「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
「残業代」とは何か?
まずは基本的なことですが、「残業代」とはいったい何のことを指すのかについて確認しておきます。「残業代」という言葉は一般社会では広く用いられていますが、実は、法律上、「残業代」という言葉はどこにも出てきません。つまり、「残業代」というのは、法律用語ではありません。
通例、「残業代」という言葉は、次の4種類の「賃金」のことを指して用いられています。
① 時間外労働に対する割増賃金(労基法37条1項)
② 法内残業に対する賃金(労働契約)
③ 深夜労働に対する割増賃金(労基法37条4項)
④ 法定休日労働に対する割増賃金(労基法37条1項)
このうち、割増賃金が発生するのは①、②、④の3つの「労働」をさせた場合です。
時間外労働に対する割増賃金
労働時間規制
労働時間についての最も基本的な法規制は、1週および1日の最長労働時間の設定です。
◆ 1週の法定労働時間 40時間
◆ 1日の法定労働時間 8時間
1週の法定労働時間が40時間とされていることに伴い、多くの企業で週休2日制が採用されています。なお、「1週」とは、基本的には日曜日から土曜日までの暦週をいいますが、就業規則等で週の始まりを別に規定する場合はその定めによります。
法定労働時間を超えて働かせた場合の割増賃金
1週40時間または1日8時間を超えて働かせた場合、それは「時間外労働」となります。そして、時間外労働は、通常の労働時間に付加された特別の労働となるため、使用者は一定額の補償として割増賃金を労働者に支払う義務を負います。
【割増賃金率】
◆ 1か月60時間以内 25%以上
◆ 1か月60時間超え 50%以上
1か月60時間を超える時間外労働についての「50%以上」の割増率は、「仕事と生活の調和」政策の一環として、長時間労働を抑制するために2008年の労働基準法改正によって設けられたものです。なお、中小企業については、法対応への準備に配慮して、この特別の割増率の適用を2023年4月まで猶予されています。
法内残業には割増賃金は発生しない
企業は、法定労働時間の範囲内で、自由に労働時間を設定することができます。必ず1日8時間労働させる必要はなく、労働契約で1日の所定労働時間を6時間などと設定することもできるのです。この場合、6時間の所定労働時間を超えて2時間働いてもらったとしても、この2時間は法定労働時間内の労働となります。
こうした法定労働時間の範囲内での残業は、「時間外労働」には当たらず、割増賃金は発生しません。なお、「割増し」はありませんが、当然ながら、通常の賃金(割増しのない残業代)は支払う必要があります。
深夜労働に対する割増賃金
深夜労働規制
午後10時から午前5時までの時間帯での労働を「深夜労働」といいます。深夜労働は労働者への負担が大きいため、労基法はこれに対していくつかの規制を置いています。
◆ 使用者は、満18歳未満の者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない(労基法61条1項)。ただし、行政官庁の許可を得た場合や、農林、畜産・水産業、病院・保健衛生業などの例外があります(労基法61条4項)。
◆ 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、午後10時から午前5時までの間において 労働させてはならない(労基法66条3項)
深夜に働かせた場合の割増賃金
上記のように深夜労働が禁止される場合を除けば、深夜労働に従事させること自体は認められています。もっとも、深夜労働は肉体的にも精神的にも負担が大きいことに配慮して、使用者は一定額の補償として割増賃金を労働者に支払う義務を負います(労基法37条1項、2項、4項)。
【割増賃金率】 25%
なお、時間外労働が深夜に及んだ場合には、時間外労働としての「25%増し」に加えて、深夜労働としての「25%増し」が加算されるため、「50%増し」の割増賃金を支払う必要があります。
法定休日労働に対する割増賃金
週休制の原則
休日に関する労基法の基本原則は、「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」というものです(労基法35条1項)。法律で必ず与えるべきと定められている休日なので「法定休日」と呼びます。
これに対して、法律上の義務ではないものの、会社が任意に休日を定めていることがありますが、これを「法定外休日」と呼びます。
1週40時間の法定労働時間規制との関係で、週休2日制を採用している企業は多くありますが、この場合、休日2日のうちどちらかが「法定休日」となり、もう1日が「法定外休日」となります。
なお、法定休日を週のどの日に位置づけるかについては自由に定めることができますので、休日は日曜日である必要はありません。もっとも、残業代計算との関係で、法定休日を特定しておくことは重要となりますので、就業規則で明確に定めておくことが望ましいといえます。
休みの日に働かせた場合の割増賃金
「休日」とは、労働者が労働契約において労働義務を負わない日です。本来労働義務を負わない日に働いてもらうわけですから、使用者はこの場合も相応の補償として割増賃金を労働者に支払う義務を負っています(労働基準法37条1項、2項)。
【割増賃金率】 35%以上
なお、法律で必ず与えるべきと定められている法定休日は週1日ですから、休日労働についての割増賃金も法定休日労働に対してのみ発生します。
法定外休日における労働では35%の割増賃金とはなりませんが、法定外休日に労働させることで週40時間の法定労働時間を超過する場合には25%の割増賃金が発生します。また、法定休日での労働が深夜に及んだ場合には、35%+25%の60%以上の割増賃金率となります。
労務管理には専門家の支援を
ここでは「残業代」とは何か、という基本的な事項について説明をさせていただきました。残業代を巡る問題では、このほかにも「労働時間性」、「割増賃金の基礎となる賃金」、「固定残業代制度」あるいは「労働時間規制の適用除外」など、様々な法的事項を踏まえて対応を検討する必要があり、使用者が予期しない、あるいは意図しない残業代が発生しないように適切に労務管理をする必要があります。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば数百万円、あるいは1000万円を超える未払い残業代請求として大きなリスクを企業にもたらします。
労務管理については、労働問題に強い弁護士や社会保険労務士などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
迷わず労務専門家へ相談を
未払い残業代請求の問題は、ひとたび判断を誤れば、付加金や遅延損害金などを含め支払額が想像を超えて巨額に膨らむ可能性があり、企業が被るダメージは計り知れません。また、現在請求を受けている残業代問題のほかに、今後新たな残業代請求がなされる可能性もあり、将来的なリスクを抑止するためには、予防法務の処方をすることも非常に大切です。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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