間違えると取り返しがつかない!-就業規則「賞与」の定め方

虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では、法的な視点から就業規則の作成・変更・届け出に関するご提案をするとともに、解雇や未払残業代問題、休職問題など各テーマ別ノウハウに基づいたご支援をさせていただくことも可能です。就業規則の作成・変更でお困りの会社様は、是非一度当事務所にご相談ください。

賞与の支給は会社が自由に決められる

日本の企業では、夏季と冬季の年2回賞与(ボーナス)が支給されることが多く、賞与支給時期にはネットや新聞紙上でも大企業のボーナス支給金額ランキングが報道され、車や家電製品等ではボーナス商戦が繰り広げられています。こうした日本の企業風土からすると、「企業が賞与を支給するのは当たり前」というような誤った固定観念に経営者側も労働者側も囚われている場面によく接します。
  
しかしながら、賞与は確かに賃金の一種ではありますが、それを支給するか否かは企業が本来自由に決められるものです。「支給しなければならない」賃金ではありません。この出発点を間違えてしまうと、支給できない、あるいは支給したくない状況が訪れたときに、企業は取り返しがつかない困難に直面してしまうかもしれません。

問題社員への対応にも活かせる賞与の支給方法

 懲戒処分には厳しい制限

上司の指示・命令に違反し、あるいは職務を放棄するなど職務怠慢な問題社員であっても、基本給や住居手当、通勤交通費などの各種手当を支払わないという選択を会社は取ることができません(労基法24条1項)。また、不誠実さが著しいために会社を辞めてほしいと思ったとしても、解雇などは簡単にできるものではありません。懲戒処分には減給という処分がありますが、それでも「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」(労基法91条)という制限が課せられているため、労働者に与えるダメージとしては小さく、制裁罰としては弱さを否定できないでしょう。

 企業が持つ強力な人事考課権

こうした労働基準法上の制約があるなかで、企業が容赦なく権限を振るうことができるのが、賞与の支給です。勤務成績や会社の業績はもちろんのこと、非違行為や勤務態度等を含めて賞与の支給の有無及び金額を企業は決定することができます。もちろん、ただ気に入らないから、といった恣意的な決定や差別的な取り扱いは権利の濫用となり許されませんが、諸般の事情を総合考慮して決定できるのが賞与というものであり、企業はこれを効果的に用いることが円滑な組織運営に資するといえます。
  
がんばれば賞与がいっぱいもらえる、というのは従業員のモチベーションを高めますし、逆に職務怠慢や非違行為に及べば賞与が支給されないという運用は問題行動を抑止することにもなります。
  
良くないのは、注意や指導を超えて懲戒処分を行わざるを得ないような業務命令違反等を起こした社員に対しても、賞与を満額支給するなどメリハリがないような運用をしている場合です。企業としては温情をかけたのかもしれませんが、他の真面目な社員と同額の支給では他の社員に示しがつきませんし、次に同じ問題行動を起こした際に減額支給した場合には、前回とは違う取り扱いにかえって反発される憂き目を見るかもしれません。

【福岡雙葉学園事件-最判平成19年12月18日】
 事案

私立学校に勤務する教職員であるXらが,賞与(期末勤勉手当)を一方的に減額され一部しか支払われなかったと主張して,学校法人であるYに対し期末勤勉手当の残額等の支払を求めた事案

 判旨

 期末勤勉手当の支給については、給与規程に「その都度理事会が定める金額を支給する。」との定めがあるにとどまるというのであって、具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから、前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情がうかがわれない本件においては、期末勤勉手当の請求権は、理事会が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものというべき

「支給する」と書いてしまえば支給しなければならない

 就業規則の恐ろしさ

就業規則は、書いたことが会社のルールとなり、労働者のみならず使用者をも拘束します。書き間違いは許されませんし、誤解だったと後から言い訳をすることもできません。就業規則の一部である賃金規定も同様であり、賞与の定め方を誤ると企業は窮地に陥りかねません。例えば、次のような規定の仕方をした場合、どのように考えられるでしょうか。

【就業規則(賃金規定)規定例】

第○○条(賞与)
   会社は、○○市で支給される期末手当・勤勉手当の前年度支給基準を参考に、従業員に対し賞与を支給する。
  
  公務員と同程度の賞与支給が魅力となり、地方企業であっても採用がしやすく従業員からの評価は高いかもしれませんが、こうした規定にしてしまうと会社に裁量が一切なくなってしまします。「賞与を支給する」と言い切ってしまっているために、これではどのような事情があったとしても賞与を支給しなければなりません。たとえ非違行為に及んだ問題社員であったとしても支給が義務付けられてしまいます。しかもその金額は、会社の業績等や従業員個人の勤務成績等にかかわらず公務員の支給基準に拠るとされているため、支給水準に柔軟性を欠き企業経営へのリスクは大きいといえるでしょう。
  
  「賞与は支給するもの」というある種の慣行が固定観念化していると、就業規則の定め方に特に意識を向けることはないかもしれません。平常時は業績や従業員の頑張りに応じて賞与を支給することはもちろん望ましいことです。しかしながら、「いざ問題社員への対応で困ったとき」「いざ資金繰りに困ったとき」に更なる窮地に陥らないためにも、就業規則の定め方には注意をいただきたいと思います。

 支給日在籍要件

賞与については、就業規則に支給日在籍要件を定めることが多くあります。賞与は過去の労働に対する報奨という意味にとどまらず、将来への期待を込めているという考え方から、賞与の支給日に在籍していない限りは賞与を支給しないというものです。収益分配的性格が弱く、勤労報奨的性格が強い賞与については、こうした支給日在籍要件も有効です。将来の労働への意欲向上、貢献期待という意味を込める場合には、こうした定めをしておくとよいでしょう。

労務管理には専門家の支援を

ここでは就業規則の定め方のうち「賞与」について説明をさせていただきました。就業規則の定め方はもちろん重要ですが、就業規則は定めて終わりではありません。定めた規則は適切に運用し、あるいは運用できる体制を整えてこそはじめて効力を発揮します。ひとたび裁判となれば、適切な運用がなされていない就業規則はそれを文字どおり「規則」として認めてもらえないリスクすらあり得るということも意識して、就業規則は定め方だけではなく運用面にも気を配っていただければと思います。
  
労働規制は複雑なうえに、その理解と運用を誤れば経営を揺るがしかねない大きなリスクを企業にもたらします。労務管理については、労働問題に強い弁護士や法律事務所などの労務の専門家の支援を受けながら、制度設計と運用をされることを強くお勧めいたします。真面目に経営をされている経営者の皆様が、法を「知らなかった」、あるいは「軽んじていた」がために、苦しい思いをされることが少しでもなくなるようにと願っています。


 

当事務所では、予防法務の視点から、企業様に顧問弁護士契約を推奨しております。顧問弁護士には、法務コストを軽減し、経営に専念できる環境を整えるなど、様々なメリットがあります。 詳しくは、【顧問弁護士のメリット】をご覧ください。

実際に顧問契約をご締結いただいている企業様の声はこちら【顧問先インタビュー

関連記事はこちら

労働コラムの最新記事