不法就労の防止と対応
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。外国人雇用の問題でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
不法就労とは
外国人は、在留資格によってその就労の可否及び範囲が決まります。つまり、外国人は日本国内において自由に就労することができるわけではなく、在留資格ごとに認められた仕事にのみ就くことができます。不法就労とは、外国人が入管法で定められた在留資格上認められていない就労活動をすることで、次のような場合をいいます。
① 日本に不正に入国・上陸したり、あるいは在留期間を超えて不法に残留するなどして、正規の在留資格を持たない外国人が行う収入を伴う活動
② 正規の在留資格を有している外国人であっても、許可を得ずに、与えられた在留資格以外の収入を伴う活動
不法就労は法律によって明確に禁止されています。不法就労した外国人だけではなく、不法就労させた事業主も処罰の対象となりますので、外国人を雇用する使用者は注意が必要です。
不法就労の例
1. 不法滞在者や被退去強制者が働くケース
・密入国した人や在留期限の切れた人が働く
・退去強制されることが既に決まっている人が働く
2. 入国管理局から働く許可を受けていないのに働くケース
・観光等の短期滞在目的で入国した人が働く
・留学生や難民認定申請中の人が許可を受けずに働く
3. 入国管理局から認められた範囲を超えて働くケース
・外国料理のコックとして働くことを認められた人が工場・事務所で単純労働者として働く
・留学生が許可された時間数を超えて働く
(※ 出入国在留管理庁パンフレットより)
不法就労者数
平成30年中に入管法違反により退去強制手続が執られた外国人は1万6269人に上り、そのうち不法就労の事実が認められた者は1万86人となっています(法務省HP)。平成31年1月1日時点の不法残留者数は7万4000人を超えていることから、実際の不法就労者は多数存在していると思われ、出入国在留管理庁は定期的に「不法就労外国人対策キャンペーン」を実施しています。
雇用主も罰せられる-不法就労助長罪
不法就労助長罪となる行為
不法就労の怖いところは、不法就労をした外国人のみならず、その外国人を雇用する事業主やあっせんした者も罰せられることです。この不法就労助長罪が成立するのは次のような場合です(入管法73条の2第1項)。
① 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
② 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
③ 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は上記②の行為に関しあっせんした者
不法就労助長罪の罪責
・不法就労助長罪で有罪となった場合には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金のいずれか、または両方が併科されます(入管法73条の2第1項柱書)。
・法人の代表者や雇用している従業員が不法就労助長罪を犯した場合は、不法就労助長行為をした者が不法就労助長罪に問われるほか、当該法人や従業員を雇用している事業主も300万円以下の罰金が科されることがあります(入管法76条の2)。
「知らなかった」は通用しない!‐過失犯も処罰対象
平成21年に入管法が改正されるまでは、不法就労助長罪は、その外国人が不法就労者であることを「知っていること」が要件とされていました。つまり、不法就労外国人であることを「知らずに」雇用していた場合には、罪にはなりませんでした。
ところが、平成21年の法改正により不法就労助長罪が強化され、「知らなかった」としても、そのことに過失がある場合には、不法就労助長罪が成立することとなりました。つまり、不法就労外国人であることを「知らなかった」という言い分は通用しないことになります。
知らなかった場合でも有罪となる場合
① 外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること
② 活動に必要な資格外活動許可を得ていないこと
③ 外国人が在留資格を有しない不法滞在者であること
これら①~③について知らなかったとしても、これを知らなかったことにつき過失がある場合には不法就労助長罪が成立します(入管法73条の2第2項)。
不法就労の防止-雇用主が罰せられないための注意点
1. 採用時の就労資格の確認
外国人の就労の可否や範囲は、在留カードによって確認することができます。在留カードとは、日本に中長期間在留する外国人に対して交付される「許可証」のようなもので、氏名,生年月日,性別,国籍・地域,住居地,在留資格,在留期間,就労の可否などが記載されています。
この在留カードを見れば在留資格、就労制限の有無、在留カードの有効期間、資格外活動許可の内容等を把握することができることから、外国人を採用する際に在留カードを確認することは必須といえます。
在留カード等番号失効情報照会
出入国在留管理庁の「在留カード等番号失効情報照会」システムを使えば、在留カード及び特別永住者証明書の番号の失効状況を確認することができます。在留カード等が有効であるか否かについては、この照会システムも併せて使用することが望ましいでしょう。
2. 外国人転職者の雇用
日本国内の他の会社で適法に就労していた外国人転職者を雇用する場合にも注意が必要です。
たとえば、「技術」の在留資格で他の企業で働いていた外国人が、今度は通訳として自社へ転職しようとしている場合、在留資格「技術」のまま雇用することはできません。このような場合、「国際業務」への在留資格変更許可申請を地方入国管理局へ行い、自社業務に適合する在留資格を得てもらう必要があります。
3. 外国人就労者の家族
就労可能な在留資格を取得して日本に入国した外国人の扶養を受ける配偶者や子は、「家族滞在」の在留資格で日本国内に在留することができます。
家族滞在の在留資格では本来就労が認められていないため、それらの者をアルバイトやパートのような形で雇用するためには資格外活動許可を得ているかを確認しておく必要があります。また、資格外活動は原則週28時間までとなっていますので、時間管理にも注意する必要があります。このことは、留学生をアルバイトとして採用する場合も同様です。
4. 風俗営業
留学生などが資格外活動許可を得て就労する場合であっても、風営法に規定される「風俗営業」等で働くことはできません。この風俗営業の範囲は広く、「特定少数の客の近くにはべり、継続して、談笑の相手となったり、酒等の飲食物を提供したりする行為(警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」)などの接待(風営法2条1項1号)も該当します。直接客の接待等を行わないとしても、風俗営業等が営まれている営業所での就労自体が認められていないため、注意が必要です。
外国人雇用企業は専門家による継続的な支援体制の整備を
不法就労助長罪を犯してしまった場合、有料職業紹介事業や労働者派遣事業の許可取消等にも該当するため、紹介事業や派遣事業を行っている事業者には行政処分にまで影響が及びかねません。
外国人を雇用するにあたっては、不法就労のみならず、募集や採用、雇用中の労務管理も含めて日本人とは異なる注意事項が多々あります。入管法等の関係法令をしっかりと理解したうえで、不正行為の予防や問題事由が発生した場合にも迅速かつ的確な対応が取れるよう、各企業は入管法、労働関係法令、技能実習法等の関係法規に精通した弁護士等の専門家から継続的に助言・指導を受けられる体制を構築しておくことが望ましいといえます。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】

岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
関連記事はこちら
労働コラムの最新記事
- 退職時の誓約書を拒否された際の対応方法について弁護士が解説
- 問題社員対応を見据えた就業規則の作り方とは?弁護士がポイントを解説!
- 社用車の自損事故での自己負担の割合とは?従業員に弁償させたい場合の流れについて弁護士が解説!
- 退職時の誓約書への署名拒否にどう対応すべきか?競業避止義務を課すための有効な方法とは
- 【コラム】退職後の競業避止義務違反を防ぐ! -競業避止契約と違約金の定め-
- 【コラム】競業避止義務に違反した退職社員に対して退職金の返還請求をする!
- 【コラム】年功序列型賃金の限界と人事制度改革
- 【コラム】同業他社への転職を防ぐ誓約書作成の勘所 - 抑止力ある競業避止義務を課すために
- 【コラム】年休取得時に支払う賃金-各種手当は「通常の賃金」に含まれるか
- 【コラム】業務上の負傷・疾病で療養・休業を続ける従業員を解雇できるか?
- 【コラム】運送業者必!歩合給の制度設計と賃金制度変更の手引き
- 【コラム】運送業者必見!残業代リスクを大幅に軽減する賃金制度設計
- 【コラム】運送業者必見!高額化する残業代請求リスクに備えあれ
- 内部調査等に従事する者の守秘義務とは?-改正公益通報者保護法
- 実労働時間がタイムカードの打刻時間どおりでない場合
- 退職した従業員から損害賠償請求をされた際の会社側の対応方法とは?事例を基に弁護士が解説!
- 雇い入れ時の健康診断は省略可能か?-定期健康診断での代用・入社後/退職予定者への対応策について!-
- 36協定の締結を労働組合に拒否された!-残業・時間外労働・結びたくないと言われた会社にとってのデメリットとは?弁護士が解説!
- 70歳までの継続雇用-改正高年齢者雇用安定法に対する企業の向き合い方
- 経歴詐称の社員を解雇したい!
- 社員が始末書を提出しない!
- 懲戒処分の社内公表はどこまで可能?社内通知に注意点・判断基準について弁護士が解説!
- 企業の採用の自由と調査の自由
- 定年後再雇用と嘱託社員~契約更新の注意点と雇止め法理~
- コロナ禍における労務対応‐在宅勤務とフレックスタイム制
- 懲戒処分には弁明の機会の付与が必要?-懲戒解雇の進め方や団体交渉への弁護士の同席について解説!
- 傭車運転手からの団体交渉‐業務請負者と労組法上の「労働者」
- 移動時間と労働時間について-出張での移動時間や勤務時間について弁護士が解説!-
- 退職勧奨はどこまでできる?-「辞めるつもりはない」とはっきり言われたら
- 有期契約社員の雇止め-契約社員から雇止めが不当だと主張されないために
- 濫用的年休申請への対処法
- 余剰人員の削減!でも中小企業が整理解雇を行う前にやるべきこと
- タイムカードでの残業代・残業申請について弁護士が解説!打刻での時間外労働の計算方法について
- 在宅勤務のための費用は会社が負担すべきか?-テレワークにおける費用負担
- 企業の街宣活動への対応方法とは?-違法となる場合・街宣車がうるさい場合は通報できる?-
- 身元保証契約には極度額の定めが必須!-民法改正への対応
- 不況時の人員削減‐中小企業のための整理解雇実行の手引き
- 派遣事業の適法性リーガルチェック‐派遣業と請負業
- 派遣先から減産による休業措置がとられたら‐休業時に派遣会社がとるべき対応
- 団体交渉で休業補償100%を求められたら‐休業と休業手当
- テレワーク導入の手引き‐弁護士がすすめるテレワーク規定の要点と成果を上げるための4つの視点
- 経営上の理由により従業員を休ませる場合の対応‐休業補償と政府による休業支援策
- 労働者派遣契約-契約事項と情報提供義務
- 労働者派遣事業の許可‐派遣事業を始める方へ
- 派遣労働者の同一労働同一賃金
- パワハラ対策が義務化!-パワハラ防止法
- 労働者の健康管理-医師による面接指導義務
- 社内に労働組合ができたらどう対応するか‐労働組合の要件
- 労基法改正-新たな残業規制
- 年5日の年次有給休暇の取得が義務化
- 経営者必見!定額残業代制に関する重要判決と時代の変化への対応
- 経営者必見!定額残業代制が否定された場合の三重苦
- 労災事案の賠償請求に対する使用者側対応と労災保険
- 外国人労働者への労働関係法令の適用と社会保険
- 外国人技能実習生の受入手続
- 派遣労働者への労働条件の通知と就業条件の明示
- 労働者派遣期間の制限と適正な運用
- 相次ぐ技能実習認定の取消し‐外国人材受入れ企業はより一層のコンプライアンスを
- 派遣契約の終了と派遣労働者の処遇
- 「残業代込みの給料」-定額残業代制の留意点
- 季節により繁閑がある場合は1年単位の変形労働時間制で時短を
- 予期しない残業代請求を受けないための就業規則の規定と運用
- 賞与の支給を適正に定める就業規則のポイントと注意点
- 就業規則における懲戒の定め方について解説!~出勤停止の期間について~
- 残業代に含まれる手当とは?計算方法について弁護士が解説-基礎賃金に含まれる手当とは?家族手当は含まれる?残業手当・固定残業代について弁護士が解説!-
- 問題社員対応事例③(従業員に損害賠償を請求したい!)~モンスター社員対応~
- 変形労働時間制は運用が鍵!
- 行き詰った団体交渉を打破する‐あっせん手続の活用
- 残業代請求を和解で解決する場合の注意点-和解と賃金債権放棄
- 労働委員会への救済申立てに対する対応
- 降格処分はこう使う!
- 無期転換ルールへの対応-有期契約社員の更新、雇止めと就業規則の改定
- 日常業務に関する事項と団体交渉
- 労働条件の不利益変更-就業規則の修正・変更は自由にできるか?
- 就業規則がなければできないこと
- 従業員への貸付金の返済金を賃金から適法に控除する方法
- 残業許可制でダラダラ残業を防ぐ!
- それって労働時間にあたるの?-手待ち時間の労働時間該当性
- 就業規則に潜む危険-雛形をそのまま使っていませんか?
- メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任
- 円満に内定取消を行う方法
- 求人票記載の給与額と契約上の給与額
- 経営事項と団体交渉
- 賞与(ボーナス)を巡る問題と団体交渉
- 会社を守る36協定の締結方法
- 残業単価の計算方法とは?-時間単価・労働時間について弁護士が解説!-
- メンタルヘルス不調社員対応のポイント
- 使用者のためのマタハラ、育児・介護ハラスメント対応の手引き
- 「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」
- 残業時間の立証-使用者による労働時間の適正把握義務
- 管理職と残業代請求-管理監督者とは
- 残業代未払いに対する罰則とは?残業代請求は拒否できる?ー遅延損害金についても弁護士が解説!
- 問題社員対応事例②(従業員が会社のお金を横領した!)~モンスター社員対応~
- 問題社員対応事例①(ローパフォーマー社員を辞めさせたい!)~モンスター社員対応~
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き③(パワハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き②(セクハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き①(基礎知識編)
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part3
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part2
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part1
- 懲戒処分を行う場合の留意点
- 退職金の減額・没収・不支給
- 能力・適格性が欠如する問題社員対応のポイント
- 雇止めと団体交渉
- 解雇無効についての団体交渉
- 未払い残業代請求についての団体交渉
- 団体交渉を有利に進める方法
- 退職した元従業員との団体交渉
- 団体交渉に弁護士を入れることのメリット
- 団体交渉申入書が届いたら
- フレックスタイム制の活用法
- 働き方改革③-高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)とは
- 働き方改革②-同一労働同一賃金とは
- 働き方改革①-新しい残業規制とは