傭車運転手からの団体交渉‐業務請負者と労組法上の「労働者」
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、労働組合との交渉を有利に進めるための方法をご提案するとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。合同労組やユニオンなどの労働組合との交渉でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
業務委託なのに団体交渉の申入れ
雇用契約関係にある従業員がユニオン等の労働組合に加入し、団体交渉の申し入れを行うということは、その要求の当否はともかくも、労働者の団体である労働組合の行動としては一般的な理解に適うものかと思います。ところが、ときに、自己所有のトラック等を持ち込んで運送業務を行う傭車運転手や、特定の授業のみを受け持つ講師等、業務委託契約に基づき独立して自営している者が労働組合に加入し、団体交渉の申入れをしてくることがあります。このような、「雇用契約」を結んでいない個人事業主ともいえる者についても、企業は団体交渉に応じる必要はあるのでしょうか。
労働組合法上の「労働者」
労組法の定義
労組法3条は、同法の「労働者」を、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義しています。これに対し、労働基準法9条では、同法の「労働者」を、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。また、労働契約法2条1項は、同法の「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義しています。
このように、法律によって「労働者」の定義は若干異なっています。
労基法上の労働者概念との違い
この定義から分かる労働者概念の労基法との相違点は、大きくは次の2つです。
① 使用者に現に使用されていること(「使用」性が問われていないこと)
② 労務に対する対価(「賃金」性)が厳密に問われているものではなく、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者とされていること
こうした定義上の違いは、それぞれの法律の趣旨から導かれるものといえますが、このことから、労働基準法や労働契約法上は労働者に該当しないものについても、労働組合法上は労働者に該当することもあり得ることになります。
最低労働条件の保障等を図ることを目的とする労働基準法に対し、労働組合法は、経済的劣位に置かれる者に団結行動や団体交渉を行うことを認めて労働条件の対等決定を促すこと等を目的としています(労組法1条1項)。このため、労組法上は、雇用契約に基づいて「賃金」を得る者に限らず、「これに準ずる収入によって生活する」経済的従属性の認められる者を広く「労働者」と捉えようとしているものと理解することができます。
労組法上の「労働者性」の判断基準
労使関係法研究会報告書(厚生労働省)
業務委託・独立自営業といった働き方をする人が加入する労働組合が契約先に対して団体交渉を求めた場合に、契約企業が労働者でないことを理由に団体交渉を拒否することがあり、その結果「労働者性」を巡って紛争に至る事例があります。こうした「団体交渉の入口」で争われる問題を解決するため、厚生労働省が設置した「労使関係法研究会」は、2011年、労働組合法の趣旨・目的、制定時の立法者意思、学説、労働委員会命令・裁判例等を踏まえて、労働者性の判断基準を報告書として提示しました。この報告書で示されている労組法上の「労働者性」の判断要素は次のとおりであり、実務上有益な指針となります。
1 基本的判断要素
① 事業組織への組み入れ
労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているかが考慮されます。一社専属で同業他社からの類似業務の受注が契約上又は事実上制約されているような場合には、労働者性を肯定する方向に働きます。
② 契約内容の一方的・定型的決定
契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているかが考慮されます。定型的な契約書式が用いられることは取引上多くありますが、契約の相手方ごとに交渉による変更の余地が実際上排斥されている場合には、労働者性を肯定する方向に働きます。
③ 報酬の労務対価性
労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するかが考慮されます。報酬が業務量や時間に基づいて一律に算出されている場合には、労働者性を肯定する方向に働きます。
2 補充的判断要素
④ 業務の依頼に応ずべき関係
労務供給者が相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるかが考慮されます。契約更新拒否や違約金等の不利益取扱いを背景として諾否の自由がないような場合には、労働者性を肯定する方向に働きます。
⑤ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務の供給を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘束を受けているかが考慮されます。マニュアルに基づいた業務遂行と報告を指示されているような場合には、労働者性を肯定する方向に働きます。
3 消極的判断要素
⑥ 顕著な事業者性
労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られるかが考慮されます。
事業別具体的判断
傭車運転手
個別具体的な事情ごとに上記判断基準に従って判断を行う必要があり、労組法上の「労働者」に該当する場合もあれば、該当性しない場合もあり得ます。
出勤時刻、発着時刻、待機場所、業務遂行方法等について詳細な指示を受け、報酬も出来高制ではあっても最低保障があり、月間出勤日数が決められてそれを下回ると報酬額を減額され、あるいは制服着用を義務付けられているなどの事情がある場合には、労組法上の「労働者」に該当し得るでしょう。
個人代行店
業務委託ではあっても、個々の業務の割振りが一方的になされて事実上その諾否の自由がなく、委託企業の制服を着用してその名刺を携行し、業務終了後は業務内容についての報告書を委託企業に提出することが義務付けられているなどの事情がある場合には、労組法上の「労働者」に該当し得るでしょう。
プロスポーツ選手
専門的な業務に従事している場合であっても、労組法上の労働者性が否定されるわけではありません。プロ野球選手やJリーグのプロサッカー選手についても、労組法上の労働者性が肯定されています(東京高判平成16年9月8日‐日本プロフェッショナル野球組織事件等)。
委託先事業者から団体交渉の申入れを受けた場合の企業対応
これまで見てきたように、業務委託契約を結んでいる個人事業主等であっても、労組法上は「労働者」に該当し、その結果企業は申し入れられた団体交渉に応じる義務が生じる場合があります。もちろん、労働者性が否定され、団体交渉に応じる義務がないこともあり得ますが、労働組合に加入し、交渉を申し入れているという事実からは、少なくとも当該事業主との間で何らかの問題が起き、あるいは起きようとしていることがうかがわれます。
そうすると、よほど明らかに労働者性が否定できる場合は別として、団体交渉という交渉の場が設定されるのであれば、企業としてもその機会を活用し、問題の早期解決に向けた対応をすることは、決して不利益なことではないものと考えます。「労働者性」にこだわり、団体交渉の応諾そのものを徹底して争うよりも、問題の根本的な解決を図ることを事案に応じて検討していくことが大切です。
団体交渉、労務管理には専門家の支援を
ここでは、業務委託契約を結んでいるような個人事業主等がユニオン等の労働組合に加入し、団体交渉の申入れを行ってきた場合の企業対応についてご説明させていただきました。
労働組合やその団体交渉への対応方法もケースごとに異なりうるものですが、慌てることなく大局的な見地から対応を判断してくことが必要です。
労働組合は労働問題に関し豊富な経験を有しており、「団体」としての強い交渉力を有しているため、企業側も十分な対抗策を用意したうえで組合活動に対峙することが大切です。各種労働法規への理解が不十分なまま不用意に対応すれば、意図しない不利益な結果を甘受しなければならなくなる危険があります。企業防衛のためには、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの支援を受けながら団体交渉に臨まれることを強くお勧めいたします。専門家の支援を受けることで、企業は過酷な交渉の負担から解放され、適切な方針のもと最良の解決を得られる可能性が高まるといえるでしょう。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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