労働者派遣契約-契約事項と情報提供義務
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。派遣業の皆さまでお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
労働者派遣とは
労働者派遣は、派遣元、派遣先、そして派遣労働者の三者で成り立つ雇用形態であり、その関係は次のとおりです。
① 派遣元と派遣労働者との間に雇用関係がある
② 派遣元と派遣先との間に労働者派遣契約が締結され、この契約に基づき、派遣元が派遣先に労働者を派遣する
③ 派遣先は派遣元から委託された指揮命令権限に基づき、派遣労働者を指揮命令する
派遣労働者は、雇用契約関係にある派遣元で就業するのではなく、その労働力の提供を求める派遣先で労働を提供することになります。ここでは、労働力の提供を求める派遣先と労働者を派遣する派遣元との間の労働者派遣契約について概説していきます。
労働者派遣契約
労働者派遣契約とは、「契約の当事者の一方が相手方に対し労働者を派遣することを約する契約」です(労働者派遣法26条)。本来、民法の原則からすると私人間の契約は当事者間の自由に委ねられており、その形式が口頭であるか書面であるかを問わず、また契約内容に自由に決められるはずですが、労働者派遣は三者間で成り立つものであることから、その自由を貫くと派遣労働者を害することになりかねません。
そのため、労働者派遣法では、労働者を派遣する派遣元と派遣労働者の役務の提供を受ける派遣先との間で締結される労働者派遣契約に対して様々な規制をかけています。
労働者派遣契約で定めるべき契約事項
労働者派遣契約では、次の内容を書面で締結することが必要です(労働者派遣法26条、同施行規則21条3項、4項、22条、22条の2)。
① 派遣労働者が従事する業務の内容
② 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他労働者派遣に係る派遣労働者の就業(派遣就業)の場所
③ 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
④ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
⑤ 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
⑥ 安全及び衛生に関する事項
⑦ 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
⑧ 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
⑨ 労働者派遣契約が紹介予定派遣に係るものである場合には、当該紹介予定派遣に関する事項
⑩ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
⑪ 労働者派遣の役務の提供を受ける者が④の派遣就業をする日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は⑤の派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合には、当該派遣就業をさせることができる日又は延長することができる時間数
⑫ 派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与に関する事項
⑬ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
基本契約と個別契約
労働者派遣契約には、取引先に恒常的に労働者派遣をする旨の「基本契約」と、個々具体的に労働者派遣をする場合に個別に就業条件を定める「個別契約」があります。労働者派遣法26条が規制の対象とするところの労働者派遣契約はこのうち「個別契約」をいいますので、契約ごとに上記各事項を定める必要があります。
派遣可能期間の制限に抵触する日の通知
派遣先の通知義務と派遣元の受入禁止義務
派遣労働者を受け入れるに際し、派遣先は、派遣元事業主に対して、その労働者派遣の開始の日以後、派遣可能期間の制限(労働者派遣法40条の2)に抵触することとなる最初の日(派遣可能期間を超えた最初の日)を通知しなければなりません(同法26条4項)。
派遣元事業主は、この通知がないときは、当該派遣先との間で労働者派遣契約を締結してはなりません(同条5項)。
実効確保措置
派遣元事業主が上記に違反して通知がないにもかかわらず労働者派遣契約を締結した場合、行政処分として許可取消(労働者派遣法14条1項)、事業停止命令(同条2項)、改善命令(同法49条1項)を受ける可能性があります。
比較対象労働者の待遇等に関する情報提供 - 同一労働同一賃金対応
改正労働者派遣法により、令和2年4月1日から派遣労働者の同一労働同一賃金対応が求められます。
これにより、派遣元事業主が派遣労働者の待遇について派遣先に雇用される通常の労働者との間で均等・均衡待遇を確保する場合等には、派遣先の労働者の待遇等に関する情報が必要となります。このため、派遣労働者の役務の提供を受けようとする派遣先は、労働者派遣契約を締結するにあたり、比較対象労働者の待遇等に関する情報を派遣元事業主に提供する義務が課せられています(同法26条7項)。
派遣労働者を協定対象派遣労働者に限定しない場合
提供すべき情報は次のとおりです。
① 比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲並びに雇用形態
② 比較対象労働者を選定した理由
③ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容
④ 比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及びその待遇を行う目的
⑤ 比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するにあたって考慮した事項
派遣労働者を協定対象派遣労働者に限定する場合
次の①及び②の情報を提供します。
① 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練(労働者派遣法40条2項の教育訓練)
② 給食施設、休憩室、更衣室(同条3項の福利厚生施設)
実効確保措置
派遣元事業主は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする派遣先からこれらの情報提供がなされないときは、当該労働者派遣契約を締結することを禁止されています(労働者派遣法26条9項)。
派遣元事業主がこれに違反した場合には、行政処分として許可取消(労働者派遣法14条1項)、事業停止命令(同条2項)、改善命令(同法49条1項)を受ける可能性があります。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、労働者派遣契約を締結する際の法定事項と情報提供義務の概略について説明をさせていただきました。労働者派遣事業においては、改正労働者派遣法により派遣労働者の均等・均衡待遇(同一労働同一賃金)が法制化されるなど、様々な法規制に従った対応が求められます。
派遣労働者の雇用管理を含めた労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば重大なサンクションを受けるなど大きなリスクを企業にもたらす恐れがあります。労務管理と運用については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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