労働委員会への救済申立てに対する対応

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、労働組合との交渉を有利に進めるための方法をご提案するとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。合同労組やユニオンなどの労働組合との交渉でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

不当労働行為の救済

労働組合法7条は、使用者の不公正な行為を「不当労働行為」として列挙し、使用者による不当労働行為を禁止しています。不当労働行為には大きく①不利益取扱い、②団交拒否、③支配介入の3つの類型があり、労働組合への加入・結成又は組合活動をしたことを理由とする労働者への不利益な処分や、正当な理由なく使用者が組合との団体交渉を拒否することなどが禁止されています。
  
ユニオン・合同労組などの労働組合が使用者にこうした不当労働行為があると考えた場合、組合から次のような法的手段をとられる可能性があります。

1司法救済

訴訟提起、仮処分の申立、労働審判の申立

2行政救済

労働委員会への救済申立て
  
ユニオンによるこれらの対抗措置のうち、ここでは行政救済である労働委員会への救済申立てがなされたときの対応について解説していきます。

労働委員会による救済

労働委員会

労働委員会は、労組法によって設置された独立行政委員会です(労組法19条以下)。労働委員会は各都道府県に設置される都道府県労働委員会と中央労働委員会から成り立っており、使用者委員、労働者委員、公益委員の三者構成の委員会です。三者の委員数は各同数であり、愛知県ではそれぞれ7名ずつ計21人の委員が知事により任命されています。なお、労働委員会の名簿は公表されており、当事務所所在の愛知県の委員名簿は愛知県のホームページから閲覧することが可能です。

救済申立ての手続き

1申立て
申立人

労働委員会に不当労働行為の救済を求めることができるのは、労働組合と労働者個人です。もっとも、団交拒否については、団体交渉の当事者は労働組合ですので、労働組合のみが申立人となります。

申立先

労働者もしくは使用者の住所、労働組合の主たる事務所の所在地又は不当労働行為の行為地にある都道府県労働委員会が申立先となります(労組施令27条1項)。

手続の開始

不当労働行為を受けたとされる労働組合又は労働者が都道府県労働委員会に申し立てることによって手続きが開始されます。

申立て期限

不当労働行為の救済申立ては、行為の日(継続する行為の場合はその終了した日)から1年以内になされる必要があります(労組法27条2項)。

2調査

労働組合から不当労働行為の救済申立てがなされると、申立書が使用者に送付されます。使用者は、申立書を確認のうえ、使用者側の主張を「答弁書」にまとめるとともに、自らの主張を裏付ける証拠を提出する必要があります。
その後、調査期日が開かれ、互いの主張や証拠の整理が行われます。

3審問

証人尋問や当事者本人に対する尋問が行われます。

4命令

労働者や労働組合からの申立に理由があると判断される場合は救済命令が、理由がないと判断される場合には申立てを棄却する命令がなされます。

救済申立てに対する使用者の対応

答弁書の提出

労働者又は労働組合から救済申立てがなされ、申立書を受け取った使用者は、自らの主張を記載した答弁書を労働委員会に提出することになります。この答弁書は原則10日以内という短期間にその提出期限が設定されることから(労委規則41条の2第2項)、使用者としては迅速な対応をとらなければなりません。
  
使用者の行為の正当性を理論的にまとめあげ、それを裏付ける証拠を整理して提出する必要があるため、救済申立てに対する準備には相当な負担がかかります。団体交渉の段階から弁護士に依頼されている場合は良いですが、そうでない場合は、申立書を受け取ったらできる限り早く弁護士に相談し、労働問題に関する専門的知識や経験を有する弁護士への依頼も検討します。

労働委員会への出席

弁護士に依頼していない場合には、労働委員会の手続きには会社の人事権、決裁権を有している者が必ず出席する必要があります。
  
弁護士に依頼している場合であっても、通常の裁判とは異なり、事案の内容を理解した会社の担当者の方も出席することが望ましいケースが多いといえます。各期日では事実関係の確認のための事情聴取が行われることが多いため、書面で主張をまとめたうえで、細部の内容やニュアンス等については期日内で口頭により説明し、会社の主張の正当性をよりよく労働委員会の委員に理解してもらえるようにします。

労働委員会における使用者側対応のポイント

労働委員会による平均審理期間は約1年6か月となっており、救済申立てがなされた場合には長期間にわたって手続への対応を余儀なくされます。期日における審理は1回あたり2時間程度を要し、期日に向けた事前準備も必要となります。
  
ここで大事なのは、期日に向けた準備を決してサボらないということです。期日において直接口頭で自らの主張を展開するだけでは、どうしても理路整然とならずその主張に理解を得ることが困難となります。また、事情聴取の内容が増えるため時間が余計にかかってしまいます。事前に主張を法的に整理して書面にまとめることで、使用者側の主張が明確になり、期日での聴取もスムーズに進行し、委員への説得力を持つことになります。
  
また、実際には和解が行われることも多いことから、紛争の長期化や訴訟となった場合の影響等様々な要素を考慮したうえで、使用者としての対応方針を検討しておく必要があります。

救済命令の内容

労働者又は労働組合による申立てに理由があると認められた場合、労働委員会から救済命令が出されます。この救済命令は、使用者による不当労働行為を解消することを目的とするものであり、どのような内容の命令を下すかについては労働委員会に裁量権が認められています。
  
労働委員会が発する救済命令の典型例としては、①不利益取扱いにあたる解雇については、解雇を撤回し原職に復帰させるように命令が出され、②団交拒否については、労働組合が要求する事項について誠実に交渉をせよという命令が出されることになります。

救済命令に対する不服申立て

都道府県労働委員会から出された命令に不服がある使用者は、次の2つの方法でこれを争うことができます。

①中央労働委員会への再審査の申立(労組法27条の15)

再審査の申立は、都道府県労働委員会の命令の交付を受けたときから15日以内に行わなければなりません。期間が短い点は注意が必要です。

②裁判所への取消訴訟の提起

労働委員会の命令も行政処分ですので、その処分の取り消しを求めて取消訴訟を提起することができます。使用者側の出訴期間は命令の交付を受けたときから30日以内となっているため(労組法27条の19)、この場合も非常に短期間で提訴準備を行う必要があります。

救済命令違反に対する制裁

労働委員会の命令は、命令の交付の日から効力を生じます(労組法27条の12第4項)。そのため、使用者は、救済命令が出され、その命令書の写しの交付を受けたときから、遅滞なくその命令を履行する義務を負うことになります。
  
中央労働委員会への再審査の申立てをせず、かつ取消訴訟を提起しなければ、都道府県労働委員会が出した救済命令が確定します。救済命令が確定したにもかかわらず、使用者がこれを履行しない場合は、50万円以下の過料に処せられます(労組法32条)。また、救済命令が裁判所の確定判決によって支持された場合に命令違反をすれば、1年以下の禁固もしくは100万円以下の罰金、またはこれらが併科されます(労組法28条)。

団体交渉には専門家の支援を

合同労組、ユニオンなどの労働組合対応においては、「労働法」という専門領域のみならず、「団体交渉」という局面での特別な交渉力が必要とされます。労働組合は労働問題についてある種のプロフェッショナルであり、豊富な団体交渉の経験を有しているため、企業が労働組合と対峙するにあたっては、方針を立て入念な準備を行うことにより、意図しない不利益な交渉結果とならないよう気を付けなければなりません。企業防衛のためには、労働問題に強い弁護士などの支援を受けながら団体交渉に臨まれることを強くお勧めいたします。専門家の支援を受けることで、企業は過酷な交渉の負担から解放され、適切な方針のもと最良の解決を得られる可能性が高まるといえるでしょう。


 

当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。

実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー

関連記事はこちら

労働コラムの最新記事