問題社員対応事例②(従業員が会社のお金を横領した!)~モンスター社員対応~

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

名古屋市で住宅の建築・販売を手掛けるC社からのご相談


当社は、愛知県名古屋市で主に注文住宅の建築を手掛けています。このたびは、営業社員のDが、請負代金をごまかして、売り上げの一部を着服していることが発覚しました。

きっかけは、営業社員Dが交通事故に遭って1か月ほど会社を休んだため、別の営業社員がD担当の名古屋市中村区のお客様と話をしていて不審な点に気付いたことでした。そこから資料を色々と調べてみると、なんと、請負代金を勝手に減額修正したうえ、一部を現金払いにして自分のポケットに入れていたのです。それは1件どころではなく、昭和区や西区、北区、あるいは清須市などの物件で10件以上同じ手口を使っていることが分かりました。

横領された金額が1000万円以上に上ることは確実です。私は怒り心頭で、懲戒解雇によってさっさと辞めさせたいと思っていますが、すぐにその旨伝えてしまってもいいでしょうか?横領された金額についても、もちろん返還を求めたいです。

(※ 相談事例は、実際に当事務所で扱った相談・解決事例を基に、プライバシー保護の観点から修正を加えたフィクションです。)

横領した従業員の懲戒解雇

従業員Dが行った横領行為は、明白な非違行為であり重大な職務規律違反にあたります。
そのため、解雇権行使に厳しい制約が課され、懲戒権行使にも限界が加えられている日本の法規制のもとであっても、横領社員Dを懲戒解雇することは法的には可能と考えられます。

解雇権濫用法理

日本では、業務命令違反などがある問題社員であったとしても、これを解雇することは厳しく制限されています。いわゆる「解雇権濫用法理」と言われるもので、労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています。

懲戒権濫用法理

使用者が、労働者を懲戒することができる場合であっても、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効」となります(労働契約法15条)。

懲戒解雇

懲戒処分の極刑であり、懲戒解雇は懲戒処分たる性格と解雇たる性格の双方を有するため、両者に関する法規制の双方が適用されます。もっとも、重大な非違行為への制裁罰としてなされる典型的な懲戒解雇については、労働契約法15条の合理性・相当性が認められれば、同法16条の合理性・相当性も通常は認められるでしょう。

【M信用金庫事件‐東京高判平成元年3月16日】

現金1万円を着服し横領した従業員について、使用者である信用金庫は、金融機関という性質上、信用に立脚し、信用が重要であるとして、懲戒解雇を有効とした事例

【S京タクシー事件‐東京高判平成15年4月24日】

タクシー運転手である従業員が、その運転するタクシーに乗客を乗せて走行していたにもかかわらず、「予約車」と表示し料金メーターを作動させず、乗客から対価として収受したと推認される料金を会社に納金しなかったメーター不倒行為について、同行為はタクシー会社の収入源を奪う極めて重大な行為であるとして、懲戒解雇を有効とした事例

事実の調査と証拠の収集は必ず行うべし

従業員が素直に認めるとは限らない

すぐに懲戒解雇処分としてしまいたいところですが、早まっては事を仕損じることがあります。

会社として従業員の売上金の着服の事実を把握したとしても、それは客観的な根拠をもって説明できるものでなければいけません。本当の契約額がいくらで、そのうちいくらを従業員が着服しているということが各種書類や入金履歴等から立証できなければ、それは単なる「疑い」「疑惑」の域を出るものではありません。顧客先、契約先に調査を行い、証言を書面化することも場合によっては必要になるかもしれません。

「疑惑」を「疑惑」のままいきなり本人を追及してしまうと、従業員側も自己防衛本能から事実を否認することが多くのケースでみられます。場合によっては証拠隠滅が図られることもありますので、まずは確実に証明するための証拠資料の収集を行うべきです。

自宅待機命令の発動

従業員が出勤することで資料の破棄や口裏合わせ等の証拠隠滅が行われる可能性がある場合は、自宅待機命令(出勤停止措置)を発動することがあります。
この自宅待機命令は、懲戒解雇相当の事由が疑われる場合に、懲戒解雇処分を行うか否かにつき調査または審議決定するまでの間就業を禁止するもので、業務命令によって行われます。

懲戒処分は適正な手続きを踏んで行うべし

また、懲戒処分は制裁罰としての性格をもつため、これを行うためには適正な手続きを踏むことが必要です。そのため、特段の支障がない限り、本人に弁明の機会を与えることが要請されます。適正な手続きを踏まずに行われた懲戒処分は、社会通念上相当性を欠くものとして懲戒権の濫用と判断される可能性がありますので、ここを疎かにしてはいけません。

【T学園教員懲戒解雇事件】

従業員の処罰は賞罰委員会の推薦または申告により行われるものとされ、この場合には審議を受ける本人に口頭または文書による弁明の機会を与えなければならないとされているところ(就業規則、賞罰委員会規則)、本件懲戒解雇が賞罰委員会の推薦または申告により行われたことを認めるに足りる証拠はなく、また懲戒対象となった従業員に弁明の機会を与えていないから本件懲戒解雇は上記手続規定に違反するものであるとし、懲戒解雇には就業規則及び賞罰委員会規則を無視した重大な手続違反があることを理由に、その余について判断するまでもなく懲戒解雇を無効とした事例

【甲社事件‐東京地判平成27年1月14日】

被解雇者である従業員に対し懲戒事由について告知・聴聞の機会を与えずになされた懲戒解雇は、社会通念上も相当といえず、権利を濫用したものとして無効と判断した事例

横領金の返還を求めるなら合意退職とすることも検討すべし

会社のお金を着服するような重大な非違行為社員については、心情としては懲戒解雇としたいところです。もっとも、着服された横領金の返還を確実に受けるために、懲戒解雇をしない代わりに横領金の返還を約束させることがあります。
例えば、本人の支払能力に疑問がある場合には、返済について保証人を付けることが望ましい場合もあり、この場合は返還合意書を作成することも検討に値します。

あるいは、当該従業員に退職金がある場合に、退職金の放棄や相殺を行うために合意をすることもあります。懲戒解雇の場合であっても、必ずしも退職金を0円とできるとは限りませんので、この点も併せて検討する必要があります。なお、懲戒解雇に伴う退職金不支給の相当性については、別の記事『退職金の減額・没収・不支給』にて解説していますので、ご参考いただければと思います。

したがって、懲戒解雇をしたうえで別途損害賠償を請求するのか、懲戒解雇をしない代わりに横領金の返還について合意をするのかは、懲戒処分としての形を重視するのか、あるいは現実の返還可能性等をどこまで考慮するのか等によって判断していくことになるでしょう。

解決方法は多種多様

上記はあくまで一つの解決方法であり、横領等の非違行為社員に対する対処方法は事案によって実に様々です。

従業員の横領行為が発覚し、その従業員への懲戒処分や賠償請求等が必要となった場合、まずは労働問題に強い弁護士等の専門家へ相談し、必要に応じて支援を受けながら対応することが、問題解決への近道でありリスク回避の最善策となると思います。

お問い合わせはこちらから


労務支援コンサルティングバナー

顧問契約について


 

当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。

実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー

関連記事はこちら

労働コラムの最新記事