円満に内定取消を行う方法
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
内定を取り消したい!
一度は採用することを決めたものの、やはり内定を取り消したい、あるいは取消さざるを得ない状況となった、ということも起こり得ます。内定を出したものの、内定者が虚偽の申告をしていることが分かった、内定を出してからの態度に問題がありこのまま入社されると問題社員となることが予想される、あるいは予定していた新規出店ができなくなり人員が余剰となる、など様々な理由があるでしょう。では、このように内定を取り消したいと考えた場合、使用者は無条件に内定取消を行うことはできるでしょうか?内定の意味を確認したうえで、実際に内定取り消しを行う場合に注意すべきポイントについて解説していきます。
内定の意味
採用活動の過程と法的位置づけ
企業による採用活動は、①企業による募集 → ②労働者からの応募 ③採用選考(書類選考、面接等)→ ④採用内定 → ⑤入社 という過程を経ることが一般的です。
これを法的にみると、①企業による労働者の募集行為は労働契約申込みの誘引であり、②労働者からの応募は労働者による労働契約の申込みとなります。そして、この申込みに対し、採用選考を経てこれに合格した者に対して企業が行う④採用内定が契約申込みに対する承諾ということになります。つまり、労働者による応募が契約の申込みであり、使用者による採用内定が契約の承諾ということになりますので、この申込みと承諾により労働契約の合意がなされ、契約が成立することになります。
したがって、使用者による採用内定の時点で労働契約は成立するのが通例です。内定は単なる契約の予約に過ぎないからいつでも自由に取消せる、と考えることは非常に危険な考えであることをまず理解しておくことが大切です。
解約権の留保
使用者が内定通知を出した時点で労働契約が成立しているとしても、内定から入社までにはある程度の期間があいていることが一般的です。新卒社員の場合、内定時はまだ学生であり卒業できなければ内定を出した前提条件が崩れてしまいます。そのため、この「内定」には、「大学を卒業できなかった場合」や「病気等により働くことができなくなった場合」などの事情がある場合には内定を取消すことができるという「解約権」が使用者に留保されていると考えることができます。つまり、内定によって労働契約は成立しているものの、使用者は一定の場合に労働契約を解約することができる解約権を有することになります。
もっとも、どのような場合に企業が内定を取消すことを予定しているのか、ということは企業ごと、個別事情ごとに異なり得ます。そのため、使用者が留保する解約権については、採用内定通知書や内定者からもらう誓約書あるいは採用請書などの書面に記載し明示しておくことが必要となります。
内々定とは
内定の一歩手前に内々定というものがあります。これは採用内定とは異なり、企業も応募者もお互いに「正式採用」という意識に乏しいことが通常であり、労働契約が成立しているとはいえないことが一般的です。
内定取消事由(解約事由)記載例
1.令和○年○月○日までに所属する学校を卒業できない場合
2.健康状態が内定段階よりも著しく低下し、労務の提供を継続して提供することができないと会社が判断した場合
3.履歴書や申告した事実に虚偽の事実があるなど経歴詐称の事実が判明した場合
4.逮捕または有罪判決その他の刑事処分を受けた場合
5.会社の名誉、信用を毀損するような行為を行った場合
6.会社の経営状況が悪化した場合
7.その他前各号に準ずる事由が存することにより、入社することが適さないと会社が判断した場合
大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)
企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
内定取消に対する法的制約
使用者に解約権が留保されているとはいえ、労働契約が成立している以上、内定取消も労働契約に対する法的制約に服することになります。
内定取消は労働契約の解消という点では解雇と同様の性質を有するため、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)と規定される解雇権濫用法理に準じた制約を受けます。つまり、内定取消は、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できる事由がある場合にはじめて適法に行えることになります。経営悪化を理由とした採用内定の取消しについても、整理解雇に準じた検討が必要となります。
大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)
・企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
・企業が、大学卒業予定者の採用にあたり、当初からその者がグルーミーな印象であるため従業員として不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかも知れないとしてその採用を内定し、その後になって、右不適格性を打ち消す材料が出なかったとして留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたるものとして無効である。
整理解雇の4要件
1.人員削減の必要性
不況、経営不振等による事業縮小、合理化等の経営上の必要性
2.解雇回避努力義務
配転、一時帰休等による内定取消回避のための努力
3.解雇対象者選定の必要性
合理的な人選基準
4.手続の妥当性
十分な説明、納得を得るための誠意ある協議
内定取消を行う際のポイント
解約権を有しているとしても、その行使には法的制約が加わっていることから、内定取消も簡単ではなく、その適法性を巡って争いとなれば企業にとって厳しい判断が下されるリスクがあります。また、企業としては、やはり内定者が有している期待や置かれている状況に対する配慮をもつことは大事なことです。
そのため、内定を取消さざるを得ない場合であっても、直ちに解約権を行使するのではなく、できる限り協議によって内定者の理解を得、内定を辞退あるいは合意によって取り消してもらえるよう円満解決を目指すべきといえます。そのために、使用者が押さえておくべきポイントは次の3点です。
①できる限り早く内定取消の申出をする
内定の取消しが入社日の直前となっては内定者に大きな打撃を与えてしまいます。他社への就職活動の機会を与えるためにも、内定を取消すことを判断したらすぐにその旨伝えるようにします。
②内定者と直接面談する
電話やメール、あるいは書面といった方法では、いかにも冷たく、会社の誠意や謝罪の気持ちは伝わりにくいでしょう。会社側の都合であれ内定者に帰責性がある場合であれ、やはり面談して直接理由を伝えることで、内定者の理解を得ることが可能となります。
③誠意をもって理由を説明する
内定取消の理由は具体的に、できれば根拠資料と併せて説明することが望ましいといえます。大事なのは、内定者の納得感です。
④場合によっては金銭補償を提示する
特に入社日まで間がないような場合には、新たな就職先がすぐに見つかるとは限りません。そうした事実上被るであろう不利益や、精神的苦痛への配慮の趣旨も含めていくらかの金銭補償をすることも検討すべきかと思います。
⑤合意書を作成する
内定者から内定取消しについて同意が得られたら、合意書を作成して終局的に解決します。同意は得られたものの内定者の怒りが収まっていない様子が見られるような場合には、後々インターネット等で悪口を書かれないように誹謗中傷等を禁止する旨の条項も定めておきます。
労務管理には専門家の支援を
労働者の採用や解雇を巡る問題では、このほかにも雇用契約書、就業規則、試用期間、解雇権濫用法理などの様々な法的事項を踏まえて対応を検討する必要があり、使用者が予期しない、あるいは意図しないトラブルが発生しないように適切に労務管理をする必要があります。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば未払賃金等の大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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