団体交渉で休業補償100%を求められたら‐休業と休業手当
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、労働組合との交渉を有利に進めるための方法をご提案するとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。合同労組やユニオンなどの労働組合との交渉でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
新型コロナウイルスの影響による休業と団交申入れ
新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。企業の生産活動や営業にも大きな影響が出ており、製造業では派遣社員を中心に減産による休業(自宅待機)措置が取られ、あるいは飲食や宿泊業その他のサービス業においても営業自粛等により休業措置が取られることが増えてきました。
企業がこうした休業措置を取る場合、法律の定めに従った休業補償を労働者に対して行いますが、従業員の中には地域ユニオンなどの労働組合に駆け込み、休業中も100%の賃金保障を請求してくることがあります。特に外国人労働者などは日本の雇用制度、労働法制をよく理解されておらず、突然の休業に驚いて労働組合に加入することが多いように思います。
ここでは、ユニオンなどの労働組合から団体交渉の申入れがなされ、休業中の賃金100%の支払いを求められた場合の企業対応を説明いたします。
なお、休業補償については、【経営上の理由により従業員を休ませる場合の対応‐休業補償と政府による休業支援策】でも詳しく解説していますので、こちらも併せてご参考いただければと思います。
休業させる場合の休業補償
休業と休業補償
景気後退等による減産や政府による営業自粛要請により従業員を休業させる場合には、企業は「使用者の責めに帰すべき事由による休業」として、休業期間中、平均賃金の100分の60以上の手当を労働者に支払うことが必要となります(労働基準法26条)。平均賃金の6割以上という水準が法の要請する休業手当の額ですので、就業規則や賃金規定でこれを上回る水準の金額を定めている場合にはその額となりますが、多くの企業では法定された基準に従い平均賃金の6割を休業手当の額として定めていることが多いでしょう。
※ 平均賃金
平均賃金は、労働者の通常の生活資金をありのままに算出するという観点から、直近3か月間に支払われた賃金総額を、その期間の総日数で割って算出されます(労働基準法12条)。臨時の賃金や3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)は、通常の生活資金ではないため賃金総額には含めません(同条4項)。なお、日給制や歩合制の労働者又は欠勤等が多く賃金総額が少額となる場合には、労働日あたりの賃金の60%が最低保障額とされています(同条1項但書)。
コロナ関連休業と「不可抗力」
労基法26条の休業手当の支払い義務は「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合に発生するものであり、「不可抗力」の場合にはその義務を負いません。
ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されていますが、新型コロナウイルスに関連した休業の場合はどのように考えられるでしょうか。ケース別に検討してみたいと思います。
イ) 減産や仕事の減少により自主的に休業させる場合
減産等による人員余剰を理由とした休業は、不可抗力とは言えませんので休業補償が必要です。
ロ) 営業自粛による休業
厚生労働省は、新型コロナウイルスの集団感染(クラスター)防止のために、①換気の悪い密閉空間、②多数が集まる密集場所、③間近で会話や発生をする密接場面という3密を避けるように注意喚起しています。この3密として名指しされているものにライブハウスやスポーツジム、ナイトクラブなどがあり、政府はこれらの施設等を利用しないように呼び掛けるとともに、企業側には営業活動の自粛を求めています。
こうした政府の要請等や社会の雰囲気、あるいは利用客や従業員の安全のために営業を自粛し、従業員を休業させる場合も、個別の例外はあるかもしれませんが、一般的には不可抗力には該当しないと考えられます。なぜなら、政府の要請は法的根拠に基づく命令ではなく、あくまでお願いベースの協力を求める行為に過ぎないからです。また、利用客の安全を守ることは当然のことですし、従業員の生命・身体の安全を守ることも使用者が負う安全配慮義務の一つであり、上記で示した2要件でいう不可抗力にはやはり該当しないといえます。
法律上不可抗力には該当しないとしても、政府による自粛要請等に従った事業主が、「使用者の責めに帰すべき事由」として責任を一身に背負うことには疑問を感じるのが正直なところです。特定業種への自粛要請も、企業によって判断が区々で一部企業しか自粛しないのであれば自粛の効果は極めて限定的であり、国の要請に協力した企業だけがその経済的負担を背負うというのでは、自粛をせずに営業を続ける企業との公平性も保たれないように思います。
もっとも、休業補償との関係でいえば、所定の要件を満たす必要はあるものの、雇用調整助成金の特例措置により中小企業では休業手当に要した費用の5分の4又は10分の9の助成が受けられますので、あくまで休業手当との関係だけで考えればまだ納得感はあるといえるでしょう。
ハ) 非常事態宣言に伴う休業
令和2年4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を踏まえ、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されました。この緊急事態宣言で可能となる行政措置としては、次のものがあります。
・住民への外出自粛要請
・学校,保育所,老人福祉施設などの使用停止の要請,指示
・音楽,スポーツイベントなどの開催制限の要請,指示
・予防接種の実施指示
・臨時医療施設のための土地,建物の使用(同意なしもありうる)
・鉄道,運送会社等への医薬品の運送要請,指示
・医薬品,食品などの売り渡しの要請,収用も可
緊急事態宣言による措置といえども収容等を除き基本的に強制力はありませんが、単なるお願いベースでの要請であったものが法的根拠のある要請となる点で要請の強度が高まったといえるでしょう。
この緊急事態宣言をもとに特定の業種等において休業を要請又は指示されたことによって休業した場合には、労働基準法26条の法解釈としては不可抗力にあたると判断すべきだと思います。緊急事態宣言による緊急事態措置である以上、これを「使用者の責めに帰すべき事由」というには無理があるのではないでしょうか。
なお、こうした広範囲に影響が及ぶべき事項については、現場の混乱を避けるために今後行政側からガイドライン等の指針が示される可能性がありますし、早急に出すべきでしょう。現状では雇用調整助成金により休業手当の8割から9割が補填されていることを考えれば、緊急事態措置の対象となる特定業種については、この助成率を10割にして便宜上休業手当で対応するか、別途政府が労働者のために直接補償を行うべきだと思います。
休業補償100%を求められたときの企業対応
法律を理解すれば慌てる必要はない
場面別に応じた休業手当の支払い義務は上述のとおりであり、多くの場合は平均賃金6割の支払いが法律上企業として負うべき責任となります。
したがって、労働組合から団体交渉の申入れがなされ、休業補償として100%の賃金の支払いを求められたとしても、企業は自社のケースにおける法的見解を確認し、慌てることなく対応することが大切です。たとえユニオン等の労働組合に加入した従業員が一人、二人と少人数であったとしても、安易に妥結した場合には他の従業員にも波及する可能性がありますので、しっかりと腰を据えて交渉に臨む必要があります。
交渉には誠実に望むべき
休業中に賃金100%なんてとんでもない、と思ったとしても、団体交渉そのものを拒否することは不当労働行為に該当し得るため避けるべきです。また、団体交渉の申入れにあたっては、休業補償のみならず関連事項も含めて団交事項とされることも多いですので、やはり交渉そのものには応じなければならないといえるでしょう。
交渉を誠実に行うことと、要求に対して譲歩することはイコールではありません。交渉を誠実に行ったうえで、結果として要求を拒否するということは当然認められます。ただし、交渉そのものを不誠実に行うことや、組合対応を面倒に感じて安易に妥結すれば、団交事項が拡大し、あるいは他の労働者にも問題が波及する可能性がありますので、この点をしっかりと注意いただい上で対応していくことが大切となります。
団体交渉、労務管理には専門家の支援を
ここでは、新型コロナウイルスの影響等により労働者を休業させた場合に、主としてユニオン等の労働組合から休業補償等を求められた場合の企業対応についてご説明させていただきました。
労働組合は労働問題に関し豊富な経験を有しており、「団体」としての強い交渉力を有しているため、企業側も十分な対抗策を用意したうえで交渉に臨むことが大切です。各種労働法規への理解が不十分なまま不用意に対応すれば、意図しない不利益な結果を甘受しなければならなくなる危険があります。企業防衛のためには、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの支援を受けながら団体交渉に臨まれることを強くお勧めいたします。専門家の支援を受けることで、企業は過酷な交渉の負担から解放され、適切な方針のもと最良の解決を得られる可能性が高まるといえるでしょう。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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