無期転換ルールへの対応-有期契約社員の更新、雇止めと就業規則の改定
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、問題社員への対応方法をご提案するとともに、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。問題社員対応や解雇無効の問題等でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
無期転換ルールとは
無期転換ルールとは、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間が通算で5年を超えた労働者には、使用者に対し無期労働契約の申込みをする権利(無期転換申込権)が発生するというものです(労働契約法18条1項)。労働者が使用者に対して無期転換申込権を行使したときは、使用者は労働者の申込みを承諾したものとみなされます。つまり、労働者の申込みによって、有期労働契約が無期労働契約に転換することになります。
企業にとって柔軟な雇用形態の一つである「有期労働契約」が「無期労働契約」に変わることの意味は大きく、企業は無期転換ルールを押さえたうえで自社に合った雇用形態を整備していく必要があります。
なお、無期転換ルールは、改正労働契約法が施行された平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約について適用されます。
無期転換ルールが定められた趣旨
無期転換ルールは、有期契約にある労働者の雇用の安定を図り、また常用的雇用への有期労働契約の安易な利用の抑制を図るために、平成24年の労働契約法の改正によって新たに定められたルールです。有期契約の労働者は、雇止めの不安があることにより年次有給休暇の取得が抑制される一方で、短期の契約の反復更新を重ねるなど常用雇用と同じように働きながらも正社員よりも処遇が低く、しかもまっさきに雇用調整されるなどその雇用の不安定さや待遇面が問題とされていました。2000年代前半から有期労働契約に関するルールの策定が進められ、2008年のリーマンショック後の不況で有期契約社員の雇止めが相次ぐとその議論が加速されました。なお、重要な有期労働契約に関するルールには、無期転換ルールのほかに、①雇止め法理(労契法19条)、②不合理な労働条件の禁止(労契法20条)があります。
労働契約法18条1項
「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。」
無期転換権の発生
無期転換権が発生する要件は、次の3つです。
①同一の使用者との間の2以上の有期労働契約
②通算雇用期間が5年を超えること
③行使の時点で同一の使用者との間で契約していること
①同一の使用者との間の2以上の有期労働契約
同一の使用者
「使用者」とは労働契約の当事者としての事業主(個人又は法人)を指し、同一の使用者か否かは事業場単位ではなく事業主単位で判定します。
なお、下請会社に有期雇用されていた労働者を受注先(元請会社)が有期雇用する場合や、派遣元会社に有期雇用されていた労働者が派遣先会社に有期雇用されるような場合には、同一の使用者に雇用されたとはいえません。
2以上の有期労働契約
無期転換権は、有期労働契約が1回以上更新されている場合に発生します。なお、有期労働契約の期間は、労働基準法14条1項によって原則3年が上限とされており、専門的知識等を有する場合には特例で期間の上限が5年となっています。
また、2以上の有期労働契約は、異なる内容の契約であってもカウントされます。無期転換ルールは、労働契約が「有期」であることに着目して導入されたものですので、たとえ労働条件や期間の長さなどの契約内容が異なっていたとしても、それぞれの契約が有期であれば「2以上の有期労働契約」として通算されることになります。
②通算雇用期間が5年を超えること
通算して5年を超えること
2以上の有期労働契約を通算した雇用期間が5年を超えることが無期転換権発生の要件です。5年を「超える」ことが必要ですから、通算契約期間が5年ちょうどである場合には無期転換権は発生しません。
無期転換権は、通算契約期間が5年を超えた場合に、その通算契約期間が5年を超えることになる更新をした時点で発生します。そして労働者は、発生した無期転換申込権を、現に締結している有期労働契約の契約期間の満了までに行使することになります。
クーリング期間
労働契約法18条2項は、一の有期労働契約と次の有期労働契約の間に労働契約が存在しない空白期間を置いた場合に契約期間が通算されないことになるクーリング期間を設けています。一の有期労働契約の期間が満了した後にクーリング期間を置いた場合には、同一の使用者と再び有期雇用契約を締結しても前の契約の期間は通算されず、新たに契約期間の通算がはじまります。
イ)空白期間の前の有期労働契約の長さが1年以上の場合
クーリング期間は、6か月となります。
ロ) 空白期間の前の有期労働契約の長さが1年未満の場合
クーリング期間は、空白期間の前にある通算契約期間に2分の1を乗じて得た月数となります。
③行使の時点で同一の使用者との間で契約していること
無期転換権の行使には、無期転換申込権行使の時点において、通算で5年を超えて契約を継続してきた使用者との間で有期労働契約を締結していることが必要です。労働者は、無期転換権が発生したにもかかわらず、その有期労働契約の契約期間の満了までに無期転換権を行使しなければ、無期転換権は消滅することになります。
無期転換社員と就業規則
無期転換後の労働条件
無期転換権の行使によって有期労働契約が無期労働契約に転換された従業員の労働条件は、別段の定めがある場合を除き、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一のものとなります(労契法18条1項2文)。
「別段の定め」は、労働協約、就業規則、個別労働契約にいずれによっても可能ですが、個別の合意によって労働条件を定める場合、就業規則より不利な内容は就業規則の最低基準効(労契法12条)により効力が認められませんので注意が必要です。
無期転換社員に適用される就業規則
無期転換後に適用される就業規則が整備されていない場合には、無期転換社員の労働条件は現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一のものとなります。このとき、「契約社員就業規則」や「パート社員就業規則」など社員区分に応じて就業規則が整備されている企業において、無期転換権の行使によって単純に「有期から無期へ」雇用期間についてのみ変化したという場合は、従来どおり契約社員就業規則やパート社員就業規則などが適用されることになります。
この場合に問題となるのは、こうした契約社員就業規則やパート社員就業規則があくまで「有期雇用」を前提とした定めとなっており、「無期雇用」を想定して作られていない場合がほとんどだということです。たとえば、「定年」についての定めを置いていない場合、無期転換社員には定年がないということになります。また、有期契約社員の場合、契約期間途中の解雇は非常に困難(労契法17条1項参照)であることも相まって、契約を終了させるときは期間満了によることが通常です。そのため、解雇に関する規定がしっかりとされていないこともあり、あるいは服務規律や懲戒の規定についても不十分な場合も多いように思います。
無期転換社員に正社員就業規則が適用されるおそれも
正社員就業規則の定め方によっては、無期転換社員にも正社員就業規則が適用されてしまう可能性があります。「正社員」は法律用語ではありません。各企業によって定義はバラバラです。たとえば、正社員の定義を「会社と雇用契約を締結した者のうち、雇用期間の定めのない者をいう」と規定していた場合、無期転換社員もこの定義に該当し、文字どおりに解釈すれば正社員にあたることになります。正社員となれば、これに付随する賃金規定等も同様に適用され、これまでなかった定期昇給や退職金の支給等が必要となるかもしれません。このように直接的に定義に該当する場合だけでなく、解釈の余地を残すような曖昧な規定の場合、無期転換した労働者から自分たちも正社員の就業規則が適用されると主張されるおそれがあります。
就業規則の見直しをしていない企業は早急な対応が必要
効率的な事業経営を行うためには、雇用関係は画一的・統一的なルールに基づき規律されることが不可欠ですので、無期契約化した社員に対しても就業規則が持つ重要性は他の従業員と異なりません。上記のとおり、無期転換社員に従前の就業規則をそのまま適用させ、あるいは曖昧なまま放置した結果正社員就業規則が適用される可能性を残しておくことは、企業にとって不測の事態を招くことになります。
したがって、各企業においては、無期転換後の処遇・労働条件を明確にした就業規則を整備しておく必要が切にあるといえるでしょう。
企業がとるべき無期転換ルールへの対応
1. 現状把握
自社で雇用する有期契約社員について、更新回数や勤続年数等の現状を把握し、無期転換権がいつ誰に発生するのかを調査します。
契約社員、パート、アルバイト、嘱託社員等の名称を問わず、期間の定めのある雇用契約を締結している従業員が無期転換ルールの対象となります。
2. 就業規則の確認
有期契約社員や正社員の就業規則を確認し、無期転換社員への適用について問題となる事項を把握します。
3. 無期転換ルールの新設
有期契約社員の就業規則に、法律で定められている無期転換ルールを自社で運用するための規定を新設します。
4. 就業規則の整備
無期転換社員に適用する就業規則を整備します。
有期契約社員の就業規則を一部修正してこれを適用しても良いですが、有期契約社員と無期転換社員との区別を明確にするため、できれば新たに無期転換社員用の就業規則を整備したいところです。
社員区分の再編成-多様な働き方で活力を
同一労働同一賃金と無期転換社員
長期雇用が前提となる無期労働者について、有期契約社員と同様に昇給・昇格がほとんどなく、仕事に対する評価もほとんどなされないというのであれば、業務を意欲的に行い、生産性を向上させようというモチベーションが生まれにくくなる危険性があります。有期契約社員であれば、意欲を欠き業務遂行能力が低いままの社員は期間満了による雇止めをすることができますが、無期転換社員はそのような対応をすることができません。意欲と業務遂行能力の欠如のみで直ちに解雇することが実際上困難なことを考えれば、企業としては出来る限り無期転換社員が十分な意欲と能力を発揮できる環境を整えることが望ましいといえます。
もっとも、労働契約法20条は期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止しています。これは、同一の使用者のもとでの有期契約労働者と無期契約労働者間の労働条件の相違が、労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して不合理なものと認められる場合には、当該労働条件を定めた就業規則、個別労働契約等の定めを無効とするものです。
同条の無期契約労働者には無期転換社員も含まれますので、有期契約社員と同じ仕事をさせている無期転換社員の処遇を有期契約社員より優遇すると、労働契約法20条に違反する可能性があります。したがって、無期転換社員の労働条件を有期契約社員よりも大幅に引き上げることは困難となります。
限定正社員や正社員への移行
そこで、無期転換社員については、将来的に限定正社員や正社員となれる登用制度を設けることも検討に値するものと考えます。有期労働契約を更新し、「無期」での雇用を認めたのであれば、「無期」に相応する有期契約社員とは異なる業務や責任を与え、また、有期契約社員とは異なる賃金、賞与、退職金等を設けることも検討し、無期転換社員がより一層自社で活躍できるような制度を整えていくことは企業にとって大きなプラスとなるのではないでしょうか。従来、正規・非正規に二極化されていた社員区分を全体的に見直して、多様な働き方や処遇を制度化することは生産性向上への一つの取組みとなるものと思います。
労務管理には専門家の支援を
ここでは、無期転換ルールの内容と企業がとるべき対応について述べさせていただきました。具体的な就業規則の定め方等については、各種法規制等を踏まえて内容を検討する必要があり、使用者が予期しない、あるいは意図しないトラブルが発生しないよう注意しながら就業規則の整備や運用等を進めていく必要があります。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば未払賃金等の大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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