【コラム】年功序列型賃金の限界と人事制度改革
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、就業規則の作成、見直しをサポートするとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。就業規則でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
日本型雇用と年功賃金
雇用契約と日本型雇用
雇用契約は、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」(民法623条)契約です。この雇用契約(労働契約)は、労働者保護を図る観点から労働基準法や労働契約法等によって契約関係の成立から終了までの法的ルールが定められていますが、そのルール内で独自の伝統を築いてきたものが「日本型雇用」といわれる雇用慣行です。これは、法律が定める規範や制度ではなく、雇用制度・人事制度の一つの在り方というべきものです。
日本型雇用の特色
この日本型雇用の特色としては、①年功序列賃金、②終身雇用、③企業内労働組合の3つが挙げられます。また、④新卒一括採用も日本型雇用の特色に挙げられることもあります。
これらのうち、①年功序列賃金と②終身雇用については昨今よく新聞等でも取り上げられているとおり、課題を感じている企業も多いかもしれません。もっとも、その課題に向き合い、その解決のための対策をとるためには、まずは課題そのものをしっかりと理解しておく必要があります。
年功序列賃金と職能資格制度
年功序列賃金は、その呼称のとおり、年功によって賃金が決まる人事制度を言います。年功とは年齢もありますが、通常は年齢とともに勤続年数も重ねていきますので、長く勤めれば勤めるほど賃金が上昇していくというのが一般的な年功賃金です。もっとも、「年功によって昇給する」などと直接的に賃金規定に年功賃金制度を定めているような企業はあまりありません。「結果的に」、あるいは「慣行として」年功賃金となっていることが通例ですが、それもまた日本的といえます。
日本企業の人事制度・賃金制度では、職能資格制度に基づく職能給が広く導入されています。職能資格制度とは、各労働者の職務遂行能力を把握し、各職掌における職務遂行能力を資格とランクで序列化したものです。いわば社員を格付けして等級によって賃金を決める制度であり、それ自体は優れた制度といえます。もっとも、職能資格基準は具体的かつ明確に定めることが望ましいですが、事業環境や時代の変化に合わせて逐一修正するという手間はかけられず、さらには社員の能力を公平に判断することも容易ではありません。そうなると、職能資格基準は抽象的で曖昧な内容で作られることが通常となり、また、基準が曖昧であることと相まって、勤続年数が増えれば職務遂行能力も向上していくという年功的な運用がされるようになります。こうして、「結果的に」、あるいは「慣行として」、多くの企業では年功序列賃金制度となっているというのが現状です。「成果主義」の導入で年功型の打破を試みる傾向が一時期ありましたが、賃金が上下するだけで従前の年功型から抜け出せず、逆にその副作用に苦しんでいる企業の方が多いかもしれません。
年功賃金の限界
採用の限界
企業の成長・発展のためには、フレッシュでバリバリと働く若い労働力が不可欠です。もっとも、長年の少子化のツケがじわりじわりと効いており、労働市場は人手不足の売り手市場、その傾向は今後も続く見通しです。そうした中、優秀な人材の採用を成功させるためには、仕事の魅力とともに、やはりそれ相応の待遇を用意するということも必要となります。
ところが、日本型雇用の特色である年功序列賃金制度は、現在の若年層との相性は控えめに言っても良いとはいえません。右肩上がりの時代と異なり、たとえ上場大企業への就職であったとしても、20年、30年にわたって昇給し続けるという安心感を抱く人は少なくなっているように思います。また、仮に若年時にモーレツ労働に従事したとしても、年功型ゆえに賃金が低く抑えられるというのでは、先が見通せない分、高給を得るまで20年待とう、という心境にもないでしょう。そうすると、年齢に関係なく優れた人材にはそれ相応のポストと待遇を用意するなど、年功序列型からの脱却は人材採用の一つの鍵となり得ます。
中高年層の限界
年功序列賃金制度によって、勤続年数を重ねた中高年層の賃金は全体として高額となっています。もちろん、賃金に見合うポストと能力、成果があれば批判の対象にはなりませんが、必ずしもそうでないところに問題があります。
先ほど述べたとおり、多くの企業で採り入れられている職能資格基準に基づく職能給は、結果的に、あるいは慣行として年功型に運用されているというのが実態です。そこには生活給としての意味合いも組み込まれ、ポスト(役職)がなくても勤続年数とともに等級を引き上げ昇給させるということが行われてきました。その結果、ポストに就いていなくてもその役職者相応の職能給となるなど、ポストと賃金との関連性が弱まり、賃金と成果との不一致が生まれています。こうして、年功によってポストや職務内容、成果と不釣り合いな賃金となっている中高年層は企業にとっての重荷となっており、生産性も上がらないままとなっています。
さらには、高年齢者雇用安定法により、企業には65歳までの雇用確保措置が義務付けられ、今後は70歳までの就業機会の確保が努力義務としてではあれ求められることになります。定年後再雇用者の賃金は定年前よりもその水準を下げることが一般的ですが、大幅な低下に対しては労働者側からの抵抗感も強く、時に訴訟など紛争化することも起きています。こうした法の求める継続雇用制度と年功序列賃金制度とは調和的とは言い難く、高年齢者雇用の時代に合わせた制度設計が必要となります。
人事制度の策定・運用には専門家の支援を
職能資格制度が導入されている企業においてはその運用が形骸化することによって、あるいは同制度を導入していない企業においては日本的な慣行によって年功型の賃金制度となっていることが一般的です。こうした従来の年功序列賃金制度に限界や課題、あるいは危機感を抱かれている企業においては、ジョブ型雇用を部分的に導入するなど、その変革を検討すべき時期に来ているかもしれません。また、女性の活躍推進や、ワークライフバランス重視型キャリアの創設など、時代の変化に合わせて現在はあらゆる観点から人事制度の再構築が求められています。
企業の成長と発展の土台となる人事制度・雇用制度の改革、構築にあたっては、法令への適合性や法効果を検証することが不可欠であり、人事・労務に強い弁護士や法律事務所等の専門家による支援を受けられることをお勧めいたします。
真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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