能力・適格性が欠如する問題社員対応のポイント
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
能力・適格性欠如社員とは
経営の最も重要や要素は「人」「モノ」「カネ」と言われますが、中でも経営者にとって悩みが尽きないものは「人」の問題ではないかと思います。事業発展の成否は、結局のところ「人」次第とも言われますが、要所にふさわしい人材を採用・教育できないという悩みにとどまらず、自社にとって大きなマイナスとなる問題社員の存在は経営者に一層のストレスを与えます。問題社員と一言でいっても様々なタイプの社員がいますが、ここでは概ね次のような社員への対応のポイントを見ていきたいと思います。
イ)能力不足
ロ)成績不良
ハ)勤務態度不良
ニ)適格性欠如
中小企業では特に、大企業とは異なり重厚な採用プロセスを経ないことが多く、しかも昨今の人手不足の影響から採用基準を下げざるを得ないことから、こうした能力・適格性に欠ける問題社員を採用してしまうリスクが増大しています。
能力、態度、考えなどにおいて会社の方針、理念に合わないような社員がそのままその会社で働き続けることは、特に人間関係が緊密な中小企業では、社員と会社双方にとって不幸なことと言えます。勤務態度が著しく不良など、企業としてもはや看過しがたいレベルに至っている場合には、使用者は、会社を守るため、そうした問題社員に退社を含めた相応の対処をとらざるを得ないとこともあるでしょう。
日本の解雇規制の考え方を知る
もっとも、日本では、期待された職務遂行能力を欠くローパフォーマー社員や勤務態度不良などの問題社員を解雇することは厳しく制限されています。いわゆる「解雇権濫用法理」と言われるもので、労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています。つまり、解雇には客観的に合理的な理由と社会的相当性が求められる結果、問題社員であっても簡単には解雇できない、ということです。
「なぜ、仕事ができない社員に給料を払い続けなければならないのか。」「なぜ、上司の命令を聞かないような社員をクビにできないのか。」と疑問に思われる経営者の方も多いと思います。ある地方局で2週間余りの間に2度も寝坊をし、早朝のラジオニュースを放送できないという放送事故を起こしたアナウンサーが解雇された事件がありますが、裁判所は解雇を無効と判断しています。
このような日本の解雇規制の厳格さは、「労働者保護」という理由ももちろんありますが、その根底には長期雇用制度(終身雇用制度),年功賃金制度を核とする日本型雇用システムの存在があります。日本では、従業員を雇用するにあたって、特定の職務に限定して採用するというよりは、いわゆる「総合職」のような形で、包括的な「従業員たる地位」を設定することが広く行われています。その結果、たとえある職務における能力が欠如していたとしても、別の職務へ従事させることもできるのではないか、という雇用継続の方向での思考が可能となります。
逆に言えば、特定の職務(ジョブ)に限定して雇用した場合には、その特定された職務遂行能力を保有していない従業員に対しては、契約違反を理由に解雇がしやすくなるでしょう。
裁判例の傾向を読み解く
こうした日本の解雇規制に照らせば、問題社員であったとしてもすぐに解雇に踏み切るのではなく、今解雇した場合にその解雇は有効となるか、解雇が有効とならないのであれば、どのように退職をさせ、あるいは教育・指導を進めていくべきかということを事前に検討し、慎重に事を進めていく必要があります。まずは、裁判例の傾向から、解雇の有効・無効のおおよその「相場観」を掴んでおくことが大切です。
【セガ・エンタープライゼス事件‐東京地判平成11年10月15日】
■全従業員の中で下位10パーセント未満の人事評価であり、職務遂行能力も平均的な水準に達しているとはいえない従業員を、退職勧告の上、解雇した事例
相対評価を前提として下位の考課順位の者を解雇することができるとすれば、会社は毎年一定割合の従業員を解雇できることになってしまうこと、会社が雇用関係を維持する努力をしたとは認められないことなどを理由に、解雇を無効と判断
【森下仁丹事件‐大阪地判平成14年3月22日】
■販売職としての業績不振、大量の伝票処理ミスとそれによる誤った決算書作成など、技能発達の見込みがないとされた従業員を解雇した事例
■会社による当該従業員の評価は不当な評価ではないものの、大量の伝票処理のミスは従業員にとって不慣れな業務であったこと、別の部署などでは従業員がミスなく業務を行うことができる職種があること、就業規則上、人事考課の著しく悪い者等については降格という方法もあり得ることなどを理由に、解雇を無効と判断
【エース損害保険事件‐東京地決平成13年8月10日】
■長期間勤続してきた正社員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇した事例
■会社側の一方的な合理化策の結果、不適切な部署に配置された社員らは、そのために能力を発揮することについて当初から障害を抱えていた点などにおいて労働者側に宥恕すべき事情があり、また、研修や適切な指導も行われていなかったことなどを理由に、解雇を無効と判断
【日水コン事件‐東京地判平成15年12月22日】
■通常6か月程度で完了する会計システム課の作業に4年かかるなど技術・能力・適格性が劣り、上司に反抗する等人間関係のトラブルも起こしていた社員を解雇した事例
■会社側は、何度も当該従業員に対して面談、指導、レビューなどの業務改善の機会を与え、能力に問題があることを伝えた上で報告・連絡・相談の重要性についても再三再四にわたって指導し、上司との間で十分な確認・調整が行われるように配慮していた一方、当該従業員は、主体的・積極的に情報を入手し、問題点を発見し、これを解決しようとする姿勢に欠け、さらには指示した者に自ら状況を説明して検討を求めるなどの働きかけもなかったことが認められ、長期にわたる成績不良や恒常的な人間関係のトラブルの原因は、社員として期待された適格性と当該従業員の素質、能力等が適合しないことによるもので、会社の指導教育によっては改善の余地がないことなどを理由に、解雇を有効と判断
【日本ストレージ・テクノロジー事件‐東京地判平成18年3月14日】
■業務上のミスが多数に及び、社内外から多くの苦情が寄せられ、上司の指示にもしばしば従わなかった従業員に対してなされた就業規則所定の解雇事由「職務遂行能力の欠如」を理由とする解雇がなされた事例
■当該社員は、当初就労した部署において業務上のミスを繰り返し、上司の指導・注意にも従わない態度であったところ、当該社員に就労継続のチャンスを与えるべく他の部署へ異動させたにもかかわらず、その異動後も上司を批判してその指示に従わず、報告を怠り、顧客に対しても不適切、不誠実な態度をとって多くの苦情が寄せられ、上司からの再三の指導・注意にもかかわらず自己の勤務態度を反省して改善することがなかったと認められることなどを理由に、解雇を有効と判断
企業がとるべき問題社員対応の要点
上記裁判例は一例ですが、数々の能力不足、勤務態度不良社員解雇の裁判例から読み解ける問題社員対応の要点は次のとおりです。
①改善の機会の付与
たとえそれが重大なミスであったとしても、基本的には1度や2度のミスで解雇することは許されません。ミスは過失であって悪意あるものではないため、会社側もそうしたミスが起きないように配慮する義務があるといえます。そのため、会社には、社員の能力向上等のための研修その他の機会を設けるなど、相当期間にわたって当該社員の業務遂行能力向上、勤務態度改善のための努力をすることが求められます。
②客観的な指導・評価
能力が劣っている、勤務態度が悪いといったことも、感覚的なままでは説得力をもちません。これを客観化することが必要です。したがって、問題点の明確化 ⇒ 目標設定 ⇒ 目標達成のための指導 ⇒ レビュー ⇒ 目標の再設定 を行うなど、社員の現在地と業務内容、企業が求めるレベルなどを客観化することが大切です。
③再チャレンジのチャンス
ある部署の業務について職務遂行能力が劣っていたとしても、他の部署であれば平均的な能力を発揮できる可能性もあります。そのため、できれば異動の機会を与えたいところです。
④退職勧奨
会社としてやるべきことをやり尽くしたか、という観点で考えた場合、解雇に至る前に退職勧奨を行うことも大事な要素です。穏便に事を終結させる(紛争化リスクを最小にする)という意味においても、使用者側は解雇権を行使する前に退職勧奨を行うべきと言えるでしょう。
⑤プロセスの証拠化
法的手続きとなった場合、会社側の主張を裁判所に認めてもらうためには証拠資料が必ず必要となります。問題社員対応のすべてのプロセスは、文書などの客観的な資料を残しながら進めていくことが肝要です。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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