懲戒処分には弁明の機会の付与が必要?-懲戒解雇の進め方や団体交渉への弁護士の同席について解説!
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
懲戒処分に適正手続きが求められる理由
懲戒処分は、従業員に規律違反等の非違行為があった場合に、企業秩序違反に対する制裁としてなされる処分です。懲戒処分の内容としては解雇、諭旨解雇、出勤停止、減給、戒告などが就業規則に定められることが通例ですが、労働者にとっては重大な不利益を受ける処分であり、制裁罰という点で刑事罰に類似する性格を有しています。このため、いわば冤罪というべき事実誤認に基づく処分はあってはならず、また非違行為の内容に応じた処分の相当性も求められます。
したがって、懲戒処分の対象者たる従業員に対し弁明、弁解の機会を与えることは、処分の基礎となる事実認定を適切に行うために有効な方法であり、処分の適正さを担保する手続保障としての大切な意味があるといえます。
弁明の機会は懲戒処分の有効要件か
法律上直接義務付けた規定はない
適正手続保障の観点からは対象従業員に対する弁明の機会を付与することが望ましいことは上記のとおりですが、弁明の機会を与えることを義務付けた法律の規定があるわけではありません。
したがって、いかなる場合でも弁明の機会を付与しなければならないというわけではなく、弁明の機会の欠如が直ちに懲戒処分を無効に導くものではありません。
相当性の考慮要素
もっとも、弁明の機会は懲戒処分の適正さを担保するための手続きであり、懲戒処分が社会通念上相当であるか否かを判断するための重要な考慮要素となるものです。
「懲戒」について定めた労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定しています。弁明の機会を付与したか否か、あるいは、その弁明の機会が適切なものであったか否かは、懲戒処分に「客観的に合理的な理由」が認められるか否か、あるいは懲戒処分が「社会通念上相当」であるか否かを判断するための重要な要素となります。
したがって、弁明の機会を付与していないという事実は、それをもって直ちに懲戒処分を無効に導くものではありませんが、懲戒権の濫用を疑われる方向で作用することになり得ますので留意が必要です。
就業規則に規定がない場合も考え方は同じ
就業規則に弁明の機会を付与すべきことが明記されている場合は、同就業規則の定めに従った弁明の機会を付与することが必要となります。
他方で、就業規則において懲戒処分の手続として弁明の機会を付与することが規定されていない場合でも、上記のとおり相当性判断の考慮要素として重要な意味を持つものですので、弁明の機会は付与すべきといえます。
【東京地判平成24年11月30日-日本通信事件(労判1069号36頁)】
懲戒処分(とりわけ懲戒解雇)は、刑罰に類似する制裁罰としての性格を有するものである以上、使用者は、実質的な弁明が行われるよう、その機会を付与すべきものと解され、その手続に看過し難い瑕疵が認められる場合には、当該懲戒処分は手続的に相当性に欠け、それだけでも無効原因を構成し得る
本件における懲戒解雇の告知の方法は、上司らが、社内4階の会議室で待機中の対象社員を1階まで連れて行き、その場で懲戒解雇通知書を手交した上、後に、帰路に就いた対象社員に対し、電話をかけ、その懲戒解雇理由を簡単に説明するという、いかにも性急かつずさんな内容のものであって、実質的な弁明を行う機会を付与したものとはいい難く、その手続には看過し難い瑕疵がある
【東京地判平成17年1月31日-日本ヒューレット・パッカード事件(判タ1185号214頁】
適正手続保障の見地からみて、懲戒処分に際し、被懲戒者に対し弁明の機会を与えることが望ましいが、就業規則に弁明の機会付与の規定がない以上、弁明の機会を付与しなかったことをもって直ちに当該懲戒処分が無効になると解することは困難というべき
従業員が逮捕・拘留されている場合
従業員が刑事事件を起こして逮捕・勾留されている場合にも、弁明の機会を付与すべきでしょうか。
逮捕されている間や、接見禁止が付された勾留がなされている間は、弁護人又は弁護人となろうとする弁護士以外は被疑者となっている従業員と接見することができません。また、仮に接見できるようになったとしても、制限時間が付された接見室での事情聴取等は容易ではありません。
もっとも、このように弁明の機会を付与することに困難性がある場合であっても、それがために弁明の機会を付与することが直ちに不要となるわけではありません。被疑者となっている従業員には弁護人が付いているはずですので、弁護人を通じて弁明の機会を付与することも可能です。
逮捕・勾留の段階では、刑事事件においては未だ有罪判決が出されているわけではありません。有罪判決の確定を待たずして処分を行うことを検討するのであれば、刑事事件の内容や懲戒処分の内容に応じた個別具体的な判断は必要ですが、たとえ通常時の弁明の機会と比較して簡略化されたものとなったとしても、でき得る限り弁明の機会自体は付与すべきといえることが多いといえるでしょう。
弁明の機会付与の方法
弁明の機会としては、大きくは次の2通りの方法が考えられます。
① 面談による方法
特定の日時に対象従業員を呼び出し、面談によって事情聴取等を行う方法
② 書面による方法
特定の期日までに、対象従業員に弁明内容を記載した書面を提出させる方法
このどちらの方法をとるかはケースバイケースで決めることになります。
対象従業員の言動から激しい口論となることが予想され、冷静に事情聴取等を行えないような場合には、言い分や意見を書面でまとめてもらう方法を検討すべきこともあるでしょう。
また、面談による方法をとる場合には、事実関係の整理や法的見解を含めた会社側の考えを適切に対象従業員に伝え、より実効性のある機会とするために、会社が委任する弁護士が面談に同席することもあります。
なお、弁明の機会としての面談を行った際は、議事録などを作成し、面談内容を記録化しておくことも大切です。
対象従業員から弁護士の同席を求められたら
弁護士の同席を認めるか否かは自由に決定できる
弁明の機会を設けることを通知した際に、対象従業員から、従業員が委任する弁護士を同席させてほしいとの要望が出されるときがあります。
弁明の機会を付与するか否か、弁明の手続きの態様をどのようにするかは会社が任意に決定できる事項ですので、従業員が委任する弁護士について、その同席を認めるか否かは会社側が自由に決定できます。
処分の正当性を高める機会に
もっとも、弁護士の同席が認められない限り弁明の場に出席しないなどと従業員側が頑なな態度を見せる場合に、従業員が弁明の機会を放棄したものとみなして直ちにこれを省略することには慎重になるべきです。
むしろ、弁護士の同席のもとに弁明の機会を付与することは、従業員側に十分な防御権を与えものであり、重厚な手続保障がなされているという見方もできることから、懲戒処分の正当性を高める可能性があります。使用者としては、大局的な見地から、弁護士の同席を認めるか否かを含め、懲戒処分の手続きをどのように行うかを検討していくことが大切です。
労働組合から団体交渉の申入れがなされたら
懲戒処分を予告し、弁明の機会を付与する旨を従業員に通知した場合に、対象従業員が地域ユニオン等の労働組合に加入し、労働組合から懲戒処分を巡って団体交渉の申入れがなされることがあります。
この場合は、団体交渉の場で懲戒処分の対象となっている非違行為の有無等を巡って議論がなされることになりますので、団体交渉自体を弁明の機会と位置付けることができます。
したがって、使用者としては、団体交渉の申入れがなされた場合、団体交渉を経ることなく直ちに懲戒処分に及ぶことは避け、団体交渉を踏まえたうえで懲戒処分を行うか否か、行う場合の処分の内容をどうするかを決定することが望ましいと言えるでしょう。
労務管理には専門家の支援を
ここでは懲戒処分を行う場合の弁明の機会について説明させていただきました。企業は、職務懈怠、業務命令違反、非行等のある問題社員を巡って非常に悩ましい問題に直面することが多くあるかと思いますが、懲戒処分も労働関係法規による規律に服する以上、法的事項を踏まえて対応を行うことが必要です。労働法規等を無視して対応を行えば、使用者が予期しない、あるいは意図しない問題がさらに発生する恐れがありますので、注意が必要です。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば大きなリスクを企業にもたらします。労務管理や労働者対応については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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