退職金の減額・没収・不支給

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退職金の減額・没収・不支給

懲戒解雇事由にあたるほどの企業秩序違反行為をした社員に対して、高額に上る退職金を支給したくないと考える経営者の方は多いのではないでしょうか。会社に損害を与えたことに対し、それを賠償させるという意味合いもあるかもしれません。あるいは、同業他社への転職を防ぐため、競合会社へ転職した場合には「退職金を没収する」などと就業規則に規定する例もあります。ここでは、企業が従業員の退職金を減額・没収あるいは支給しない取扱いをする場合の留意点について見ていきます。

退職金の不支給条項を置いておく

賃金は労働契約の最も基本的な要素であり、その額・基準・支払方法などは原則として労働者と使用者の合意によって定めることができます。退職金(退職手当)も、一般に「賃金の後払い」としての性格が強く、賃金の一つといえます。
  
そのため、懲戒解雇に伴い退職金を全部または一部不支給とする扱いは、賃金規定・退職金規定などにその旨明記して労働契約の内容とすれば、これを行うことが可能です。逆に言えば、このような退職金不支給規定を置いておかないと、悪質な事由によって懲戒解雇に処せられた従業員にも退職金を原則として支給しなければなりませんので、注意が必要です。

懲戒解雇に伴う退職金不支給の相当性

もっとも、退職金が賃金の後払い的な性格を有するということは、従業員には既に勤務した期間に応じた退職金を受領することへの期待が生じています。また、一般に退職金には従業員の退職後の生活保障という意味合いもあります。そのため、被懲戒者へ退職金不支給規定を適用するためには、相当の合理的理由が必要であり、労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)ないし減殺(一部不支給の場合)してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合にはじめて有効となると考えられます。

【小田急電鉄事件-東京高判平成15年12月11日】

■鉄道会社の従業員が,痴漢行為を行ったことを理由に懲戒解雇され,さらに退職金不支給条項(「懲戒解雇により退職するもの・・・には・・・退職金を支給しない」)により退職金全額が不支給とされた事件。なお、従業員の20年間の勤務態度は真面目。
  
■裁判所は、「賃金の後払い的要素の強い退職金について,その退職金全額を不支給とするには,それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である」「ことに,それが,業務上の横領や背任など,会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には,・・・上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である」と述べて、退職金全額不支給を無効とし、退職金3割の支払いを命じた。

退職後の競業避止義務

自社のノウハウを積んだ社員が同業他社へ転職することは、経営者としては何としても防ぎたい事項の一つではないかと思います。会社によっては、ある特別な技術を持った従業員が同業他社へ移ってしまえばたちまち経営危機に陥りかねないという場合もあります。そうした事態を防ぐため、一般的に就業規則あるいは誓約書などで、次のような定めを結ぶことが多く行われます。
  
「第〇条 社員は、退職後○か月の間、〇〇県内において、次の行為を行わないことを誓約する。
(1)会社と競業関係に立つ事業を自ら開業し、または設立すること
(2)会社と競合関係に立つ事業又はその提携先企業に就職すること」
  
こうした定めによって社員に競業避止義務を課し、会社の利益を守ることは非常に大切です。従業員がこの義務に違反した場合には損害賠償請求をすることが可能ですので抑止力もあるといえるでしょう。
  
もっとも、競業避止義務に違反した従業員の責任追及にあたり、損害を立証することは簡単ではありません。同従業員が同業他社に就職したことによっていったいどれだけの売上減があったのか、経済動向等ほかの要因は関係していないのかなど、細かな分析が必要となります。
  
そこで、競業避止義務への誓約履行をより確実なものとし、万一違反した場合には現実的な制裁・損害の填補を図るため、退職金の減額・没収を行うことが考えられます。

退職金の減額・没収

競業避止義務違反の社員について、その退職金を減額あるいは没収するためには、懲戒解雇の場合と同様に、就業規則(賃金規定・退職金規定など)において、その旨明記しておくことが必要です。
  
また、退職金の賃金後払い的な性格から、やはりこれを有効に適用するためには合理的な理由と相当性が必要となります。
  
具体的には、あまりに長期間にわたり競業避止義務を課すことは、職業選択の自由の観点から合理性を認めることは困難で、ある程度期間を限定する必要があるでしょう。競業避止義務を追うエリアについても同様です。退職従業員の職務内容や地位などに応じ、会社が被る営業上の打撃の程度も一つの考慮要素になり得ます。退職の経緯などによっては従業員に重大な背信性が認められ、そうした事由は退職金の没収を肯定する合理的な理由の一つとなり得るでしょう。

【三晃社事件‐最判昭和52年8月9日】

■広告代理店の営業社員が同業他社へ転職した事案において、退職手当の2分の1のみを支給するとの就業規則の定めを有効と判断

【中部日本広告社事件‐名古屋高判平成2年8月31日】

■退職後6か月以内に同業他社へ就職した場合は退職金を支給しないとの就業規則の規定について、同規定は顕著な背信性のある競業についてのみ適用されると限定解釈し、その適用を否定


 

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