有期契約社員の雇止め-契約社員から雇止めが不当だと主張されないために
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
本記事で書かれている内容
有期契約社員とその保護
有期契約社員(有期契約労働者)とは、期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいい、その呼称や形態には契約社員、期間社員、嘱託、日雇い、アルバイト、パートなど様々なものがあります。
期間の定めがありますので、有期契約社員の労働契約は期間の満了により終了するのが原則です。もっとも、こうした有期契約社員は、短期間の需要のために短期間の契約期間が定められるというばかりではなく、継続的・恒常的な需要においても、雇用調整の容易さから利用されている場合があります。こうした社会的状況において、労働者の雇用の安定が阻害され、その保護を図る必要があるとの問題意識が生まれることとなり、数多くの裁判をとおしていわゆる「雇止め法理」が形成されていきました。この労働者保護法理としての雇止め法理は労働契約法によって明文化されるに至っています。
したがって、経営者・使用者としては、有期労働契約によって雇用を行う場合には、この「雇止め法理」を理解したうえで、その採用・更新・雇止めを行う必要があります。
有期労働契約締結の自由
有期労働契約の締結は自由であり、その目的や理由は何ら限定されていません。臨時的な業務、一時休業者の代替といった臨時的・一時的な需要に対応するものに限らず、従事する業務の内容が恒常的な業務であることも許されます。有期労働契約も雇用の形態としては使用者・労働者双方にとって需要があるものであり、それ自体は有益な選択肢だと言えます。ただ、あまりにもその自由を放任すると労働者の地位の不安定を招くため、その保護を図るべく、出口としての「雇止め」に法規制がかけられています。
有期労働契約を規制する「雇止め法理」
本来は自由であるはずの雇用契約期間満了による労働契約の終了(更新拒否、雇止め)に対し、労働者保護の観点から法が介入するのが「雇止め法理」です。この雇止め法理は労働契約法19条に定められています。
労働契約法19条
第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
この労契法19条に抵触する場合には、有期契約社員の更新拒否・雇止めは違法なものとなり、契約が更新されたのと同様の法律関係(従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働契約が存続する)となります。
雇止め法理❶-実質無期契約型
労契法19条は、1号と2号に分けて雇止め法理を規定していますが、1号に規定されているものが「実質無期契約型」と言われるものです。
これは、業務の客観的内容、当事者の主観的態様、更新手続の態様などの諸般の事情から、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると同視できる場合に、客観的合理性・社会的相当性を欠く更新拒絶(雇止め)を認めないとするものです。
例えば、期間2か月の有期労働契約を20回反復更新し、長期間にわたって継続雇用していたような場合には、期間の定めのない契約と実質的に異ならないと評価され得ることになり、労契法19条第1号が適用される可能性があります。
【名古屋高判平成29年5月18日-Jレンタカー事件】
判旨
①22年以上もの間、6か月ごと又は2か月ごとに有期労働契約の更新を繰り返していたこと、②業務内容は6か月あるいは2か月で終了するような期限が決められた業務ではなく、勤務時間帯が夜間であるというだけで正社員とそれほど変わらない業務内容であったこと、③雇用されていた間、会社から意に反して雇止めにされた従業員はいなかったこと、④更新手続は形骸化しており、雇用期間満了後に更新手続が行われることもあったこと等の事情から、有期労働契約は期間の定めのない労働契約とほぼ同視できるものであったとし、雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないと判断
雇止め法理❷‐期待保護型
労契法19条第2号に定められているものが「期待保護型」と言われるものです。
これは、業務内容の恒常性や当事者間の言動・認識などから、労働者の側に雇用継続への合理的な期待が認められる場合に、客観的合理性・社会的相当性を欠く更新拒絶(雇止め)を認めないとするものです。
例えば、特に支障がない限り契約期間満了後も契約更新を前提に協議するという約束のもとに1年の有期労働契約を締結したような場合や、更新手続が形骸化し過去に使用者から更新拒否された例がまったくない中で1年の有期労働契約を締結したような場合には、有期労働契約の期間満了時に契約更新を期待することに合理性が認められ得ることになり、労契法19条第2号が適用される可能性があります。
【大阪高判平成3年1月16日-Rタクシー事件】
判旨
①臨時雇運転手の雇用期間について、取り交わされる契約書上は1年の期間が定められているものの、臨時雇運転手制度の導入以降、自己都合による退職者を除いては例外なく雇用契約が更新(再契約)されてきており、契約の更新を拒絶した事例はないこと、②雇用契約の更新の際には、改めて契約書が取り交わされているものの、必ずしも契約期間満了の都度直ちに新契約締結の手続をとっていたわけでもなく、契約書上の更新(再契約)の日付が数か月も後日にずれ込んだ事例も存在すること、③運転手らは自動的に契約を更新されていると聞知していて、当然契約が更新され継続して雇用されるものと思って稼働してきたなどの事情から、契約期間満了後も当該従業員が雇用を継続するものと期待することに合理性を肯認することができるとして、雇止めは認められないと判断
労働条件変更の提案と更新拒否
有期契約社員について雇用の継続自体は検討しているものの、企業として労働時間・賃金その他の労働条件の変更を望む場合があります。有期契約社員が労働条件の変更に同意するのであれば更新を行い、そうでない場合は更新拒否(雇止め)を行うというものです。
契約の更新は当事者双方の合意があってはじめて成立することが原則ですので、労働条件について合意ができない場合は、有期労働契約は更新されることなく期間満了により終了するのが原則です。
ただ、この場合も労契法19条の規制が及ぶことには変わりはありません。そのため、雇用継続への合理的期待が生じているような場合などには、労働条件変更提案を拒否した有期契約社員に対する更新拒否(雇止め)が認められない可能性が出てきます。
ここで大事なことは、労働条件の変更提案は、労働条件変更の必要性、変更の内容・不利益の程度、変更手続きの内容・程度などの観点から、更新拒否(雇止め)の客観的合理性・社会的相当性判断の考慮要素の一つとなるということです。有期契約社員が持つ更新継続への合理的期待を上回る合理的理由と社会的相当性が認められる限り、更新拒否(雇止め)は認められますので、労働条件変更提案それ自体にも、合理的理由と社会的相当性を備える必要があります。
雇止め法理の適用は個別具体的な検討が不可欠
雇止め法理は、①実質無期契約型、②期待保護型に類型化され、労働契約法によって明文化されているものですが、どのような更新拒否(雇止め)がそれらに該当するかということは必ずしも明らかではありません。更新回数や勤続年数などは重要な指標の一つですが、まだ一度も更新がされていない有期契約社員についても、更新期待への合理的な理由があるとして雇止めが違法とされた事例もあります。
したがって、業務内容が臨時的・季節的なものであることが明確な場合や、期間満了による契約終了について明確な合意がなされているなどの場合は別ですが、業務内容が企業活動上恒常的なものであり、景気変動に対応した雇用調整の手段として用いる趣旨を含んでいるような場合には、有期契約社員の雇止めは、個別具体的な検討のもと行うことが必要であるといえます。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、有期契約社員の雇止めについて説明させていただきました。有期契約社員については、それを文字通り受け止めて、期間満了によっていつでも雇止めができると考えている企業も多く見受けられますが、労働契約法によって重大な規制がかけられていることには注意が必要です。具体的な判断は個別事情ごとに異なってきますが、だからこそより一層、当該法規制を踏まえて対応を検討する必要があり、使用者が予期しない、あるいは意図しない紛争が生じないよう注意しながら有期契約社員の採用・更新・雇止め等の運用を行っていく必要があります。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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