経歴詐称の社員を解雇したい!
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
経歴詐称と企業対応
経歴詐称
経歴詐称とは、企業への入社申込みにあたり、学歴や職歴、犯罪歴などを詐称することです。会社としては、経歴に裏付けされた労働力を期待して雇用するわけですので、詐称によって前提が覆されれば予定していた企業運営に支障が生じる恐れがあり、また、このような詐欺的行為に及ぶ労働者との信頼関係は喪失され得ます。そのため、使用者としては、労働者の経歴詐称が判明した場合には、何らかの処分を行うことを検討し、詐称の内容や程度によっては当該労働者に企業からの退場を望むこともあるでしょう。
経歴詐称発覚時期による違い
経歴詐称は、それが発覚する時期によって、企業がとりうる対応は次のとおり異なります。
イ) 内定段階
採用内定段階では、就業自体は始まっていませんが、始期付解約権留保付で労働契約は成立しています。この段階で経歴詐称が判明した場合には、内定取消しが検討されることになります。
内定通知書等には、「提出書類への虚偽記入」等の経歴詐称が内定取消事由として記載されることが通例ですが、労働契約自体は成立しているため、内定取消しにも解雇権濫用法理が適用されることには留意が必要です。したがって、経歴詐称を理由とする内定取消しも、あらゆる経歴詐称において行えるというものではなく、その重大性等から、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるだけの根拠が必要となります。
ロ) 試用期間段階
試用期間といえども既に就業が始まっていますので、本採用拒否が検討され得るとともに、事案によっては本採用拒否以外の処分として懲戒処分も選択肢として検討されます。
試用期間も解約権留保付で労働契約関係は成立しているとみられることから、本採用拒否は法的には解雇にあたり、解雇権濫用法理の適用を受けることには留意する必要があります。
ハ) 試用期間経過後
この段階では、懲戒解雇を含めた懲戒処分又は普通解雇が検討され得ます。懲戒処分又は解雇を行うためには、それぞれ合理的理由と相当性を備えることが必要です(労働契約法15条、16条)。
経歴詐称の内容・程度と解雇の可否
経歴詐称と解雇
上記のとおり、懲戒解雇又は普通解雇を行う場合はもとより、内定取消しや本採用拒否を行う場合にも、それが客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるだけの根拠が求められます。観念的には【内定取消し】<【本採用拒否】<【解雇】<【懲戒解雇】の順に合理性と相当性が厳しく要求されることになりますが、これを数値化することはできませんので、事案ごとに個別具体的に判断することが必要です。
炭研精工事件‐最判平成3年9月19日(判示は原審の東京高裁平成3年2月20日及び東京地裁平成2年2月27日)(労働判例592号77頁)
「雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うというべき」
「最終学歴は、・・・単に控訴人の労働力評価に関わるだけではなく、被控訴会社の企業秩序の維持にも関係する事項であることは明らかであるから、控訴人は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる」
「学歴及び公判係属中であるという二点においてその経歴をいつわっていること」「刑は執行が猶予されているものの、その理由とされた犯罪行為は、社会的に強く非難されるべき行為であって、それだけ被告会社の社会的信用を害し、他の従業員に悪い影響を及ぼすおそれのあるものであったのであるから、原告の被告会社における職務内容や地位を考慮にいれても、なお本件解雇が解雇権の濫用の当たるとするだけの事情を認めるに足りる証拠はない」
グラバス事件―東京地判平成16年12月17日(労働判例889号52頁)
原告は,JAVA言語のプログラミング能力がほとんどなかったにもかかわらず,本件経歴書にはJAVA言語のプログラミング能力があるかのような・・・記載をし,また,採用時の面接においても,・・・同趣旨の説明をしたものであるところ,原告は,本件開発に必要なJAVA言語のプログラマーとして,採用されたのであるから,原告は,「重要な経歴を偽り採用された」というべき」
経歴詐称の防止と判明時の企業対応
経歴詐称社員採用の防止
経歴詐称を防止するためには、履歴書や職務経歴書に加えて、前職の退職証明書を提出させることが有用です。
退職証明書は、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について労働者から証明書を請求した場合に、使用者において交付することが義務付けられているものです(労働基準法22条1項)。この証明書は労働者のみが取得できるものですので、採用選考時に対象者に対して前職の退職証明書を取得して提出するよう依頼します。
仮に退職証明書の提出を拒まれた場合には、その理由を確認し、そうした事情も採用選考の判断材料とします。
経歴詐称社員に厳しい対応をとるために
経歴詐称を理由とした内定取消しや本採用拒否、あるいは解雇を行うためには、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるだけの根拠が必要となります。その経歴詐称が会社にとって重大なものであるといえるかが重要となりますので、採用にあたっての募集要項(応募条件)の記載は大切です。どのような職務に従事させる予定でどのような能力が求められているのかをできるだけ具体的に明示しておくことは、そうした能力に関連する詐称については特に当該労働者との間の信頼関係に重大な支障をもたらすと位置付けることができます。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、経歴詐称が判明した場合の問題社員対応について説明させていただきました。経歴詐称は企業にとって労働者との信頼関係に重大な支障を生じさせる事由ですが、その対応は労働関係法規の規制に抵触しないように慎重に行う必要があります。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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