使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き③(パワハラ編)
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、企業の経営者側に寄り添って、メンタルヘルス・ハラスメントなど各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。メンタルヘルス・ハラスメントでお困りの会社様は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
企業に迫る パワハラ防止措置の義務化
2019年3月、パワーハラスメント(パワハラ)を防ぐ措置を企業に義務付ける法案が閣議決定されました。今後、企業には相談窓口の設置やパワハラをした社員の処分内容を就業規則に設けることが義務付けられることになります。
セクシュアルハラスメントやマタニティーハラスメントについては、既に法律で防止措置が企業に課せられていましたが、これまでパワハラの対策については企業の自主努力に委ねられていました。ところが、パワハラ事案が増加していることに加え、パワハラが長期間にわたり執拗に繰り返された場合や長時間労働とともに行われた場合には、労働者の自殺という痛ましい事態が惹起されることなどから、法律による規制の必要性を求める声が強まっていたことによるものです。
パワハラは大きな経営リスク
全国の労働局に寄せられた労働相談では、パワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」が7万2000件を超えています。これによる精神障害の労災認定も増える傾向にあり、パワハラは社会問題化しています。
パワハラは、企業にとっては人材流出、生産性低下といった経営マイナス要因となるだけではなく、当該加害者とともに多額の賠償責任を課され得る点で、大きな経営リスクとしてとらえておく必要があります。また、社会的非難を伴い、信用を失墜させる点も無視できないリスクとなります。
パワハラの予防・解決に向けた提言
厚生労働省は、職場のいじめ・嫌がらせ問題について、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」(「報告書」)をまとめ、発表しています。そのうえで、同会議から「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」(「提言」)が発表されました。
報告書では職場におけるパワハラの要素や行為類型がまとめられていますが、これらについては別記事「使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き①(基礎知識編)にて紹介していますので、そちらを確認いただければと思います。
「提言」では、職場のパワーハラスメント問題への向き合い方や、パワーハラスメント問題に取り組むべき意義について論じたうえで、各企業あるいは働く一人ひとりに対し、パワハラの予防・解決に向けた取り組みを行うべきことを促しています。
パワハラの予防・解決に向けた取り組み
厚労省の報告書では、パワハラの予防・解決の取組み例が紹介されています。パワハラ対策においても、セクハラ対策におけるセクハラ指針(詳しくは「使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き②(セクハラ編)」で解説しています。)で示されている対策とパラレルに考え予防と解決の取組みを行うこと望ましいものと考えます。
パワハラ予防の取組み
・トップのメッセージ
組織のトップが、職場のパワーハラスメントは職場からなくすべきことを明確に示します。
・ルールの策定
就業規則にパワハラの内容や行為者に対する懲戒処分の内容等の関係規定を設けます。また、予防・解決についての方針やガイドライン、対応マニュアルなどを作成します。
・実態の把握
従業員へのアンケート等を行います。
・教育の実施
研修を実施します。
・周知と啓発
社内報やパンフレットなどで、会社の方針や取組み等についての周知と啓発を行います。
パワハラ解決の取組み
・相談や解決の場の設置
企業内・外に相談窓口を設置し、職場の対応責任者を決めます。外部専門家と連携を図ることはより望ましい対応といえます。
・再発の防止
再発防止研修等を実施します。
なお、相談窓口の設置にあたっては、パワハラについて相談したことや、相談内容の事実確認に協力した人が不利益な取扱いを受けることがないようなものとするとともに、その旨を従業員に明確に周知すべきことも、セクハラにおいて企業が講ずべき措置と同様です。
パワーハラスメントの言動例
パワハラ予防のための従業員教育としては、具体的に注意すべき言動例を挙げて実施することも有用です。以下、「パワー・ハラスメント防止ハンドブック」(人事院)にある「パワー・ハラスメントの言動例」の一部を紹介します。
暴言
上司Aは、部下に対して、間違いをすると、「こんな間違いをするやつは死んでしまえ」、「おまえは給料泥棒だ」などと暴言を吐く。部下が謝っても許してくれず、むしろ「存在が目障りだ。お前がいるだけで皆が迷惑している」など、暴言を吐き続けることがある。
執拗な非難
上司Cは、ある部下の作った資料に誤字があることを見つけたが、その部下は過去にも誤字等のミスをしたことがあったため、「なぜこのようなミスをしたのか。反省文を書くように」と言った。そこで、部下がミスをした理由や今後十分に注意すること等を記載した反省文を作って提出したところ、Cは、「内容が物足りない。もっと丁寧な反省文を書いて署名・押印しろ」などと言って三日間にわたって何度も書き直しを命じ、指示どおりの反省文を提出させた。
威圧的な行為
上司Eは部下の意見が気に入らなかったりすると、しょっちゅう、椅子を蹴飛ばしたり、書類を投げつけたりする。この間も、部下の目の前で、分厚いファイルを何度も激しく机に叩きつけていた。職員は皆萎縮して、仕事の相談ができる雰囲気ではなく、仕事が全然進まない
実現不可能・無駄な業務の強要
上司Gは、職場に異動してきたばかりの係員の部下に対し、正当な理由もなく、これまで3名で行ってきた大量の申請書の処理業務を未経験のその部下に全部押しつけ、期限内にすべて処理するよう厳命した。このような状況が続き、申請書の処理が滞留したため、その部下が「私にはもう無理だ」と訴えると、「おまえに能力がないからだ。期限内に一人で処理しろ」と激しく責め、聞き入れなかった。
仕事を与えない
上司Iは、ある部下について仕事ができない人間だと決めつけ、何の説明もなく役職に見合った業務を与えず、班内の回覧物も回さない。この間も、その部下が何か仕事を与えてくれるよう相談したら、自分の机にたまたま置いてあった書類を手に取って「これでもコピーしておけ」と命じただけであった。
仕事以外の事柄の強要
上司Kは部下に対して、毎日のように昼休みに弁当を買いに行かせたり、週末には家の掃除をさせたりする。皆嫌がっているのだが、断ると、怒鳴ったり、仕事上のペナルティをちらつかせるので言いなりになっている。
パワハラ予防のためには繰り返しの教育が必要
パワハラ概念は、行為を受けた者の主観を多分に含むものです。また、職場内における関係性、その背景・事情は何かなど、様々な要素によって、パワハラと評価されるか否かの判断が分かれます。そのため、「まさか自分がパワハラと言われるなんて」と、行為者に無自覚なことも多いのが実際です。
パワハラ予防のためには、厚労省がまとめた「報告書」や「提言」、あるいは裁判例などを参考に、繰り返しパワハラ教育を行うことによって、「業務の適正な範囲を超える行為」とはどのような行為なのかの意識付けをしていくことが肝要です。労働問題を専門的に扱う弁護士等による研修を実施するなど、企業として十分な予防措置を尽くしていくことが求められます。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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