残業許可制でダラダラ残業を防ぐ!
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
時間外労働
「残業」と呼ばれる時間外労働は、使用者の明示又は黙示の指示がある場合に「使用者の指揮命令の下に労働を提供している」ものとして労働時間にあたります。「黙示の指示」というのは、客観的にみて通常の所定労働時間内ではおよそ終了させることが不可能な大量の業務量を命じることや、残業していることを知りながらそれを黙認していた場合がこれにあたります。このような場合には、たとえ直接残業を命令していなくとも命令していたのと同視できるためです。
「勝手に残っていただけ」は通用するか?
よく問題となるのが、「終業時刻になったらすぐに帰るようにと口うるさく言っていた」「仕事が遅いことを気にして勝手に居残りをしていただけ」「残業代はいらないのでもう少しやります、と言って勝手に残っていただけで残業は命じていない」といったような、使用者としては「命令していない」と考えている場合です。
使用者としては、明示はもちろんのこと、黙示的にも残業を指示していないと考えている場合であっても、労働者が従事している内容が客観的にみて業務にあたり、それを行うことを許しているのであれば、やはりその時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」として労働時間に該当します。黙示の指示は、使用者の主観ではなく客観的に判断されます。使用者が当該時間外労働に対して異議を述べ、これを強制的にやめさせる等しない限り、残業することについて黙示の承諾があったと評価されてしまうでしょう。
Pコンサルタント事件‐大阪地判平成17年10月6日
会社側が従業員の残業は具体的な時間外勤務命令に基づくものではない旨の主張をしたのに対し、裁判所は、従業員は上司に対し時間外勤務をしたことの記載された整理簿を提出し、上司はその記載内容を確認していた以上、上司も従業員の時間外勤務を知っていながらこれを止めることはなかったというべきであり、少なくとも黙示の時間外勤務命令は存在したというべきであると述べて、残業代の支払を命じたもの。
H・P事件‐東京地判平成9年8月1日
・土曜休日(所定休日)の出勤について、会社側は、土曜日にどうしても訪問販売の活動に従事しなければならないものではないし、売上の集計、報告等の作業も土曜休日に行わなければならない事情はなく、会社が明示の指示はもちろん黙示の指示をしたこともないと主張
・裁判所は、通常の勤務日のみでは処理できない顧客への手紙等の発送や月末の売上に関する報告等の業務に従事したもので、土曜休日の出勤はタイムカードによって会社に管理され、会社において従業員がこれらの業務に従事していることを充分に認識しながら、これらの業務を中止するように指示を出すこともなかったのであるから、少なくとも会社による黙示の指示によって土曜休日出勤がなされていたものと認められると判断
残業許可制でダラダラ残業を防止
使用者としては、そもそも残業が必要なほどの業務量ではない、残業代欲しさにダラダラ居残りしているだけではないか、と思うようなこともあるかもしれません。このような場合であっても、居残りを許している、つまりタイムカード上退社時刻が終業時刻を超えて打刻されている状態にあれば、基本的には残業について黙示の承諾があったと事実上推認されてしまいます。
そこで、不必要な残業を防ぎ、会社として承諾をしていたと言われないようにするためには、残業許可制を敷くことが考えられます。残業に関する上司の命令の有無を客観的な文書として残し、上司の許可を得ない残業に対しては残業代を支払わない旨をしっかりと定めます。
■就業規則規定例
第○条(時間外、休日及び深夜労働)
1 会社は、業務の都合により、所定労働時間を超え、又は所定休日及び午後10時から午前5時までの深夜に勤務させることがある。
2 前項による勤務を命じられた者は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
3 第1項に規定する時間外、休日及び深夜労働(以下「時間外労働等」という。)とは、所属長の指示あるいは所属長に申請し承認された場合のみを対象とする。
4 時間外労働等を行う者は、事前に所定の時間外労働等命令簿に必要事項を記入し、所属長に申請を行い、所属長の承認を得なければならない。ただし、業務上の都合により事前申請が困難な場合には、事後申請を認めるものとする。
5 従業員は、業務の遂行に必要な時間数を超えて時間外労働等の申請をしてはならない。
■残業許可制は運用の仕方で明暗が分かれる
残業許可制を採用する企業は増えているように思いますが、制度として作ればそれでよいというわけではありません。制度導入直後は残業申請書をきちんと出し、それに対する許可を与え、そして実残業の内容を確認して残業代を支払うという手続きを踏んでいたとしても、だんだんと煩雑な手続きが面倒になり、事前申請とそれに対するチェックを怠るようになりがちです。
制度が形骸化していては、未払い残業代の請求を受けた際に、会社が「許可なく勝手に残っていただけで業務命令に基づく残業ではない」と反論したとしても、結局は黙示の指示が認定される可能性が高いでしょう。残業許可制は、厳格に運用してこそはじめて意味をもつことになります。
■定期的な周知で残業許可制を形骸化させない
制度を完璧に運用することはもちろん難しいことですが、使用者が本当に無許可残業を認めないという固い意思を有しているのであれば、会社としての立場を定期的に従業員に周知すべきだと思います。社内案内で繰り返し事前申請・許可のない居残りは残業として認めないということを通知します。また、こうしたルールに違反する従業員に対しては、個別に注意・指導あるいは残業禁止命令を出すなどして毅然とした態度で臨むことが大切です。
■S観光事件‐大阪地判平成18年10月6日
・事前に所属長の承認を得て就労した場合の就業のみを時間外勤務として認めることを定めた就業規則があったところ、時間外労働について所属長の承認がされていなかった事案
・裁判所は、就業規則の規定は不当な時間外手当の支払がされないようにするための工夫を定めたものにすぎず、業務命令に基づいて実際に時間外労働がされたことが認められる場合であっても事前の承認が行われていないときには時間外手当の請求権が失われる旨を意味する規定であるとは解されないと述べ、従業員らの時間外労働は会社による業務命令に基づくものと認めるのが相当であると判断し、残業代請求を認めた
労務管理には専門家の支援を
ここではダラダラ残業を抑止し不本意な残業代請求を受けないための残業許可制度について説明をさせていただきました。残業代請求の局面ではこのような残業許可制が適切に運用されているか否かについてしばしば問題とされますが、このほかにも「固定残業代制度」あるいは「労働時間規制の適用除外」など、様々な法的事項が争点となりえます。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い賃金・残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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