相次ぐ技能実習認定の取消し‐外国人材受入れ企業はより一層のコンプライアンスを

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。外国人雇用の問題でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

技能実習法の施行

外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)が、平成29年11月1日から施行されています。技能実習法に基づく技能実習制度の特徴は、なんといっても不正行為に対するペナルティーが非常に重いという点です。入管法や労働関係法規等に違反して刑事処罰を受けた場合や、技能実習法による処分を受けた場合、あるいは役員等の経営者個人が刑事処罰を受けた場合など、技能実習認定の欠格・取消し対象となる事由が広範に定められています。実際に、平成29年11月に新たな技能実習制度が始まって以来、既に大手企業を含め何社もの認定取消処分がなされています。
  
認定取消処分を受ければ、外国人材の受入れを行っている企業は回復不可能な極めて深刻なダメージを受けかねません。監理団体や実習実施者である受入れ企業は、新たな技能実習制度の内容や運用方針を十分に理解するとともに、不正行為の予防及び問題事由が発生した場合にも迅速かつ的確な対応が取れるよう、労働関係法令、技能実習法等の関係法規に通じた弁護士等の専門家から継続的に助言・指導を受けられる体制を構築しておくことが必要不可欠です。

不正行為に対する厳罰化の背景

技能実習制度の建前と現実

技能実習制度の目的・趣旨は、先進国たる日本から発展途上国への技能等の移転による国際協力にありますが、現実には日本人の採用が難しい産業における人手不足解消のための労働力を確保するシステムとして技能実習制度は機能しています。実習生が特に多いのは、食品製造、機械・金属、建設、農業、繊維・衣服などの第一次及び第二次産業です。技能実習生は、母国への技術移転の担い手であると同時に、日本の産業の現場を支える大切な存在であるといえます。

法令違反の横行

この技能実習制度で常に問題視されてきたのが、劣悪な労働環境です。長時間労働、最低賃金違反、残業代の不払い、労働条件の不明示、就業規則の不整備、安全衛生基準を下回る職場環境などの労働関係法令違反が認められる企業は、厚生労働省の発表によれば、2017年においては、監督指導実施対象事業場の実に7割に及びます。一部の悪質な企業を除けば、真面目に経営をされ実習生を大切にされている経営者の方がほとんどだと思いますが、法令への理解や知識不足から法違反状態が生じてしまっているのが実態です。

制度の適正化

2015年の第5次出入国管理基本計画では、技能実習制度の問題点について「制度本来の趣旨に沿った運用が徹底されているとは言い難い現状」であることが認識されており、実習生をめぐる様々な人権侵害や労働法令違反への対処が重要な課題として挙げられました。
  
こうして成立したのが技能実習法であり、その正式名称に「技能実習生の保護」という言葉が盛り込まれ、また目的規定(同法1条)にも「技能実習生の保護」がうたわれていることからも、法の指向する方向性が見て取れます。規制を強化し、不正行為に対しては厳しい処分をすることにより、技能実習制度の適正化が図られます。

実習認定の取消し

主務大臣は、実習実施者において実習認定の取消事由に該当するときは、実習認定(技能実習計画が適当である旨の認定)を取り消すことができます(技能実習法16条1項)。取消事由は広範にわたります。技能実習生等の外国人材の受入企業は、規定の内容をしっかりと確認するとともに、法違反の予防及び問題発生時に対処できる体制を整備することが不可欠です。

認定取消しを受けた場合の不利益

① 在籍するすべての技能実習生について実習を継続することができなくなる
② 取消しの日から5年間は新たな技能実習計画の認定が受けられなくなる
③ 認定の取消しを受けたことが公示される(社会一般への周知)

実習認定取消事由

① 認定計画に従った技能実習の不実施(技能実習法16条1項1号)
② 認定基準への不適合(同2号)
③ 認定欠格事由該当(同3号)
④ 報告徴収等違反等(同4号)
⑤ 機構による事務違反等(同5号)
⑥ 改善命令違反(同6号)
⑦ 出入国・労働法令に関する不正・著しく不当な行為(同7号)

認定欠格事由

取消事由の一つに認定欠格事由への該当(技能実習法16条1項3号)が定められています。この認定欠格事由は次のとおりです(同法第10条)。
① 禁固以上の刑(同1号)
② 技能実習法等の法律違反による罰金刑(同2号)
③ 暴力団対策法、刑法等違反による罰金刑(同3号)
④ 行政刑罰法令違反による罰金刑(同4号)
⑤ 成年被後見人・被保佐人又は破産手続開始決定(同5号)
⑥ 実習認定の取消し(同6号)
⑦ 実習認定取消し時の役員(同7号)
⑧ 出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした者(同8号)
⑨ 暴力団員等又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(同9号)
⑩ 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者の法定代理人が法第10条第1号から第9号まで、又は第11号のいずれかに該当するもの(同10号)
⑪ 法人であって、その法人の役員のうちに法第10条第1号から第10号までのいずれかに該当する者があるもの(同11号)
⑫ 暴力団員等がその事業活動を支配する者(同12号)

相次ぐ認定取消し‐幅広い法令違反が対象に

平成29年11月1日から施行された技能実習法ですが、この2年ほどの間で11社の認定取消しがなされています。実習認定の取消しがなされた場合、その旨が公示されますが、対象企業や取消事由等は外国人技能実習機構のホームページに掲載されています。
  
認定取消しを受けた企業には三菱自動車やパナソニックなどの大手企業が含まれていたこともあり、テレビや新聞などで報道されたことを見聞きされた方もいらっしゃるのではないかと思います。三菱自動車は、岡崎市の工場で実習生に計画で記載した半自動溶接作業ではなく、部品の組み立て作業などをさせていたことが問題とされ、技能実習法第16条第1項第1号の「認定計画に従った技能実習の不実施」が取消事由とされました。
  
認定取消しがなされると、現に在籍をしている実習生について実習を継続することができなくなるため、新たな受入れ先への転籍や帰国などの対応をとらなければなりません。三菱自動車では27人もの実習生についてこうした影響を受けましたが、認定取消しは、渡航費用その他大きな負担を背負いながら日本へ来た実習生たちにとっても非常に辛い状況へと追い込む過酷な処分といえます。
  
また、認定取消しを受けた企業の中には、法人の役員が相続税法違反により懲役1年及び罰金900万円に処せられたことを理由に、技能実習法第16条第1項第3号(同法第10条第11号(同法第10条第1号))に規定する認定の取消事由に該当するとして取り消されたものがあります。技能実習制度とはほど遠い相続税法違反に起因する取消である点で、認定取消し事由の広範さを実感せざるを得ません。

技能実習実施企業は専門家による継続的な支援体制の整備を

技能実習生を受け入れている企業が認定取消処分を受ければ、その後5年間の受入れが不可能となるなど、極めて深刻な影響を被ることになります。技能実習生に限らず、パートやアルバイトを含めた自社の社員全員を対象とした労務管理をより一層徹底する必要があるほか、技能実習法への理解を深め、実施体制の確認・改善等を継続的に行っていく必要があります。
  
技能実習生の受入れや技能実習制度との関連を有する特定技能の活用を考えている企業においては、不正行為が起きないよう予防し、また万一問題が発生した際にも迅速かつ的確に対応するためにも、労務管理や技能実習法等の関係法規に精通した弁護士等の専門家による継続的な助言・支援を受け、認定取消処分に至らないよう対処できる体制を構築しておくことが不可欠といえます。


 

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