コロナ禍における労務対応‐在宅勤務とフレックスタイム制
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、残業代請求への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、ハラスメント問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。未払い残業代請求の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
コロナ禍における労務対応
緊急事態宣言が解除された後も、新型コロナウイルスの感染拡大は留まる気配を見せません。企業は新型コロナウイルスの存在を前提とした活動を余儀なくされますが、そのためには従業員の感染を予防し、経済活動を停滞させないための労務対応が大切となります。
業種によって向き不向きはもちろんありますが、長期化することが必至のコロナ禍における労務対応としては、やはり在宅勤務の導入が有効な選択肢となり得ます。そして、この在宅勤務を導入するにあたっては、併せてフレックスタイム制を導入することが従業員のモチベーションアップや生産性向上に役立ちます。労務管理の面で見れば、これまでなかなか踏み込めなかった企業においても、これを機に働き方改革を進めてみてはいかがでしょうか。
【テレワークの導入についてはこちらで詳しく解説していますので、併せてご参考ください ⇒ テレワーク導入の手引き‐弁護士がすすめるテレワーク規定の要点と成果を上げるための4つの視点】
フレックスタイム制と働き方改革
フレックスタイム制の意義
フレックスタイム制は、1か月などの清算期間の中で一定時間(契約時間)労働することを条件として、1日の労働時間を労働者が自ら決めた時に開始し、かつ終了できる制度です。何時から働きはじめ、休憩をいつ取り、そして何時にその日の就業を終えるかを労働者が主体的に決めることができる制度ですので、働き方に大きな裁量を労働者自身が持つことができます。
労働者にとってみれば、育児や介護を含め仕事と家庭との調和を図りやすく、主体的に働けるという点でもモチベーションアップに資するものであり、多くの利点がある制度といえるでしょう。
フレックスタイム制導入の要件
労働時間の配分を労働者が自由に行えるとはいえ、使用者との関係や仕事の内容、あるいは労働者自身の資質等により、労働者個人の完全な自由に任せるとすれば、他部門との連携が損なわれ、あるいは長時間労働等が引き起こされる可能性もあります。そこで、労働基準法では、フレックスタイム制の枠組みを規定するとともに、その具体的内容は労使協定によって決めることとしています(労基法32条の3)。
【要件】
① 始業・終業時刻を労働者の自由裁量に委ねる旨就業規則に定める
② 一定の事項を定めた事業場の労使協定を締結する
法律効果
使用者は、フレックスタイム制をとる労働者について、清算期間を平均し、週法定労働時間(40時間)を超えない範囲内において、1週又は1日の法定労働時間を超えて労働させることができます。つまり、フレックスタイム制をとれば、1週及び1日について法定労働時間をこえても時間外労働とはなりません。労働者にとっては、長く働く日もあれば短く働く日もあるというような柔軟な働き方を自己の裁量によって行うことができるようになります。
清算期間が1か月から3か月に延長
フレックスタイム制の清算期間は、これまで1か月が上限とされてきました。これが、働き方改革により、清算期間の上限が3か月に延長されたため、月をまたいで労働時間を調整することが可能となりました。
在宅勤務とフレックスタイム制は親和性が高い
在宅勤務と始業・終業時刻
在宅勤務とした場合でも、原則的には出社を前提として定められた所定の始業・終業時刻がそのまま適用されることが原則です。
もっとも、柔軟な働き方による生産性向上や労働者の便宜を考えれば、必ずしも出社する場合と同じ始業・終業時刻を適用することが正解とは言えません。したがって、在宅勤務対象者については、始業・終業時刻を変更できる旨を就業規則あるいはテレワーク規定等に定めることが考えられます。
在宅勤務とフレックスタイム制
上記のように、始業・終業時刻を変更するという対応でも良いですが、さらに一歩進んでフレックスタイム制を導入することは、より一層柔軟な働き方を推進することにつながります。
例えば、休憩時間をきっちり12時から13時の1時間でとる必要はなく、好きな時間に昼休憩として45分、他の時間に15分の休憩をとることも集中力の維持・向上という点では合理的なこともあるでしょう。この業務は一気に仕上げたい、というものがあった場合には、1日10時間働くことも効率的であり、在宅で通勤時間がないという利点がある以上、翌日は疲れを癒すために多少ゆっくり起きたとしても、仕事に取り掛かり始める時間には支障がないということも多いでしょう。
このように考えると、細かく労働時間を管理するよりも、在宅であればなお一層の自由を享受させ、労働時間の配分を労働者自身の裁量に任せることは、使用者と労働者双方ともに有益な結果をもたらす可能性を秘めています。
在宅フレックスにおける勤怠管理の最適化
労働時間の配分を労働者の自由裁量に任せることは、使用者による労働時間の把握義務を免除させるものではありません。ルールの枠を逸脱する労働者がいないかどうか、あるいはサービス残業時間が生じていないかどうかなどは、使用者が適切に把握し管理すべき責務です。労働時間の把握を自己申告制に頼ることは、「隠れ残業」を発生させ、使用者にとっては予期しない未払残業代を生じさせるなど、リスクが非常に大きいといえます。
勤怠管理も在宅勤務・フレックスタイム制に適合させることが肝要です。始業・終業の打刻や休憩時間、中抜け時間、あるいは残業申請などすべてオンラインで完結させることができれば管理者側の業務効率も高まります。在宅勤務導入を機に従来のタイムカード方式を改め、新しい勤怠管理システムを導入することを併せて検討いただければと思います。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、コロナ禍における労務対応として在宅勤務を導入するにあたり、これと親和的なフレックスタイム制との併用について説明をさせていただきました。フレックスタイム制は、使用者にとっては時間外労働を抑制するとともに労働者の就労意欲を高めて生産性を向上させ、労働者にとっても仕事と家庭の調和を図りながら主体的な働き方を実現できる点で、労使双方にとってメリットがある制度です。コロナ禍を期に、在宅勤務と併せて導入を検討する価値は高いといえるでしょう。
もっとも、在宅勤務制度やフレックスタイム制に限らず、労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば経営を揺るがしかねない大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
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岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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