不況時の人員削減‐中小企業のための整理解雇実行の手引き
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
会社の存続をかけたリストラ‐整理解雇
経営不振による倒産を回避すべく、余剰人員を整理し固定費である賃金コストをカットするために行われるものが「整理解雇」です。整理解雇は、企業側の経営上の必要性に基づく解雇であり、能力不足や非違行為といった労働者側の責めに帰すべき事由によらないため、長期雇用慣行といった日本型雇用システムとも相まって、その適法性が厳しく判断される点に特徴があります。
「会社の存続がかかっている」ことを理由に整理解雇は容易に認められると考えられている使用者の方もいらっしゃいますが、実際はその逆です。解雇が有効となるための「客観的に合理的理由」と「社会通念上の相当性」(労働契約法16条)は、労働者側に落ち度がない整理解雇の局面ではより一層厳格に判断されるため注意が必要です。
整理解雇が無効となった場合の経営リスクは甚大
経営の合理化を図り、倒産を回避するために行う整理解雇ですが、その方法を誤った場合にはかえって企業の存続を危ぶませるほどの甚大なダメージを受けかねません。
解雇が無効となった場合、労働者は解雇期間中の賃金を請求することができます(民法536条2項)。働いてもいない労働者のために賃金コストを負うだけでも企業としては許容しがたいかもしれませんが、解雇を巡る裁判は長期化することが多く、結論が出るまでに1年、2年と時間を要します。また、整理解雇の対象者は通常一人だけではありません。複数人から同時に無効を主張され、あるいは一人から複数人に問題が波及していく可能性があります。
企業は、整理解雇が万一無効となった場合、そのリスクは非常に大きいものと認識しておかなければなりません。
【東京地判平成24年2月29日‐日本通信事件】
事案
データ通信等を行う会社を整理解雇された従業員3名が、当該整理解雇は無効な解雇だと主張して地位確認及び未払賃金を請求した事件
結論
高額な役員報酬等の削減等の検討をしていないなど解雇回避努力義務を十分に尽くしていたとはいえず、また、整理解雇対象者の選定基準は極めて抽象的で合理性に疑問があることなどを理由に、解雇濫用と判断され、従業員の請求を認容
⇒会社は未払賃金等として約3000万円の支払義務
【東京地判平成24年5月25日‐Jリース事件】
事案
債務超過による特別清算手続中において、高額の給与(月額125万円)を受け取っていた従業員を整理解雇したところ、当該整理解雇の無効を主張された事件
結論
整理解雇は、仮にその必要性が認められるとしても、解雇の回避に向け十分な努力を尽くさずに行われたものであって、その被解雇者の選定手続の合理性についても疑問があることなどを併せ考慮すると、解雇に至るのもやむなしとするほどの客観的かつ合理的な理由があるとは認められず、労契法16条所定の「客観的に合理的な理由」に欠けると判断し、従業員の請求を認容
⇒会社は未払賃金等として約1600万円の支払義務
【東京地判平成28年8月9日‐株式会社T事件】
事案
巨額の純損失を数期にわたって計上したことなどから整理解雇を行ったところ、同整理解雇は解雇権の濫用だと主張された事件
結論
整理解雇当時、人員削減の必要性が高度に又は十分に存在したとは認められず、解雇回避努力も十分なものと認めるには疑問がある上、人選の合理性を認めることも困難であるから、本件整理解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、その権限を濫用したものとして、無効
⇒会社は未払賃金等として2000万円以上の支払義務
整理解雇を有効に実施するための4要件
整理解雇も解雇(使用者による労働契約の解約)の一つですが、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります(労契法16条)。合理的理由と相当性は、労働者側に落ち度がない整理解雇の局面では厳格に解されることは既に述べた通りですが、経営上必要とされる人員削減をすべて否定するものではありません。整理解雇を巡っては数多くの裁判例が蓄積されていますが、裁判例をとおして整理解雇が有効となるための判断基準が確立されており、要件をクリアすれば整理解雇を適法に実施することが可能です。
もっとも、確立されているのは判断基準としての要件ないし要素であって、要件充足性の判断は個々具体的な事案によって当然異なります。また、従業員20人の企業と100人の企業、あるいは1000人の企業では求められる各要件の期待度は異なり、売上規模や人材活用の幅、あるいは事業内容によっても整理解雇の手段をとる場合の合理性と相当性は異なります。
したがって、整理解雇の4要件は次のとおりですが、実際に整理解雇を実施する場合の手順や方法は企業ごとに異なることにご留意いただく必要があります。
1 人員削減の必要性
不況、経営不振等による事業縮小、合理化等の経営上の必要性
要点
人員削減措置を実施しなければ「倒産必至」の状況にあることまでは求められませんが、債務超過や赤字累積など、人員削減を必要とするほどの経営危機、経営上の困難を客観的な数字に基づいて説明できることが必要です。
注意点
整理解雇実施後に残った従業員への大幅な賃上げや賞与の支給、あるいは多数の新規採用を行うなど、整理解雇と矛盾した経営行動をとることは人員削減の必要性を否定する重要な事実となります。
2 解雇回避努力義務
配転、一時帰休等による解雇回避のための努力
要点
相当な経営上の努力ないし合理的な経営上の努力を尽くしているかが厳しく審査されます。配転や希望退職の募集など他の手段を試みることなくいきなり整理解雇の手段に出た場合は、ほとんど例外なく努力が足りないと判断され整理解雇は無効とされます。
注意点
配転や出向などを行うことのできない小規模事業者については、そうした配転措置等による解雇回避の努力を行う余地がないことは考慮されます。もっとも、だからといってその他の努力義務が免除されるわけではありませんので、事業規模や置かれた経営環境に応じた経営上の努力を尽くすことが必要です。
雇用調整助成金と解雇回避努力義務
雇用調整助成金とは、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成されるものです。この助成金では、企業が従業員に支払った休業手当負担額等の3分の2の金額を受給することができます(新型コロナウイルス感染拡大に伴う特別措置時には、休業手当負担額の8割から9割に受給金額が拡大。)。この雇用調整助成金も、雇用維持のために用意された公的支援である以上、その活用は企業に課せられる解雇回避努力義務の一つといえます。
もっとも、助成金の受給要件は複雑であって必ずしも受給できるとは限らないうえに、仮に助成金を受給できるとしても審査に時間を要することや、休業手当を支払った後に申請するという時系列となるため、休業手当を支払ってから助成金を受給できるまでには2~3か月程度を要することが一般的です。そのため、2~3か月もの間の休業手当相当額の支払いをするだけの資金繰りの目途がつかない場合には、企業としては助成金を活用しての雇用維持手段を取りづらいのが実情であり、雇用調整助成金の受給は画一的に求められる努力義務とはいえないと考えます。
3 解雇対象者選定の必要性
合理的な人選基準の設定と公正な適用
要点
①欠勤日数、遅刻回数、懲戒処分歴などの勤務態度や非違行為の有無、②勤続年数などの企業貢献度、③「共稼ぎの者で配偶者の収入などで生計が維持できる者」などの経済的打撃の低さ、④「50歳以上の者」などの年齢といった選定基準を、一つないし複数組み合わせて被解雇者を選定します。基準をまったく設定しないで行われる整理解雇はほとんどの場合において無効となります。
注意点
選定基準を設定したら、その基準のうち何を重視し、どのような順序であてはめたかを説明できることが大切です。なお、能力や成績を基準とすることも認められますが、主観的な評価基準はその正当性を証明することが困難であるため、できる限り客観的な基準を設定して人選を行うことが望ましいといえます。
4 手続の妥当性
十分な説明、納得を得るための誠意ある協議
要点
人員整理を行うにあたっては、労働組合又は労働者に対して、整理解雇の必要性とその時期や規模、方法等につき丁寧な説明を行い、十分な協議を尽くすことが求められます。たとえ企業側提案に対して労働者側からの納得が得られないとしても、使用者として「誠意を尽くしたか」否かが問われているといえます。
注意点
経営上の必要性については、資料を提示するなど透明性をもって説明することが大切となります。組合との協議により賃金削減などの解雇以外の人件費削減方法をとることができる可能性もあるため、こうした手続の履践をないがしろにしてはいけません。
整理解雇の実施には専門家の支援を
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店による整理解雇実施サポート
当法律事務所では、企業様が整理解雇を実施するにあたり、次のような法務支援を行っています。
① 人員削減手法レクチャー
整理解雇を含めた人員削減手法をご提案し、対応プロセスをご説明します。
② 整理解雇プランの策定
企業の置かれた状況に応じ、整理解雇を有効に行うためのプランを策定いたします。
③ 退職勧奨、配転プランの策定
解雇回避努力義務を履践するためにとるべき方法を策定します。
④ 退職勧奨、配転命令の実施支援
退職勧奨等の実行の管理及び指導を行います。
⑤ 労働組合、労働者への説明会立会い
説明会や団体交渉あるいは従業員との面談に同席し、説明を補助します。
⑥ 整理解雇の実行支援
整理解雇実行の管理及び指導を行います。
⑦ 不当解雇を主張する従業員への対応
従業員との協議、交渉等を行い、解決を図ります。
⑧ 訴訟対応
労働審判や訴訟等、法的手続きへの対応を行い、解決を図ります。
経営者の皆様へ
整理解雇は、上記でみた4要件に従った枠組みの中で実施する必要があり、各企業の置かれた状況に応じたプランを策定したうえで慎重に実施していくことが大切です。解雇無効を主張され裁判を起こされないために、あるいは労働者側からそうした主張がなされた場合に適切に紛争を解決するために、企業が整理解雇に踏み込むにあたっては、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、その計画の策定と実施をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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