その移動時間は時間外労働?-移動時間と労働時間性

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

労基法上の労働時間

賃金の支払い対象となる労働基準法上の「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。この労働時間該当性は、いわゆる「残業」であるところの時間外労働の有無を巡って争われることが多くありますが、ここでは「移動時間」の労働時間該当性について検討してみたいと思います。

様々な移動時間

「移動時間」といってもこれには様々なものがあります。例えば、次のような移動時間は労働時間にあたるでしょうか。
  
• 自宅から出張先に移動する時間
• 休日のうちに出張先に移動する時間
• 自宅から直接現場に行くまでの時間
• いったん待合わせ場所に集合してから送迎車で作業現場まで移動する時間
• 社宅から会社までの通勤時間
• 工場の入場門から更衣室までの移動時間
• 作業服に着替えたあとの更衣室から作業場所までの移動時間
• 会社ビルの入口から自分のデスクまでの移動時間
• 作業場からタイムカードが置かれている事務室までの移動時間
• 執務室を出てから会社建物を出るまでの移動時間

賃金の支払対象となる労働時間とは

時間外割増賃金を含めた賃金の支払い対象となる「労働時間」とは、上記で述べたとおり「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。この労働時間該当性は、就業規則や雇用契約の定め如何にかかわらず、そしてまた、タイムカードの打刻時間にかかわらず、その実態から客観的に判断されます。つまり、ある時間が労働時間にあたるか否かは、労働者の行為や活動が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まることになります(大星ビル管理事件‐最判平成14年2月28日、大林ファシリティーズ事件‐最判平成19年10月19日)。
  
移動時間についても、それらが使用者の「指揮命令下」に置かれているといえるかという視点でそれぞれ個別具体的に判断していくことになります。

移動時間についての労働時間該当性の具体的判断

出張先への移動

出張は労務提供場所を遠隔地として指示された業務態様の一つということになりますが、その場所への移動は労務を提供するための準備行為に過ぎず、業務そのものではないことが一般的です。したがって、出張先への移動中に特別業務遂行を命じられているものではなく、例えば新幹線の車内でビールを飲んだり読書をしたりするなど移動中の自由な活動が認められている場合には、その時間は使用者による「指揮命令下」に置かれているものではなく、労働時間には当たらないと考えられます。
  
裁判例の中には、電車、新幹線、飛行機等の公共交通機関を利用した出張先までの移動時間についての労働時間該当性を否定しながらも、自ら自動車を運転して出張先へ移動した場合には自由度が高くないことを理由に労働時間該当性を認めたものがあります。しかしながら、物品の運搬自体を目的としている場合等は別として、移動そのものは労務提供の準備行為に過ぎない以上、運転に伴う不自由さがあったとしても労働時間該当性は否定されるべきだと考えます。
  
なお、こうした出張先への移動が始業時刻から終業時刻までの所定就業時間内に行われた場合は、同移動時間は当然労働時間にあたります。所定労働時間は、まさに使用者の指揮命令下に置かれる時間であり、その間に移動を命じられたのであれば移動そのものが労務提供行為と考えられます。

【大阪地判平成22年10月14日‐シニアライフクリエイト事件(労判1019号89頁)】
判旨

出張等の際において、公共交通機関を利用して出張先に赴いたり、そこから帰ったりして直行直帰をする場合における移動時間であるが、物品の届けが主要な目的等として出張時間中も物品の管理が要請される等の特段の事情でもない限り、その自由度の程度からして、拘束時間とはいえても労働時間とまで評価することはできないと解するのが相当である。

通勤時間

自宅から職場までの移動に要する通勤時間は、労務を提供するために労働者の負担においてなすべき準備行為にすぎず、使用者の指揮監督下で労務を提供しているとはいえないため、労働時間性は一般に否定されるといえます。自宅が社宅や寮といった会社から指定された住居だったとしても異なるものではありません。
  
同様に、就労場所としての現場が頻繁に変わり得る現場作業員についても、同現場と自宅との直行・直帰の移動時間は、「通勤時間」として労働時間性は否定されると考えられます。
  
また、事業所等に一度集合したうえで就労場所である作業現場までの送迎がなされる場合も、その送迎車での移動時間は労働時間に当たらないと考えることができることが多いと思います。会社が手配する送迎車での送迎は、会社側が移動の便宜を図っているだけであって指揮命令下で労務の提供を受けているとはいえません。もっとも、その現場作業員のうちの運転を担当するものについては、送迎という業務を遂行していますので、その運転する移動時間は労働時間に該当するといえます。

事業場内での移動時間

工場の入場門から工場内の更衣室・ロッカー又は作業現場までの移動時間や、会社が入居するオフィスビルの入口から自席までの移動時間などについても、「通勤時間」と同様に考え、そうした移動時間は労務提供の準備行為として一般に労働時間性は否定されると考えられます。
  
もっとも、作業服・安全保護具などの着用が義務的で、しかも入念な着脱作業が必要な場合には、そうした更衣自体の業務性が肯定される結果、更衣室と作業現場との移動時間は労働時間に該当することとなります。
  
担当する業務の作業を所定終業時刻に終え、タイムカードを打刻するために事務所に寄る必要がある場合の事務所までの移動時間については、その移動中に見回り等の業務が付随していたり、事務所での引継ぎや事務作業などが予定されているのでない限り、既に業務から解放されている以上、労働時間該当性は否定され得ると考えます。
  
他方で、タイムカードの打刻による出退社の記録・報告にとどまらず、上司に対して就業時の状況を報告し,引継ぎや次回の業務内容等を確認するなどの行為が義務付けられている場合は、使用者の指揮命令下における業務遂行の一部をなすものとして、労働時間該当性が肯定され得るでしょう。

【最判平成12年3月9日-三菱重工業長崎造船所事件(判タ1029号161頁】
判旨

・入門ないし元タイム・レコーダーが設置してあった場所から更衣所ないし控所までの歩行については、入門ないしタイム・レコーダーまでの通勤歩行と同様労務を提供するための労務提供者の負担においてなすべき準備行為にすぎず、使用者の指揮監督下に労務を提供しているとはいえないので、右歩行に要した時間は労働基準法上の労働時間ではない。
  
・作業服への更衣・安全衛生保護具等の装着を更衣所等で行うこととされているので、事の性質上当然に右更衣所で更衣等をした後実作業に就くべく所定の準備体操場まで到達するための歩行も、本来の作業に不可欠の準備行為で、使用者の指揮監督下における労務の提供といえるから、右歩行に要した時間も同様に労働基準法上の労働時間というべきである。

【東京地判平成14年2月28日-東京急行事件(労判824号5頁)】
判旨

・駅務員の点呼は,各駅務員が助役等の上司と相対して行うものであること,出勤点呼は,単に出勤したことの報告をするに止まらず,当日の担当交番,始業時刻,心身の状況,励行事項等を読み上げる等して,各駅務員と駅務員を監督する立場にある助役等の上司とが,当日の勤務内容,心身の異常の有無を確認し,勤務に就く心構えを整える(整えさせる)ために行われ,また,退社点呼も,単に退社することの報告に止まらず,当日の就業時の状況を報告し,次回の担当交番,始業時刻等を確認するために行われるものであること等によれば,駅務員の点呼は,就業を命じられた業務の遂行に関連し,その遂行に必要な準備行為であるというべきである。
  
・駅務員の点呼は,就業を命じられた業務の準備行為であり,これを事業所内で行うことを使用者から義務付けられた行為であるから,特段の事情のない限り,同点呼及び出勤点呼後点呼場所から勤務開始場所までの移動は,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価すべき

不本意な未払い残業代請求を受けないために

様々な態様の移動時間について、類型別にその労働時間該当性を見てきましたが、実際には個別具体的な事情に応じて結論は異なり得ます。企業においては、各移動時間の実態や取扱い状況を確認し、適切な処理が行われているかを再点検いただければと思います。

労務管理には専門家の支援を

ここでは様々な移動時間の労働時間該当性について説明をさせていただきました。残業代請求がなされる事案では、こうした労働時間性に関する問題のほか、「割増賃金の基礎となる賃金」、「固定残業代制度」あるいは「労働時間規制の適用除外」など、様々な法的事項が争点となりえます。
  
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い賃金・残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。


 

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