派遣事業の適法性リーガルチェック‐派遣業と請負業
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。派遣業の皆さまでお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
派遣事業の事業所・人単位規制
労働者派遣法は、派遣労働者の雇用安定とキャリア形成・均衡処遇を図るため、派遣元・派遣先事業主に対する様々な規制を設けていますが、代表的なものとして、事業所・人単位での派遣可能期間の規制があります。
派遣可能期間は3年とされていますが、この期間は事業所(派遣就業ごとの場所)ごとに遵守する必要があります。同期間満了の1か月前までに過半数代表者等の意見を聴取すること等の手続きを経ることで、この期間を3年間さらに延長することができます。
このような事業所単位での派遣可能期間の制限に加えて、派遣労働者個人単位での制限が課されている点が重要です。すなわち、派遣元事業主は、派遣先の事業所における組織単位(課)ごとの業務について、3年を超える期間継続して同一の派遣労働者を派遣することは禁止されています。派遣先は、事業所単位で派遣可能期間を延長した場合であっても、同一の派遣労働者について、当該派遣先の事業所における組織単位(課)ごとの業務について、3年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けることはできません。
裏を返せば、3年間ある派遣労働者を受け入れてきた課では、他の派遣労働者を受け入れて派遣受入れが継続可能、ということになります。
こうした派遣可能期間の制限に違反する場合には、派遣先は、善意無過失を立証しない限り、受け入れている派遣労働者を直接雇用する義務を負うことになるという重大な制裁を受けることになりますので、注意が必要です。
いわゆる偽装請負をめぐる問題
「偽装請負」とは、実態は労働者派遣であるが、業務請負(委託)を偽装して行われているものをいいます。形式上は請負契約や業務委託契約となっているものの、実態上は、注文者が請負人の労働者を直接指揮監督しており、請負や業務委託といっても、労働者だけを派遣して注文者の使用に委ねているだけ、というケースです。これは、実質的には注文者の指揮命令を受けて、注文者のために仕事に従事していると評価されるもので、実態上は労働者派遣に該当し、契約名義のみを請負や業務委託として偽装した違法派遣となります。
典型的には、注文者側のオフィスや事業所内で、注文者側の従業員と請負事業者・受託事業者側の従業員とが同一の場所で同一の業務に従事しており、その指揮監督や勤怠管理も注文者側の社員が行っているというケースが挙げられます。
偽装請負は、実態としては労働者派遣とみなされることになり、派遣法上の事業許可違反をはじめ同法の適用を受けますが、偽装請負のタイプによっては、違法な労働者供給として職安法違反に該当することもあります。
偽装請負をしてしまったら
偽装請負が「労働者派遣」(派遣法2条1号)に該当する場合、それが派遣禁止業務への労働者派遣、派遣事業の許可なし労働者派遣などにあたれば、偽装請負により労働者を派遣している事業主は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられえます(派遣法59条)。
また、偽装請負により労働者派遣の役務の提供を受けている事業主は、労働者派遣事業主としての許可のない業者から労働者派遣を受けているものとして、行政指導、改善命令、勧告、企業名の公表がなされえます。そして、労働者派遣法の義務を免れることを目的として、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、労働者派遣の役務の提供を受けた場合には、派遣先は派遣元(請負業者)における労働条件で直接雇用の申込みをしたとみなす、という重大なサンクションを受けることになります。
派遣事業と請負事業の判断基準
請負(業務委託)によって事業が行われる場合には、それが適正なものであれば労働者派遣に該当しないので問題はありません。もっとも、現実には請負と称されていても実態は労働者派遣に該当するケースがあり問題とされるわけですが、その区分は必ずしも判然としません。そこで、厚労省は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(区分告示)を示し、法の適正な運用を確保しようとしています。この区分告示とその具体的な解釈を示す「業務取扱要領」を要約すると、その判断基準は次のとおりとなります。
Ⅰ 労務管理上の独立性‐自己の雇用労働者の労働力の直接利用
1 業務管理上の独立性
①直接自ら業務の遂行方法の指示を行うこと
②直接自ら業務遂行の評価を行うこと
2 労働時間管理上の独立性
①始業・終業時刻、休憩、休日、休暇等の指示・管理を自ら行うこと
②時間外・休日労働の命令を自ら行い管理すること
3 秩序の維持、確保、人事管理上の独立性
①自ら服務規律の設定・指示・管理を行うこと
②自ら労働者の配置等の決定・変更を行うこと
Ⅱ 事業経営上の独立性‐自己の事業としての独立処理
経理上の独立性
自己責任による資金の調達・支弁
2 法律上の独立性
民法その他法的な事業主責任の遂行
3 業務上の独立性
①機械・設備、機材等の自己調達
②企画・技術・経験上の独立遂行性
その他の問題
1 安全管理体制の問題
偽装請負状態が生じると、実質的な労働者派遣とみなされて、労働安全衛生法上の安全管理責任は、注文者企業が負うことになります。
2 労災保険と安全配慮義務の問題
偽装請負の場合には、注文者企業が指揮命令し、自社の従業員と同様に支配管理して業務に従事せしめているわけですから、支配管理下にある労働者の危険または健康障害からの保護義務である安全配慮義務も実態上の派遣先である注文者企業が負うことになります。
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店による労務サポート
中小企業が自身だけで難解な労働法制を理解して具体的な労働問題に対応し、あるいは適法かつ効率的に事業を遂行していくことは簡単なことではありません。また、誤った理解に基づいて対応した結果、より大きなリスクを抱えてしまったという恐ろしいことも頻繁に起こっています。
そこで、虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、愛知・名古屋で派遣事業、請負事業を営む企業の皆様へ次のような労務支援サービスを提供しています。
(1)事業の適法性リーガルチェック
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、各企業のビジネスモデルに基づく派遣事業、請負事業について、その適法性やリスクの有無、注意すべき事項をチェックし、これに対応する具体的なご助言をさせていただいております。これまでの漠然とした運用を整備し直し、あるいは事業遂行上のリスクを把握することで、将来にわたっての事業の安定化を図ることが可能となります。弁護士古山雅則は、経営者側に立った経営労務に特化し、その業務は労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められています。派遣業法をはじめとした各種法規制に対する予防法務についても労働問題に強い弁護士がお力になります。
現在の事業体制や労務管理への不安をお持ちの企業様は、虎ノ門法律経済事務所名古屋支店までご相談ください。
(2)事業体制、ビジネスモデルのコンサルティング支援
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法務・財務の両面から各種企業向けビジネスモデル、事業体制整備のためのコンサルティングサービスを提供しています。適切な制度設計を助言・支援し、事業体制の整備から実際の運用までトータルでサポートいたします。
(3)残業代請求等の事前予防
残業代請求やメンタルヘルス問題等、各企業が直面する労働問題への対応支援を行っています。こうした問題が現に生じているのであれば適切な対応を行う必要があり、また未払い残業代等が発生しやすい制度となっているのであれば、これを見直し整備し直すことが将来のリスク予防のためには不可欠です。虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代問題をはじめとした労働問題に対し豊富な経験、ノウハウがありますので、事件対応から予防法務まで適切なアドバイス、対応を行うことが可能です。
従業員のメンタルヘルス問題、残業代請求問題等労働問題にご不安な企業様やお困りの企業様は、虎ノ門法律経済事務所名古屋支店までご相談ください。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
関連記事はこちら
労働コラムの最新記事
- 退職時の誓約書を拒否された際の対応方法について弁護士が解説
- 問題社員対応を見据えた就業規則の作り方とは?弁護士がポイントを解説!
- 社用車の自損事故での自己負担の割合とは?従業員に弁償させたい場合の流れについて弁護士が解説!
- 競業避止義務を定めた誓約書提出の強制・義務付けの可否~違反した場合・誓約書の効力について~
- 【コラム】退職後の競業避止義務違反を防ぐ! -競業避止契約と違約金の定め-
- 【コラム】競業避止義務に違反した退職社員に対して退職金の返還請求をする!
- 【コラム】年功序列型賃金の限界と人事制度改革
- 【コラム】同業他社への転職を防ぐ誓約書作成の勘所 - 抑止力ある競業避止義務を課すために
- 【コラム】年休取得時に支払う賃金-各種手当は「通常の賃金」に含まれるか
- 【コラム】業務上の負傷・疾病で療養・休業を続ける従業員を解雇できるか?
- 【コラム】運送業者必!歩合給の制度設計と賃金制度変更の手引き
- 【コラム】運送業者必見!残業代リスクを大幅に軽減する賃金制度設計
- 【コラム】運送業者必見!高額化する残業代請求リスクに備えあれ
- 内部調査等に従事する者の守秘義務とは?-改正公益通報者保護法
- 実労働時間がタイムカードの打刻時間どおりでない場合
- 退職した従業員から損害賠償請求をされた際の会社側の対応方法とは?事例を基に弁護士が解説!
- 雇い入れ時の健康診断は省略可能か?-定期健康診断での代用・入社後/退職予定者への対応策について!-
- 36協定の締結を労働組合に拒否された!-残業・時間外労働・結びたくないと言われた会社にとってのデメリットとは?弁護士が解説!
- 70歳までの継続雇用-改正高年齢者雇用安定法に対する企業の向き合い方
- 経歴詐称の社員を解雇したい!
- 社員が始末書を提出しない!
- 懲戒処分の社内公表はどこまで可能?社内通知に注意点・判断基準について弁護士が解説!
- 企業の採用の自由と調査の自由
- 定年後再雇用を辞めさせる方法はありますか?-継続雇用制度と嘱託社員の雇止め・再雇用者の契約終了(契約打ち切り)について弁護士が解説!
- コロナ禍における労務対応‐在宅勤務とフレックスタイム制
- 懲戒処分には弁明の機会の付与が必要?-懲戒解雇の進め方や団体交渉への弁護士の同席について解説!
- 傭車運転手からの団体交渉‐業務請負者と労組法上の「労働者」
- 移動時間と労働時間について-出張での移動時間や勤務時間について弁護士が解説!-
- 退職勧奨はどこまでできる?-「辞めるつもりはない」とはっきり言われたら
- 有期契約社員の雇止め-契約社員から雇止めが不当だと主張されないために
- 濫用的年休申請への対処法
- 余剰人員の削減!でも中小企業が整理解雇を行う前にやるべきこと
- タイムカードでの残業代・残業申請について弁護士が解説!打刻での時間外労働の計算方法について
- 在宅勤務のための費用は会社が負担すべきか?-テレワークにおける費用負担
- 企業の街宣活動への対応方法とは?-違法となる場合・街宣車がうるさい場合は通報できる?-
- 身元保証契約には極度額の定めが必須!-民法改正への対応
- 不況時の人員削減‐中小企業のための整理解雇実行の手引き
- 派遣先から減産による休業措置がとられたら‐休業時に派遣会社がとるべき対応
- 団体交渉で休業補償100%を求められたら‐休業と休業手当
- テレワーク導入の手引き‐弁護士がすすめるテレワーク規定の要点と成果を上げるための4つの視点
- 経営上の理由により従業員を休ませる場合の対応‐休業補償と政府による休業支援策
- 労働者派遣契約-契約事項と情報提供義務
- 労働者派遣事業の許可‐派遣事業を始める方へ
- 派遣労働者の同一労働同一賃金
- パワハラ対策が義務化!-パワハラ防止法
- 労働者の健康管理-医師による面接指導義務
- 社内に労働組合ができたらどう対応するか‐労働組合の要件
- 労基法改正-新たな残業規制
- 年5日の年次有給休暇の取得が義務化
- 経営者必見!定額残業代制に関する重要判決と時代の変化への対応
- 経営者必見!定額残業代制が否定された場合の三重苦
- 労災事案の賠償請求に対する使用者側対応と労災保険
- 外国人労働者への労働関係法令の適用と社会保険
- 不法就労の防止と対応
- 外国人技能実習生の受入手続
- 派遣労働者への労働条件の通知と就業条件の明示
- 労働者派遣期間の制限と適正な運用
- 相次ぐ技能実習認定の取消し‐外国人材受入れ企業はより一層のコンプライアンスを
- 派遣契約の終了と派遣労働者の処遇
- 「残業代込みの給料」-定額残業代制の留意点
- 季節により繁閑がある場合は1年単位の変形労働時間制で時短を
- 予期しない残業代請求を受けないための就業規則の規定と運用
- 間違えると取り返しがつかない!-就業規則「賞与(ボーナス)」の定め方
- 就業規則における懲戒の定め方について解説!~出勤停止の期間について~
- 残業代に含まれる手当とは?計算方法について弁護士が解説-基礎賃金に含まれる手当とは?家族手当は含まれる?残業手当・固定残業代について弁護士が解説!-
- 問題社員対応事例③(従業員に損害賠償を請求したい!)~モンスター社員対応~
- 変形労働時間制は運用が鍵!
- 行き詰った団体交渉を打破する‐あっせん手続の活用
- 残業代請求を和解で解決する場合の注意点-和解と賃金債権放棄
- 労働委員会への救済申立てに対する対応
- 降格処分はこう使う!
- 無期転換ルールへの対応-有期契約社員の更新、雇止めと就業規則の改定
- 日常業務に関する事項と団体交渉
- 労働条件の不利益変更-就業規則の修正・変更は自由にできるか?
- 就業規則がなければできないこと
- 従業員への貸付金の返済金を賃金から適法に控除する方法
- 残業許可制でダラダラ残業を防ぐ!
- それって労働時間にあたるの?-手待ち時間の労働時間該当性
- 就業規則に潜む危険-雛形をそのまま使っていませんか?
- メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任
- 円満に内定取消を行う方法
- 求人票記載の給与額と契約上の給与額
- 経営事項と団体交渉
- 賞与(ボーナス)を巡る問題と団体交渉
- 会社を守る36協定の締結方法
- 残業単価の計算方法とは?-時間単価・労働時間について弁護士が解説!-
- メンタルヘルス不調社員対応のポイント
- 使用者のためのマタハラ、育児・介護ハラスメント対応の手引き
- 「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」
- 残業時間の立証-使用者による労働時間の適正把握義務
- 管理職と残業代請求-管理監督者とは
- 恐ろしい残業代未払いに対するペナルティとは?残業代請求は拒否できる?-遅延損害金についても弁護士が解説!-
- 問題社員対応事例②(従業員が会社のお金を横領した!)~モンスター社員対応~
- 問題社員対応事例①(ローパフォーマー社員を辞めさせたい!)~モンスター社員対応~
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き③(パワハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き②(セクハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き①(基礎知識編)
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part3
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part2
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part1
- 懲戒処分を行う場合の留意点
- 退職金の減額・没収・不支給
- 能力・適格性が欠如する問題社員対応のポイント
- 雇止めと団体交渉
- 解雇無効についての団体交渉
- 未払い残業代請求についての団体交渉
- 団体交渉を有利に進める方法
- 元従業員との団体交渉
- 団体交渉に弁護士を入れることのメリット
- 団体交渉申入書が届いたら
- フレックスタイム制の活用法
- 働き方改革③-高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)とは
- 働き方改革②-同一労働同一賃金とは
- 働き方改革①-新しい残業規制とは