派遣契約の終了と派遣労働者の処遇
虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。派遣業の皆さまでお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。
労働者派遣契約と中途解約
労働者派遣事業を行う派遣会社は、労働者派遣を希望する派遣先企業との間で労働者派遣契約を締結し、同派遣契約の内容に従って自社が雇用する派遣労働者を派遣先企業にて就労させます。
派遣契約上派遣期間についても定められますが、経営状況の変化等派遣先企業の都合によって契約期間の中途で派遣契約が解除される場合があります。このような場合に、派遣元企業である派遣会社としては、雇用する派遣労働者をどのように処遇すればよいかという問題にぶつかります。このとき、対応方法を誤ると、派遣労働者との間で思わぬ労務トラブルが起こりかねませんので注意が必要です。
有期雇用派遣労働者の場合
有期雇用派遣労働者
有期雇用派遣労働者は、派遣会社(派遣元)との間で期間の定めのある労働契約を締結し雇用されている労働者です。労働契約の期間は、派遣会社が派遣先企業との間で派遣契約を締結している期間に合わせて定められることが一般的で、派遣先企業との間の派遣期間の満了により労働契約も終了する形がとられます。
派遣契約が中途解約された場合の法律関係
派遣先企業との間の労働者派遣契約が中途解約された場合や、派遣先企業の求めによって派遣期間の途中で派遣労働者を交代させた場合であっても、派遣会社と派遣労働者との間の労働契約は影響を受けるものではありません。労働契約の契約期間が残存していれば、派遣会社と派遣労働者との間の労働契約は期間が満了するまで存続します。
派遣会社がとるべき措置
このような場合、派遣会社がとるべき措置としては、次の2つが考えられます。
① 他の就労先を探して派遣する
② 休業手当(労基法26条)又は賃金全額の支払い
【Hマネキン紹介所事件‐東京地判平成20年9月9日】
事案
派遣先でのトラブルを理由に派遣会社Yが派遣労働者Xに対して就労停止の告知をしたところ、派遣労働者Xは、派遣会社Yが就労を禁止したことにより就労できない状態になったとして、労務提供の反対給付である賃金請求権は失われていないことを理由に賃金の支払い等の請求をした事案
判旨
・本件雇用契約は、何らかの事情でXが派遣先店舗Zで働くことができなくなった場合に、他の派遣先では一切働かせないというものではなく、Yに他の新たな派遣就労先の提供を義務づけるものであったといえるから、派遣就労先を店舗Zに限定したものではないというのが相当である。
・そうすると、Yによる就労停止の告知によってXが店舗Zで就労しなくなったとしても、Yに新たな派遣就労先を探す債務が生じるに過ぎない。
・Xが就労停止告知後に労務を提供できなかったのは、使用者であるYの責めに帰すべき事由によるものであるということができるから、労務提供の反対給付である賃金請求権を失わない。
派遣先企業の責務
発注者である派遣先企業も、無責任に労働者派遣契約を中途解約できるわけではありません。
労働者派遣の役務の提供を受ける派遣先企業は、自らの都合により労働者派遣契約を解除する場合には、派遣労働者の新たな就業機会の確保、休業手当等の支払いに要する費用の負担その他派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じることが義務付けられています(労働者派遣法29条の2)。
派遣労働者の雇用の維持又は安定を損ねる態様での不当な労働者派遣契約の中途解約のケースでは、派遣先企業が損害賠償義務を負う可能性もあります。
【Pエコシステムズ事件‐名古屋高判平成24年2月10日】
事案
派遣先企業における業務が労働者派遣法に違反する偽装請負であったところ、派遣先企業から一方的に雇止めされた派遣労働者らが、派遣先企業に対し、損害賠償(慰謝料)の支払い等を求めた事案
判旨
・派遣先企業の派遣労働者に対する一方的雇止めという仕打ちは、自らの落ち度によって生じた違法派遣状態を何らの落ち度もない派遣労働者に一方的に不利益を負わせることによって解消しようとする恣意的なもの
・就労開始当初からの違法派遣状態を経て突然の派遣切りに至った経緯について何らの説明もせず、道義上の説明責任を何ら果たそうとしなかったことは、派遣先企業が法的に雇主の立場にないとはいえ、派遣先として著しく信義にもとる対応
・派遣先企業の信義則違反の不法行為が成立し、派遣先企業は派遣労働者に慰謝料の支払い義務を負う
無期雇用派遣労働者の場合
無期雇用派遣労働者は、派遣会社(派遣元)に期間の定めなく雇用されている労働者です。したがって、その対応は、いわゆる正社員(無期雇用社員)と同様となります。
派遣契約終了後に新たな派遣先が見つからないことを理由とした解雇
新たな派遣先が見つからないということのみでは、無期契約社員を解雇することはできません。この場合、整理解雇法理が適用され、次の各要件を勘案して解雇の可否を判断することが必要です。
① 人員削減の必要性
② 解雇回避努力義務
③ 人選の合理性
④ 手続きの妥当性
派遣先候補が見つかっているにもかかわらず派遣労働者が就労を拒否している場合の対応
雇用する労働者の就労場所を指定することは、人事権の一内容として使用者側にその権限が帰属しているといえます。したがって、労働契約の内容にもよりますが、職種の限定や地域の限定等がなされていない限り、使用者は、その雇用する派遣労働者に対し、業務上の必要性に応じ派遣先候補企業において就労すべきことを命令することが可能です。
これに応じない場合は、業務命令違反ととらえて、懲戒処分又は人事上の処分を行っていくことになります。
【Lサービス事件‐名古屋高判平成19年11月16日】
事案
労働者派遣事業を行うY社に派遣労働者として雇用されていたXが、雇止めと称してY社に解雇されたことに対し、同解雇が解雇権の濫用に該当するとして、労働契約上の地位の確認及び未払い賃金等の請求をした事案
Y社は、派遣先企業であるZ社がXの派遣受入れを拒否したため、別の派遣先としてA社での就労を打診したものの、Xがこれを拒否したことにより派遣先がなくなり、やむを得ず解雇したと主張
判旨
・派遣先であるZ社がXの受け入れを拒否したというだけでは、客観的に合理的な解雇の理由があるとはいえない。けだし、本件雇用契約は、Y社と派遣先Z社との間の派遣契約とは別個の法律関係であり、前者が後者の影響を直接受けることはないからである
・Y社は、Xに対しA社での就労を勧めた旨主張するが、証拠を総合しても、就労場所や職務内容等を具体的に特定して就労を指示したとまでは認めることができない
まとめ-派遣会社がとるべき対応
これまで見てきたとおり、派遣先との間で締結する労働者派遣契約と、派遣労働者との間で締結する労働契約は別個のものです。派遣契約の終了は、直ちに労働契約の帰趨に影響を及ぼすものではありませんので、通常の労働契約関係と同様に派遣労働者の処遇を判断することが必要となります。
雇用する派遣労働者が派遣先企業でトラブルを起こし受入れが拒否される場合や、派遣先での就労を拒否する場合などは、いわゆる「能力・適格性が欠如する社員」、「業務命令に違背する社員」といった類型別の問題社員対応が必要となります。労働者派遣事業を行う派遣会社であっても派遣労働者との関係が労働契約に基づくことは他の一般企業と変わりはありません。労働法規に従いながら適切な対応をとることで、トラブルを未然に防ぎ、あるいは生じたトラブルを最小限のコストで収束させることが可能となります。【問題社員対応の詳細はこちら】
労務管理には専門家の支援を
ここでは、労働者派遣契約の終了と派遣労働者への対応について説明をさせていただきました。
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば労働者から訴訟を提起されるなど大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。
当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。
実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー】
岐阜県出身。中央大学法科大学院卒業。経営者側に立った経営労務に特化し、現在扱う業務のほとんどが労働法分野を中心とした企業に対する法律顧問業務で占められている。分野を経営労務と中小企業法務に絞り、業務を集中特化することで培われたノウハウ・経験知に基づく法務の力で多くの企業の皆様の成長・発展に寄与する。
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