社内に労働組合ができたらどう対応するか‐労働組合の要件
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、労働組合との交渉を有利に進めるための方法をご提案するとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。合同労組やユニオンなどの労働組合との交渉でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
労働組合の結成
従業員の方が職場の人を誘って社内に労働組合を結成することがあります。いわゆる企業別組合です。突然労働組合を結成し、集団で激しい抗議活動を受けると経営者の方はどう対応していいのか困惑するかもしれません。そもそも、「労働組合を結成した!」と名乗られただけで、本当にそれが「労働組合」なのかわからない、といった疑問も生じます。そこで、ここでは労働組合の要件と労働組合に与えられている法的保護について説明します。
労働組合とは
労働組合法は、労働組合を「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」と定義しています(労組法2条)。したがって、労働者の団体のうち、この定義を満たすものが労働組合法上の労働組合ということになります。
労働組合の種類
労働組合には、その組合員の範囲や組織形態によっていくつかの種類に分類することができます。いずれも労組法上の要件を満たす限りは等しく労働組合にあたります。
企業別組合
特定の企業又は事業所で働く労働者で組織された労働組合であり、日本における労働組合の最も基本的な形態です。
従業員1000人以上の大企業では40%程度の組織率がありますが、従業員数100人未満の中小企業の組織率は1%に満たないといわれています。
産業別組合
同一産業に従事する労働者で組織される労働組合ですが、日本では、同一産業において企業別組合が結集した連合体として産業別の連合組合(いわゆる「単産」)が結成される形をとることが一般的です。代表的なものとして、流通・サービス業等のUAゼンセン、自動車産業の自動車総連などがあります。
地域労組
中小企業で働く労働者を一定地域において企業や産業に関わりなく合同して組織される労働組合です。合同労組、ユニオンなどと呼ばれ、個々の労働者の解雇、残業代請求その他の雇用関係上の問題を個々の企業との交渉によって解決することを目指しており、中小企業にとっては最も対峙する機会が多い労働組合です。
労働組合の要件
中小企業で企業別の社内組合が結成されるケースは多くはありませんが、それでも特定の従業員との間で生じた労働問題をきっかけとして突如「組合を結成した」などと組合結成通知と団体交渉の申入れがなされることがあります。この労働者の団体が労組法上の労働組合といえるためには、先にみた定義に該当する必要がありますが、要件としてまとめると次のとおりとなります。
① 労働者が主体となって(主体)
② 自主的に(自主性)
③ 労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として(目的)
④ 組織する団体又はその連合団体(団体性)
⑤ 法定された事項を記載した規約を整備
労働組合の「自主性」
5つの要件のうち、法的に最も問題となるのは②自主性の要件です。労組法は、2条但書において自主性が損なわれやすい例を列挙し、自主性を否定する消極要件を定めています。この自主性が求められる趣旨は、労働者の利益を代表して活動・交渉を行う組織が労働組合である以上、使用者からは独立すべき、ということにあります。
組織面での自主性
役員、人事に関する直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、労働関係に関する機密事項に接するためその職責が組合員であることと直接抵触する監督的地位にある労働者など、使用者の利益を代表する者が加入する団体は、労組法上の労働組合ではないとされます(労組法2条但書1号)。
管理職(通常は課長クラス以上)になると労働組合から脱退する取り扱いをしている組合は多いですが、法的には形式的な肩書だけではなく実質的な観点から判断されます。
財政面での自主性
団体の運営のために使用者から経費の援助を受けている場合は、自主性を欠くものとして労組法上の労働組合ではないとされます(労組法2条但書2号)。
ただし、経費援助のすべてが禁止されているわけではなく、次のような例外が認められています。
・労働時間内に有給で使用者と協議・交渉することを使用者が許すこと
・組合員の福利厚生基金に使用者が寄付すること
・最小限の広さの事務所を使用者が供与すること
規約の作成
労組法上の労働組合であるためには、労組法が求める必要的記載事項を記載した組合規約を作成されていることが必要です(労組法5条1項)。
必要的記載事項は主として労働組合の公正で民主的な運営を確保するために設けられたものです。
【必要的記載事項】
1. 名称
2. 主たる事務所の所在地
3. 組合員の組合運営への参与権及び均等の取扱いを受ける権利
4. 人種、宗教、性別、門地又は身分による組合員資格剥奪の禁止
5. 組合役員選挙の直接無記名投票
6. 毎年1回の総会の開催
7. 資格者たる会計監査人による会計監査と組合員への公表
8. 同盟罷業開始について直接無記名投票の過半数による決定
9. 規約改正要件
なお、労働委員会で行われる資格審査においては、あくまで規約として定められているか否かについての形式審査のみ行われ、実際にそれらが遵守されているか否かはチェックされません。
労働組合に該当しないとしたら
労働委員会への救済申立てができない
労働組合法5条は、「労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第2条及び第2項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない」と定めています(労組法5条1項)。
ここでいう「第2条」とは、自主性をはじめとする労働組合の定義要件であり、「第2項」とは必要的記載事項を定めた組合規約の作成です。つまり、労働組合の定義を満たし、必要的記載事項を記載した規約をもたなければ、労働委員会で行われる資格審査をパスすることはできないことになります。
このことの最も大きな意味として、法不適合組合は、不当労働行為の救済手続きを利用できないことが挙げられます。たとえ企業が団体交渉を拒否したとしても、労組法に適合しない組合は、それを不当労働行為として労働委員会に救済を求めることができません。
労働協約締結の当事者とならない
労働協約とは、労働組合と使用者との間で締結される労働条件等の合意を言います(労組法14条)。労組法によってその効力が認められる労働協約ですので、労組法が定める定義要件(2条)を満たさない団体に労働協約の締結資格はありません。
もっとも、組合規約が整備されていないだけであれば、規約要件は労組法上の手続き参加のための資格審査に過ぎないため(法5条)、協約締結は可能であるとされています。
組合の存在自体は否定されない
法に適合する組合でなかったとしても、それは労組法上の特別な保護を受けられないというだけで、その存在自体を否定されるわけではないという点には注意が必要です。
労組法上の要件を満たさない労働者の集団であっても、労働者の地位の向上を目的として自主的に組織した団体であれば、憲法28条のいう勤労者の団結として法的な保護を受けることができます。したがって、正当な団体行動に対する民事免責、刑事免責、不利益取扱いの禁止などの権利は保障されることになります。
社内に労働組合ができたら使用者はどう対応する
社内に「労働組合」を名乗る団体ができた場合に、それが労組法上の法適合組合に該当するか否かの判断は決して容易ではありません。また、仮に労組法上の要件を満たさない組合であったとしても、それが「労働者の団体」であることには変わりありません。その人数が事業場の過半数を占める場合には、労使協定の締結対象者ともなりえます。
したがって、当該組合が労組法上の労働組合に該当するか否かはもちろん問題となりうるとしても、まずもって使用者と労働者との間で生じている問題をいかに解決するかという視点で戦略を立てることが大切です。そのうえで、どのように対峙し、あるいはどのような関係を築いていくべきかという戦術を練っていくことになります。
団体交渉には専門家の支援を
労使協調路線をとる企業別組合であればさほど問題となりませんが、合同労組、ユニオンなどの労働組合と同質的な社内組合ができた場合には、十分な対抗策を用意したうえで交渉に臨むことが大切です。各種労働法規への理解が不十分なまま不用意に対応すれば、意図しない不利益な結果を甘受しなければならなくなる危険があります。企業防衛のためには、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの支援を受けながら団体交渉に臨まれることを強くお勧めいたします。専門家の支援を受けることで、企業は過酷な交渉の負担から解放され、適切な方針のもと最良の解決を得られる可能性が高まるといえるでしょう。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
関連記事はこちら
- 36協定の締結を労働組合に拒否された!-残業・時間外労働・結びたくないと言われた会社にとってのデメリットとは?弁護士が解説!
- 傭車運転手からの団体交渉‐業務請負者と労組法上の「労働者」
- 企業の街宣活動への対応方法とは?-違法となる場合・街宣車がうるさい場合は通報できる?-
- 団体交渉で休業補償100%を求められたら‐休業と休業手当
- 社内に労働組合ができたらどう対応するか‐労働組合の要件
- 行き詰った団体交渉を打破する‐あっせん手続の活用
- 労働委員会への救済申立てに対する対応
- 日常業務に関する事項と団体交渉
- 経営事項と団体交渉
- 賞与(ボーナス)を巡る問題と団体交渉
- 雇止めと団体交渉
- 解雇無効についての団体交渉
- 未払い残業代請求についての団体交渉
- 団体交渉を有利に進める方法
- 元従業員との団体交渉
- 団体交渉に弁護士を入れることのメリット
- 団体交渉申入書が届いたら
労働コラムの最新記事
- 問題社員対応を見据えた就業規則の作り方とは?弁護士がポイントを解説!
- 社用車の自損事故での自己負担の割合とは?従業員に弁償させたい場合の流れについて弁護士が解説!
- 競業避止義務を定めた誓約書提出の強制・義務付けの可否~違反した場合・誓約書の効力について~
- 【コラム】退職後の競業避止義務違反を防ぐ! -競業避止契約と違約金の定め-
- 【コラム】競業避止義務に違反した退職社員に対して退職金の返還請求をする!
- 【コラム】年功序列型賃金の限界と人事制度改革
- 【コラム】同業他社への転職を防ぐ誓約書作成の勘所 - 抑止力ある競業避止義務を課すために
- 【コラム】年休取得時に支払う賃金-各種手当は「通常の賃金」に含まれるか
- 【コラム】業務上の負傷・疾病で療養・休業を続ける従業員を解雇できるか?
- 【コラム】運送業者必!歩合給の制度設計と賃金制度変更の手引き
- 【コラム】運送業者必見!残業代リスクを大幅に軽減する賃金制度設計
- 【コラム】運送業者必見!高額化する残業代請求リスクに備えあれ
- 内部調査等に従事する者の守秘義務とは?-改正公益通報者保護法
- 実労働時間がタイムカードの打刻時間どおりでない場合
- 退職した従業員から損害賠償請求をされた際の会社側の対応方法とは?事例を基に弁護士が解説!
- 雇い入れ時の健康診断は省略可能か?-定期健康診断での代用・入社後/退職予定者への対応策について!-
- 36協定の締結を労働組合に拒否された!-残業・時間外労働・結びたくないと言われた会社にとってのデメリットとは?弁護士が解説!
- 70歳までの継続雇用-改正高年齢者雇用安定法に対する企業の向き合い方
- 経歴詐称の社員を解雇したい!
- 社員が始末書を提出しない!
- 懲戒処分の社内公表はどこまで可能?社内通知に注意点・判断基準について弁護士が解説!
- 企業の採用の自由と調査の自由
- 定年後再雇用を辞めさせる方法はありますか?-継続雇用制度と嘱託社員の雇止め・再雇用者の契約終了(契約打ち切り)について弁護士が解説!
- コロナ禍における労務対応‐在宅勤務とフレックスタイム制
- 懲戒処分には弁明の機会の付与が必要?-懲戒解雇の進め方や団体交渉への弁護士の同席について解説!
- 傭車運転手からの団体交渉‐業務請負者と労組法上の「労働者」
- 移動時間と労働時間について-出張での移動時間や勤務時間について弁護士が解説!-
- 退職勧奨はどこまでできる?-「辞めるつもりはない」とはっきり言われたら
- 有期契約社員の雇止め-契約社員から雇止めが不当だと主張されないために
- 濫用的年休申請への対処法
- 余剰人員の削減!でも中小企業が整理解雇を行う前にやるべきこと
- タイムカードでの残業代・残業申請について弁護士が解説!打刻での時間外労働の計算方法について
- 在宅勤務のための費用は会社が負担すべきか?-テレワークにおける費用負担
- 企業の街宣活動への対応方法とは?-違法となる場合・街宣車がうるさい場合は通報できる?-
- 身元保証契約には極度額の定めが必須!-民法改正への対応
- 不況時の人員削減‐中小企業のための整理解雇実行の手引き
- 派遣事業の適法性リーガルチェック‐派遣業と請負業
- 派遣先から減産による休業措置がとられたら‐休業時に派遣会社がとるべき対応
- 団体交渉で休業補償100%を求められたら‐休業と休業手当
- テレワーク導入の手引き‐弁護士がすすめるテレワーク規定の要点と成果を上げるための4つの視点
- 経営上の理由により従業員を休ませる場合の対応‐休業補償と政府による休業支援策
- 労働者派遣契約-契約事項と情報提供義務
- 労働者派遣事業の許可‐派遣事業を始める方へ
- 派遣労働者の同一労働同一賃金
- パワハラ対策が義務化!-パワハラ防止法
- 労働者の健康管理-医師による面接指導義務
- 労基法改正-新たな残業規制
- 年5日の年次有給休暇の取得が義務化
- 経営者必見!定額残業代制に関する重要判決と時代の変化への対応
- 経営者必見!定額残業代制が否定された場合の三重苦
- 労災事案の賠償請求に対する使用者側対応と労災保険
- 外国人労働者への労働関係法令の適用と社会保険
- 不法就労の防止と対応
- 外国人技能実習生の受入手続
- 派遣労働者への労働条件の通知と就業条件の明示
- 労働者派遣期間の制限と適正な運用
- 相次ぐ技能実習認定の取消し‐外国人材受入れ企業はより一層のコンプライアンスを
- 派遣契約の終了と派遣労働者の処遇
- 「残業代込みの給料」-定額残業代制の留意点
- 季節により繁閑がある場合は1年単位の変形労働時間制で時短を
- 予期しない残業代請求を受けないための就業規則の規定と運用
- 間違えると取り返しがつかない!-就業規則「賞与(ボーナス)」の定め方
- 就業規則における懲戒の定め方について解説!~出勤停止の期間について~
- 残業代に含まれる手当とは?計算方法について弁護士が解説-基礎賃金に含まれる手当とは?家族手当は含まれる?残業手当・固定残業代について弁護士が解説!-
- 問題社員対応事例③(従業員に損害賠償を請求したい!)~モンスター社員対応~
- 変形労働時間制は運用が鍵!
- 行き詰った団体交渉を打破する‐あっせん手続の活用
- 残業代請求を和解で解決する場合の注意点-和解と賃金債権放棄
- 労働委員会への救済申立てに対する対応
- 降格処分はこう使う!
- 無期転換ルールへの対応-有期契約社員の更新、雇止めと就業規則の改定
- 日常業務に関する事項と団体交渉
- 労働条件の不利益変更-就業規則の修正・変更は自由にできるか?
- 就業規則がなければできないこと
- 従業員への貸付金の返済金を賃金から適法に控除する方法
- 残業許可制でダラダラ残業を防ぐ!
- それって労働時間にあたるの?-手待ち時間の労働時間該当性
- 就業規則に潜む危険-雛形をそのまま使っていませんか?
- メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任
- 円満に内定取消を行う方法
- 求人票記載の給与額と契約上の給与額
- 経営事項と団体交渉
- 賞与(ボーナス)を巡る問題と団体交渉
- 会社を守る36協定の締結方法
- 残業単価の計算方法とは?-時間単価・労働時間について弁護士が解説!-
- メンタルヘルス不調社員対応のポイント
- 使用者のためのマタハラ、育児・介護ハラスメント対応の手引き
- 「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」
- 残業時間の立証-使用者による労働時間の適正把握義務
- 管理職と残業代請求-管理監督者とは
- 恐ろしい残業代未払いに対するペナルティとは?残業代請求は拒否できる?-遅延損害金についても弁護士が解説!-
- 問題社員対応事例②(従業員が会社のお金を横領した!)~モンスター社員対応~
- 問題社員対応事例①(ローパフォーマー社員を辞めさせたい!)~モンスター社員対応~
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き③(パワハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き②(セクハラ編)
- 使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き①(基礎知識編)
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part3
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part2
- 使用者側・労働審判を有利に導く10のコツ Part1
- 懲戒処分を行う場合の留意点
- 退職金の減額・没収・不支給
- 能力・適格性が欠如する問題社員対応のポイント
- 雇止めと団体交渉
- 解雇無効についての団体交渉
- 未払い残業代請求についての団体交渉
- 団体交渉を有利に進める方法
- 元従業員との団体交渉
- 団体交渉に弁護士を入れることのメリット
- 団体交渉申入書が届いたら
- フレックスタイム制の活用法
- 働き方改革③-高度プロフェッショナル制度(脱時間給制度)とは
- 働き方改革②-同一労働同一賃金とは
- 働き方改革①-新しい残業規制とは