社用車の自損事故での自己負担の割合とは?従業員に弁償させたい場合の流れについて弁護士が解説!

社用車の自損事故での自己負担の割合とは?従業員に弁償させたい場合の流れについて弁護士が解説!

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従業員の損害賠償責任

従業員に賠償請求したい!

従業員の中には、事故で社用車を破損させたり、備品を紛失したり、あるいは誤発注によって無駄な出費をしたりと、業務に従事する過程で会社に損害を与える行為に及んでしまうことがあります。ちょっとしたミス、僅かな損害といった程度のものであれば許せるかもしれませんが、同じようなミスを繰り返したり、あるいは損害が大きく結果が重大であったような場合には、会社が従業員に対し相応の責任を取らせたいと考えることは当然のことだと思います。

そこで、ここでは、従業員が会社に損害を与えた場合に、会社が従業員に対して損害賠償を請求することができるか、また請求するためにはどのような方法を取ればよいのかについて解説していきます。

職務上の義務違反と不法行為による損害賠償責任

労働契約は、賃金を対価として、労働者が使用者に使用されて労働することを内容とする契約です(労働契約法6条参照)。従業員である労働者は、労働契約上、使用者に使用されて労働する、つまり、使用者の指揮命令、業務命令を受けて労務を提供する義務を負っています。こうした契約関係において労働者は使用者の指揮命令のもと労務を提供するのですが、その職務遂行にあたり必要な注意を怠って職務上の義務に違反した場合には、それはすなわち労働者の債務不履行にほかなりません。したがって、これによって使用者に損害を与えた場合には、債務不履行による損害賠償責任が発生し得ることになります(民法415条、416条)。また、この場合、労働者の行為が使用者の権利ないし法律上保護された利益を侵害するものとして不法行為(民法709条)に該当し、労働者は不法行為に基づく損害賠償責任を負うこともあります。

このように、故意による場合はもちろんのこと、それが不注意という過失であったとしても、職務上負っている義務に違反して使用者に損害を与えた場合には、労働者は原則として会社に対し責任を負う立場にあります。したがって、現実に損害を賠償する責めを負うか否かにかかわらず、こうした事態を起こしてしまった従業員は、まずもって当該行為と結果に対する反省や謝罪を示すことが望まれるといえるでしょう。こうした反省の態度が一切見られず、ときに事故やミスを報告せず隠ぺいするなど不誠実を上塗りされたような場合には、使用者たる企業は従業員に対して賠償請求する意思をより強固に抱くことにもなりかねませんので、従業員の側もよく心得ておいてほしいと思います。

従業員の損害賠償責任の制限

このように、労働者は、必要な注意を怠って職務遂行上の義務に違反し使用者に損害を与えた場合には、原則として会社に対し責任を負うことになります。もっとも、使用者と労働者の関係性や事業活動の特性に鑑み、労働者の損害賠償責任には制限がかけられることが通例です。これは、他人を使用して事業を営む企業は、それによってより多くの利益を享受する以上、被用者がその事業の過程で損害を加えたときはそのリスクも負担すべきとする報奨責任の原理の考え方が根底にあります。したがって、企業としては、わざと物を壊した、あるいは横領したなどの故意による違法行為の場合などを除き、従業員の不注意によって生じた損害についてはそのすべての賠償を請求することは基本的には困難であると理解しておく必要があります。

この点について、最高裁判所は、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる」と判示しています(最高一小判昭和51年7月8日最高裁判所民事判例集30巻7号689頁)。

つまり、従業員が企業に与えた損害については、業務内容や労働条件、勤務態度、加害行為の態様や使用者による予防措置の有無など諸般の事情を考慮したうえで、従業員側が負担すべき責任割合が決まってくるということになります。それは個別具体的な事情に応じて変わるものですので、事案ごとに都度の判断が必要となってきます。

事故を繰り返す従業員に対する車両の修理費用の請求

自動車事故による損害

トラックやタクシーなどの運送事業者や、営業などで社用車の使用が必要な事業者などでは、従業員が業務遂行のなかで自動車事故に遭うことがあります。従業員の過失によって事故が起こり、第三者に損害を与えた場合には、企業は使用者責任(民法715条1項)により第三者に直接損害賠償金を支払うことがあります。この場合、企業は負担した賠償金を従業員に求償(同条3項)することになりますが、前述のとおりその求償額は、業務内容や加害行為の態様等、諸般の事情によるものの、全額ではなく相応の割合に抑えたものとすることが適当なことが多いといえます。なお、あくまで一例ですが、前掲最判の事例では、従業員がタンクローリーを運転中に車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により急停車した先行車に追突したという事故において、使用者が業務用車両を多数保有しながら保険に加入せず、また同事故は従業員が臨時的な乗務中に生じたものであり、普段の勤務成績は普通以上であったなどの事情を考慮の上、求償は4分の1の限度でのみ認められています。

このことは、自損事故の場合であっても同様です。自損事故は、単独事故であって運転者である従業員の過失が100%であることがほとんどでしょう。この場合、100%従業員が悪いといって車両等に生じた損害の全額を負担させるべきケースもないとはいえませんが、一般的には、自損事故も事業活動上不可避的に発生し得るリスクの一つとして、企業側も相応の責任を分担することが公平といえ、請求できる賠償額に制限が加えられることが一般的です。

事故を繰り返す従業員に対する損害賠償請求

従業員に対する損害賠償請求ないし求償請求は、諸般の事情のもとにその限度額が画されることになりますが、「事故を繰り返す」という態度はその諸般の事情の一つに挙げることができます。注意力散漫で規範意識も低く、事故を起こすことへの抵抗も薄いというのでは、この場合は本来回避可能な事故をも引き起こしているといえ、それによって生じる損害の多くは当該従業員の責任に帰属させるというのが公平な責任分担といえそうです。もちろん、その前提としては、企業側においても、事故防止に向けた注意や指導といった使用者として可能な限りの予防措置を実施しておくということが必要です。

過去13回と頻繁な交通事故を起こしていたタクシー運転手の事例では、その後に起こした事故の損害について、「事故に係る損害の全部を原告(注:従業員)に負担させることは損害の公平な分担という見地から信義則上相当」として、会社から従業員に対する損害金全額の求償が認められています(大阪地判平成23年1月28日労働判例1027号79頁)。

従業員に対する損害賠償請求等をする際には慎重な検討を

ここでは、社用車に損害を加えた従業員を例に、会社に損害を与えた従業員に対する損害賠償請求の可否について解説をさせていただきました。事業活動の過程では様々なリスクが生じうるものですが、従業員の不注意による損害の発生もまた事業活動上不可避的に発生し得るリスクとして、事業者である使用者は相応の責任を分担することが必要となります。このため、従業員に対して損害賠償請求をするにあたっては、事業の性格・規模、労働者の業務内容・労働条件・勤務態度、加害行為の態様、損害発生の予防措置の有無などを考慮の上、個々具体的なケースごとの適切な判断が求められます。

労働者の職務遂行上の注意義務違反については、事後の損害賠償請求はもとより、事前の義務違反の予防も大切です。それら損害発生を防ぐ体制整備等の有無が、結局は賠償請求にあたっての損害の負担割合にも影響を与えます。労働者の義務・責任やそれを基礎づける使用者による指揮命令・業務命令に関する事項については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、対応をされることを強くお勧めいたします。

真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。

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