使用者のためのセクハラ・パワハラ問題対応の手引き①(基礎知識編)

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、企業の経営者側に寄り添って、メンタルヘルス・ハラスメントなど各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。メンタルヘルス・ハラスメントでお困りの会社様は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

増加するハラスメント問題


セクハラ、パワハラ、マタハラなどの様々なハラスメントは、社会的な関心を集める重大な「労働問題」となっています。都道府県労働局における相談件数は、平成24年度以降、ハラスメントの相談件数がトップであり(厚生労働省「平成28年度個別労働紛争解決制度施行状況」)、「平成28年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査」においては、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員が32.5%もいるという結果が出ています。
  
ハラスメントが原因で、うつ病等のメンタルヘルス不全を生じさせたような場合には、企業は社会的にも法的にも大きな責任を追及されることを覚悟しなければなりません。ここではまず、ハラスメントに関する知識を整理し、セクハラ・パワハラ問題への予防と対応の基礎を固めたいと思います。

セクハラとは

様々なハラスメントがある中で、最初に提起されたものが「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」です。職場の主に男性上司から女性部下に対して行われる不快な性的言動が「セクハラ」として違法・不当な行為であるとの認識が広がり、1989年に「セクシュアル・ハラスメント」は流行語大賞を受賞しています。
  
セクハラは、日常用語としては「相手方の意に反する不快な性的言動」を意味する和製英語であり、抽象的で多義的な概念である点がセクハラ問題への対応の難しさを生じさせています。  
もっとも、セクハラの概念は様々な法規や指針の中に見ることができます。

【男女雇用機会均等法11条1項】

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

【人事院規則10-10】

第2条 この規則において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 セクシュアル・ハラスメント 他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動
二 セクシュアル・ハラスメントに起因する問題 セクシュアル・ハラスメントのため職員の勤務環境が害されること及びセクシュアル・ハラスメントへの対応に起因して職員がその勤務条件につき不利益を受けること

   

なお、「性的な言動」のうち、「性的な内容の発言」は、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等をいい、「性的な行動」は、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等をいいます。

セクハラの行為類型

均等法指針は、事業主のセクハラ防止措置の対象として、職場におけるセクハラには「対価型」と「環境型」があることを示しています。また、セクハラには、「同性に対するもの」「性的指向又は性自認」も含まれるとし、いわゆるLGBTなどの性的少数者に対するセクハラも対象となります。
  

対価型

「職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けること」

【例】

・上司が、部下に対して、性的関係を要求したが拒まれたため、はらいせに当該労働者を解雇すること
・出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。
・営業所内において事業主が日頃から労働者にかかる性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること。

環境型

「労働者の意に反して行われる性的な言動により、労働者の就業環境が害されるもの」

【例】

・事業所内において上司が労働者の腰、胸等にたびたび触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
・同僚が取引先において労働者にかかる性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと
・労働者が抗議しているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと

パワハラとは

パワーハラスメント(パワハラ)という言葉は一般的な単語として定着していますが、実は法律上はっきりと定義されているものではありません。一般的には、組織の立場などの優位性を利用した職場のいじめや嫌がらせなどを指す言葉として使われていますが、その概念は多義的であいまいに使用されるケースも多いのが実情です。
  
このようにあいまいで広く「パワハラ」という言葉が使われているがゆえに、何となくとらえようがなく、事が起きた際の対応や対策に苦慮しているという企業も多いのではないでしょうか。
  
法的概念としては定義化されていない「パワハラ」ですが、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」から「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」が発表されており、ここでパワハラ概念の整理がされています。

【パワハラの概念】

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

パワハラの構成要素

パワハラ概念を分解して整理すると、次の3つの要素から成り立っています。

①優位性を背景に行われること

「当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶できない蓋然性が高い関係に基づいて行われること」
・職務上の地位が上の者による行為
・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

②業務の適正な範囲を超えて行われること

「社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上必要性のない、またはその態様が相当でないものであること」
・業務上明らかに必要性のない行為
・業務上の目的を大きく逸脱し、手段として不適当な行為
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為

③身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、就業環境を害すること

「身体的もしくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」

パワハラの行為類型

より具体的にパワハラとなり得る行為類型を整理すると、次のようなものが挙げられます。もちろんこれは一つの類型ですので、パワハラとして問題となる行為はこれに限られません。
  
イ)身体的な攻撃
暴行、傷害
ロ)精神的な攻撃
脅迫、名誉棄損、侮辱、暴言
ハ)人間関係からの切り離し
隔離、仲間外し、無視
ニ)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
ホ)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
ヘ)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること


 

当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。

実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー

関連記事はこちら

労働コラムの最新記事