メンタルヘルス不調社員対応のポイント

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、企業の経営者側に寄り添って、メンタルヘルス・ハラスメントなど各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことが可能です。メンタルヘルス・ハラスメントでお困りの会社様は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

欠勤と休職との区別を明確にする


メンタルヘルス不調を理由に出社できない従業員について、その不就労が、欠勤なのか、それとも休職なのかを明確にすることは、メンタルヘルス対応の基本的出発点であるといえます。

「休職」とは、ある従業員について、病気その他を理由に労務へ従事させることが適切でない又は不能な場合に、労働契約を存続させつつ労務への従事を免除ないし禁止することをいいます。一般的な例としては、病気による欠勤が一定期間続いた場合に、長期欠勤を理由に直ちに解雇するのではなく、休職期間を設けて回復を待つという解雇猶予としての意味を持っています。メンタルヘルスに不調をきたし、うつ病などの精神障害を発病して長期療養を要する社員についても、この休職制度による対応を行うことになります。

休職制度は解雇猶予として機能していますから、休職制度があるにもかかわらずこれを適切に運用していなければ、その後に行うべき解雇の有効性に重大な疑義が生じかねません。休職制度は就業規則によって定められていることが多いですが、そのほとんどは使用者による一方的意思表示(命令)によって休職になると定められているのが通例です。そのため、欠勤と休職との境目を明確にするためには、「休職命令書」などによって使用者による意思表示を客観化しておくことが大切になります。

【就業規則規定例】

第●●条(休職)
1 社員が次の各号に該当するときには、休職を命ずることがある。
①業務外の傷病により30日以上欠勤があるとき
②精神又は身体上の疾患により労務提供が不完全なとき
③・・・
④・・・
2 社員は、会社が休職の要否を判断するため、その健康状態を記した診断書を提出しなければならない。
3 ・・・・・

主治医への診断書作成依頼

復職の可否を判断するに当たっては、主治医の診断書を無視することはできません。復職の可否、あるいは復職の方法の決定は、主治医の意見に適うように行うことが必要です。裁判所は、基本的に「専門家」と呼ばれる人達の意見を尊重する傾向にありますので、専門家の最たるものである「医師」の意見を否定することは至難の業といえるでしょう。そのため、会社側としては、会社の基準にのっとって復職が可能かどうかを判断できる診断書を作成してもらうことが非常に重要となります。単に「復職は可能。ただし、負荷の軽減を要する。」などと書かれても、本当に復職させて大丈夫なのか、どのような業務に従事させたらいいのか、本人の意欲はどうなのかなど、ほとんど何も分からないまま判断を強いられることになりかねません。

医師の側も悪意があるわけではなく、復職判断のための法的観点を意識した「診断書」の書き方を知らないだけであることも多いのが実情です。そこで、会社としては、診断書への具体的記載事項を「お願い書」「案内書」などを作成して医師の先生に依頼することが大切です。

【診断書作成依頼例】

主治医の先生へ-復職判断のための診断書を作成いただくにあたってのお願い
1 弊社における復職の判断基準について
休職中の社員が弊社の業務に復職するためには、原則として次の各要件を満たすことが必要と考えております。
①本人に十分な意欲があること
②1日8時間、週5日の所定労働時間の勤務が可能であること
③・・・・・
④・・・・・

2 診断書への要記載事項
上記判断基準の項目ごとに診断結果をご記載いただくとともに、次の各事項についてもご記載いただきますようお願いいたします。
①再発防止のための注意事項
②・・・・・
③・・・・・

3 情報提供依頼

4 ・・・・・

リハビリ出勤制度

メンタルヘルス不調で会社を長期休職していた社員に対しては、2週間程度のリハビリ出勤や試し出社を認め、復職の可否をそれに基づいて判断したり、あるいはスムーズな職場復帰を実現するための支援として行うこともあります。これを行うにあたっては、「リハビリ出勤」の意味や内容、期間や給与の有無について事前に書面で明確にしておくことが大切です。

復職の判断-復職後の業務内容

休職の理由となっている傷病が「治癒」すれば復職となりますが、どの程度まで回復すれば「治癒」したといえるのか復職後は軽減業務に就かせるべきなのか、ということがしばしば問題となります。使用者としては、「従前の業務を通常の程度に行える健康状態に回復したこと」をもって復職の条件としたいところですが、必ずしもそのような判断基準に合理性が認められるとは限りません。

現在の大勢としては、労働者が本来の業務に就く程度には回復していなくとも、配置可能な他の業務について労務を提供できるのであれば、使用者は可能な限りそうした軽減業務に就かせるべきだと考えられています。従前の業務以外に配置可能な業務の有無を検討せず、軽減業務への就労の機会を与えることなく解雇を行った場合には、解雇権濫用として当該解雇は無効となる可能性があります。これもメンバーシップ型の日本型雇用システムの一つの帰結といえるかもしれません。

参考①

労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、使用者に対し労働者への安全配慮義務を課しています。そして、この「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれます(平成20年1月23日付「労働契約法の施行について」)。

また、メンタル面で不調に陥る労働者が増加してきたことを背景に、メンタルヘルス不調の未然防止のために「ストレスチェック制度」の実施が使用者に課せられています(労働安全衛生法66条の10)。こうした法規制の傾向にも表れているように、うつ病などの精神疾患によって休職した従業員に対しても、従業員の健康に配慮した復帰支援を行うなど、企業側には相応の配慮が期待されていると考えられます。

参考②:片山組事件(最判平成10年4月9日)

同判決は、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にできないとしても、・・・当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である」と判示しています。


 

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