残業が必要な場合の事前申請を出社勤務のとき以上に徹底する必要があります。

⑥ 費用負担の明示

在宅勤務等のテレワークに必要なノートパソコンや携帯電話等の機器類を使用者が用意して貸与するのか、労働者側で用意したうえで何かしらの手当を支給するのか等を明確にしておきます。このとき、通信費や光熱費といった在宅勤務ならではの費用や、サテライトオフィス勤務の場合の同オフィスまでの交通費の負担をどうするかについてもルール化することを忘れないようにします。

⑦ 情報セキュリティー

業務の内容や各企業の実情に応じて情報管理のルールを定めるとともに、意識啓発のためにもテレワークを許可する際に誓約書等を提出させることも検討すべきでしょう。

テレワーク導入・運用の留意点

テレワークの導入・運用に当たって判断に迷うことやどうすればよいか疑問に感じることが出てくるのではないかと思いますが、代表的なご相談例を挙げておきます。

イ) テレワークでも労働時間の把握は使用者の責務

一般に使用者には労働者の労働時間を適正に把握すべき責務が課せられており(平13・4・6労働基準局長通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」)、①使用者自らによる現認、②タイムカード、ICカード等による客観的記録、③自己申告制の場合は実態との合致について調査などにより適切に労働時間を管理することが求められています。
  
このことはテレワークの場合であっても異なりませんので、使用者は労働時間の把握方法を決めたうえで、それを適切に運用する必要があります。
  
パソコンを使用する業務がほとんどだと思われるため、その使用時間は客観的な記録として残っていることが通常です。したがって、仮に自己申告制をとる場合であっても、実態との乖離がないかをチェックする体制を整えなければ、後々、未払残業代が発生しているとの労働者側の主張を否定することが難しくなる点は留意が必要です。

ロ) みなし労働時間制は不適当

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場施設の外で業務に従事した場合において、労働時間を算定しがたいときは、所定労働時間だけ労働したものとみなすという、事業場外労働のみなし制(労働基準法38条の2第1項)が労働基準法上認められています。在宅勤務等のテレワークにおいてこの事業場外労働のみなし制を採用されている企業も中にはいらっしゃるようですが、よほどのことがない限りこの制度を利用することはやめておいた方が良いと思います。
  
この事業場外労働のみなし制を採用するためには、「労働時間を算定しがたい」という前提条件を満たす必要があります。これだけ情報通信機器が発達した現代において、またこの発達した情報通信機器を積極的に活用して場所にとらわれない柔軟な働き方を志向するテレワークにおいて、「労働時間を算定しがたい」状況が果たして想定されるのかというと、疑問しかありません。会社から貸与された携帯電話であるか労働者個人の携帯電話であるかを問わず、会社からの電話に出る必要がない又はその接続を切断しておくことが認められているうえ、インターネットがない環境で仕事をするというのではない限り、この事業場外労働のみなし制を有効に採用することは難しいといえるでしょう。

ハ) 「中抜け時間」への対処法

育児や介護を行う労働者側のニーズに応えて在宅勤務等を実施する場合には、所定休憩時間以外にも、業務から離れる時間を認めることがあるかもしれません。この場合、使用者の指揮・命令が及ばず、それが労働から離れた自由時間といえるのであれば、休憩時間と扱うことが可能です。労働時間と休憩時間との線引きが曖昧にならないように、申告・報告方法や、その時間は必ずパソコンの電源をオフにするなどの運用ルールを定めることが望ましいでしょう。
  
また、そうした「中抜け時間」が臨時的なものであれば、時間単位の有給休暇の活用を認めるなどの方法も検討しても良いと思います。

ニ) 移動時間は労働時間にあたるか

テレワークも部分的な利用が可能です。例えば、午前中は在宅勤務にして午後から会社に出勤することや、サテライトオフィスで2時間だけ気分転換を図りながら基本は在宅勤務とするなど、テレワークのスタイルは様々です。
  
こうしたときに、始業時刻と終業時刻の間に行われる自宅と会社あるいはサテライトオフィスとの往復の移動時間が労働時間に当たるのかという問題が生じます。
  
通勤時間は基本的に労働時間には当たりません。その移動が使用者の指揮命令に基づき行われるものでない限り、移動時間は労働時間に該当しないと考えて良いですが、勤務途中の移動という点で感覚的には分かりにくい面があることは否定できません。テレワーク導入に当たっては、事前にこうしたことも取り決めたうえ、労働者へ説明しておくことが望ましいといえます。

フレックスタイム制を併用する在宅フレックス

主体的で柔軟な労働時間制度の代表にフレックスタイム制があります。フレックスタイム制は、1か月などの単位期間の中で一定時間数(契約時間)労働することを条件として、1日の労働時間を自己の選択するときに開始し、かつ終了できる制度です。労働者が自身の裁量で始業時刻と終業時刻を決めることができるため、生活と仕事との調和を図りながら効率的に働くことが可能になり、在宅勤務等のテレワークとも親和性が高いと考えます。
  
テレワーク導入の目的や労働者側のニーズによっては、テレワークとフレックスタイム制を併用することも検討しても良いのではないでしょうか。

3. 労使の共通認識醸成を‐目標設定と人事評価・賃金制度

共通認識を持つことがテレワーク成功の鍵

テレワークを導入する目的は企業によって様々であり、その目的も一つでないことが多いと思いますが、導入目的とそれによって求める成果をあらかじめ設定し、使用者と労働者でテレワークによって何を実現するのかの共通認識を持っておくことは大切です。この共通認識を醸成しておかないと、使用者にとっては従業員が働いている姿を直接見ることができないことから「本当に働いているのか」「大した成果が出ていない」とフラストレーションがたまる結果となります。労働者側も「働いているのにちゃんと評価されない」といった不満が生じることにもなり、労使双方にとって不本意な結果を招きかねません。
  
使用者は、労働者にどのような成果を求め、何を評価するのかという目標設定を明確にし、通常の労働者とテレワークを選択した労働者とで評価方法が同じなのか違うのか、違うとしてどのような点に差異があるのかを説明しておくことが望ましいと言えます。基本的にはアウトプットの量や内容で評価することが客観性の観点から分かりやすいと思いますが、日報等を作成させることによって日々の業務内容を「見える化」することも有用です。
  
なお、テレワーク対象労働者独自の賃金制度等を定める場合には、就業規則の変更手続きが必要となります。

勤怠管理もテレワーク最適化を

テレワークの導入・運用ルールとしてのテレワーク規定の要点は上述のとおりですが、具体的な勤怠管理方法についても工夫を凝らすことをお勧めいたします。勤怠管理システムには様々な商品がありますが、始業・終業の打刻や時差出勤、残業申請などすべてオンラインで完結させることができれば管理者側の業務効率も高まります。「隠れ残業」を抑止するという観点からも、テレワーク導入を機に従来のタイムカード方式を改め新しい勤怠管理システムを導入することも検討する価値があるでしょう。

4. ペーパーレス化とWeb会議-IT環境の整備と情報セキュリティーの確保

テレワークに必須なIT環境整備

テレワークによる業務効率化、労働生産性を向上させるためには、ペーパーレス化やWeb会議といったIT環境を整備することはもはや必須といえるでしょう。
  
各種資料を電子化するペーパーレスは、在宅勤務等のテレワークにおいて資料の持ち出しを防ぐ点でセキュリティー的にも望ましいものであり、電子ファイルであれば検索・整理も容易になります。
  
また、インターネット上で音声や映像、テキストなどの情報を共有しながら行うWeb会議も非常に便利なツールであり、これまでの常識にとらわれることなく、Web上でのコミュニケーションに慣れていくことが大切です。

テレワークにも安心・安全のセキュリティーを

情報セキュリティーを確保する観点からすると、テレワークのためのパソコン等の機器はできる限り会社から貸与するものを使用することが望ましいといえます。会社に管理権限のある業務用のPCだからこそ、企業が自由かつ柔軟にセキュリティー確保措置を取ることが可能となります。PC本体に情報漏洩防止の設定を行い、紛失・盗難時も位置情報の取得や初期化などをリモートに行うことができるようにすることは、安心・安全なテレワークを実現するためには必要な投資といえます。
  
また、従業員による不正が疑われた場合にも、会社が管理するPCだからこそ対象者のPCを回収したうえでログを含めた調査が容易になるという点も見過ごせません。

各種助成金等の活用も

IT環境の整備や情報セキュリティーの確保のためには投資が必要となりますが、自治体や厚生労働省などの各種助成・補助制度を活用することもご検討いただければと思います。例えば、厚生労働省では、「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」に新型コロナウイルス対策として特例を設け、時限的措置ではありますが、機器の導入や運用等を支援する助成を実施しています。

テレワークの導入・運用には専門家の支援を

テレワークは、新型コロナウイルスの感染防止対策や緊急時の事業継続性確保といった危機対応を可能にするのみならず、労働生産性向上や優秀な人材確保といった働き方改革の手段としても効用が高いものです。他方、制度設計が曖昧なままスタートさせたり、管理・運用がずさんであったりした場合には、労働者から「在宅勤務する権利」といった権利主張や「隠れ残業」を理由とした未払残業代請求等の思わぬ労務トラブルを引き起こしてしまうリスクがあります。労働関係法規に適合し、かつ成果を高めるテレワーク制度を導入・運用するためには、人事・労務に強い弁護士や法律事務所等の専門家による支援を受けられることをお勧めいたします。

 

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