退職代行を使われたとき、企業はどう対応すべきか?使用者側(企業側)が知っておくべき法的対応と実務ポイント

文責:弁護士 古山 雅則

突然の「退職代行」通知にどう対応すべきか

ある日突然、

  • 「従業員○○は本日をもって退職します」
  • 「今後の連絡は退職代行業者を通してください」

という連絡が退職代行業者から届く。

近年、このような「退職代行」を利用した退職が増加しています。

弊所においても、ここ数年、企業様から「退職代行から従業員の退職通知が届いた」「退職代行業者が言っていることに従う必要があるのか」などのご相談をいただくようになりました。

経営者・人事担当者にとっては、

  • 本当に退職は成立するのか
  • 引き継ぎはどうなるのか
  • 本人に連絡していいのか
  • 損害が出た場合どうするのか

と不安になるケースも多いでしょう。

また、会社側としては、率直に会社が定める手続きを無視していることや、第三者を介した退職申出に不義理や不誠実さを感じ、憤りを覚えることもあるかもしれません。

本記事では、退職代行業者を介して従業員から退職通知を受けた場合における使用者側の立場からの法的整理と実務対応を解説します。

1.退職代行とは

退職代行とは、
労働者本人に代わって、第三者が退職の意思を会社に伝えるサービスです。

これまでも、体調不良などで本人が動けないような場合に親族が就業先へ本人の退職の意思を伝えるなど、本人を代行して退職手続をするケースはありましたが、昨今問題となっている退職代行は、有料のサービスとして、事業者が手掛ける点が大きく異なっています。

 

退職代行を事業者別に分けると、

  1. 弁護士による退職代行
  2. 労働組合による退職代行
  3. 民間業者(弁護士資格なし)による退職代行

の3類型があります。

特に③の民間業者の場合、
交渉行為は非弁行為となる可能性があるため注意が必要です。

2.退職代行による退職は拒否できるのか

結論からいえば、

原則として拒否をすることはできず、退職それ自体は受け入れざるを得ない、ことになります。

①期間の定めのない雇用契約の場合

いわゆる「正社員」などの無期雇用においては、民法627条により、
労働者は原則として「2週間前の予告」をもって「いつでも」(つまり、理由を要することなく)退職できます。

就業規則などの社内規定において、仮に退職の申出は退職希望日の「1か月前」までにする必要がある旨が定められていても、
法律上、退職そのものは2週間の予告期間を置くことで効力が生じることになります。

②有期雇用契約の場合

原則として契約期間満了まで拘束され、
「やむを得ない事由」がなければ途中解約ができません。

無期雇用に比べると「やむを得ない事由」がないとして退職を拒否することができる場合もあり得ますが、出社を強要することはできないため、退職の効力が生じるか否かは別として、業務への影響は無視できません。

③即日退職は有効か?

期間の定めのない雇用契約(無期雇用)の場合、上記のとおり少なくとも2週間の予告期間を置くことが法定されておりますので、最短でも退職代行業者からの通知後2週間を経た日が退職日となります。

有給休暇の消化などを考慮した退職日が指定されていた場合や、会社との間で退職日について別途協議がなされた場合は、そうした有給休暇の消化や協議を踏まえて退職日が決まることになります。

このため、基本的に即日退職となることはありません。

他方で、有期雇用契約(契約社員等)の場合、やむを得ない事由があるときは「直ちに契約の解除をする」ことができますので(民法628条)、この場合は即時退職もあり得ることになります。

3.退職代行を使われた場合の企業側の対応

まずは冷静に事実確認
  • 本人の意思表示があるか
  • 委任関係の確認(特に民間業者の場合)

を確認します。

このとき、委任状などを提出してもらい、本人から真に依頼を受けているか否か、あるいは委任の範囲(退職の意思を通知することだけなのか、それ以外の手続きや労働契約関係の他の問題も含まれるのかなど)を確認することが必要です。

退職代行の事業者類型を確認

弁護士(法律事務所)又は労働組合(ユニオン)が退職代行をしているのであれば、
退職代行業者と退職条件交渉も可能です。

民間業者(株式会社など)の場合は、
退職条件交渉に応じる義務はありませんし、してはいけません。

退職条件の整理と交渉
  • 有給残日数
  • 退職日
  • 引継ぎの必要性
  • 会社貸与物の返却

を整理したうえで、必要に応じ会社が求める条件を通知します。

上記「2.退職代行による退職は拒否できるのか」の箇所で説明したとおり退職そのものは争えないとしても、会社が定める手続きの履践を求めることはできます。引継ぎをしないことや会社貸与物の返還がなされないようであれば、それを黙って受け入れる必要はありません。規定に従い会社において必要な手続きや引継ぎを求めることができます。

感情的対応をしない

強い非難や威圧的対応は、
紛争化につながる可能性があります。

⑤ 取り得る対抗措置の検討

退職代行を使う退職従業員の不義理や不誠実さへの感情的非難にとどまらず、本来とるべき退職の手順や手続きを履践しないなど、同人の雇用契約上の義務違反を看過することができない場合、そうした非違行為に対する懲戒処分や、これによって会社が被った損害について損害賠償請求を検討することも考えられます。

就業規則や退職金規程などによっては、退職金の不支給や減額などの措置を取ることも考えられますので、特に要職にあった管理職などが退職代行を使って退職するなどをした場合は、企業として取り得る措置をよく検討することが必要です。

何をどこまでするかは事案によって異なりますが、企業秩序を保持するためには、あまりにひどい事案に対してはある程度の厳しさをもって対応することが必要です。

4.退職代行を使われた場合の注意点

①未払残業代請求への発展

退職代行の背後に、

  • 未払残業代請求
  • パワハラ主張

が控えているケースもあります。

退職通知後に請求が来ることも珍しくありません。

②貸与物・機密情報の管理
  • パソコン
  • 顧客データ
  • 営業資料

の持ち出しリスクを確認する必要があります。

未消化年休の取扱い

未消化年休がある場合は、通常年休残日数を消化した後の日が退職日として指定されることになります。

労働者から退職時に未消化年休を一括時季指定された場合、他の時季に年休を与えうる可能性がないため、使用者は時季変更権を行使することはできません。

このため、年休を消化するだけ消化して一方的に顔も合わせず退職することに腹立たしさを感じたとしても、年休権を行使された場合はこれを認める必要があります。

なお、未消化年休を買取る義務はありませんので、年休を消化しきることなく退職をしていく場合に年休残分を賃金に上乗せして支払う必要はありません。

SNS等への投稿リスク

退職後の投稿による信用毀損にも注意が必要です。

このため、退職従業員本人の不誠実さに憤りを抱いたとしても、感情的対応をしないように注意します。

5.退職代行を使われないための予防策

退職代行の利用は、
「会社に直接言えない」心理の表れでもあります。

予防のポイント

✔ 退職相談の窓口を明確化
✔ 管理職の労務教育
✔ ハラスメント防止体制
✔ 適正な労働時間管理
✔ 定期的な面談実施

退職代行は、
組織課題のシグナルである場合もあります。

退職代行は、同じ企業で繰り返されることも散見されます。

このため、退職者本人の非違性や問題点が大きい場合は別ですが、退職代行が使われた場合、労務管理や社内コミュニケーションに課題がある可能性があるのでは、と疑問を投げかけ、マネジメントや組織風土などの改善点の有無を検討してみることが良いでしょう。

6.弁護士への相談

退職代行が絡むケースでは、

  • 法的有効性の判断
  • 未払残業代リスクの精査
  • 退職合意書の作成
  • 退職条件交渉
  • 懲戒処分や損害賠償請求等の対応

が重要になることがあります。

使用者側に立った弁護士が関与することで、

  • 不必要な譲歩を防ぎ
  • 紛争拡大を回避し
  • 将来リスクを整理

できます。

7.虎ノ門法律経済事務所名古屋支店のサポート内容

当事務所は、
名古屋を中心に、愛知・岐阜・三重・静岡の企業様の
使用者側労務問題を多数支援してきました。

主な対応内容
  • 退職代行対応アドバイス
  • 代理人対応(交渉・書面作成)
  • 未払残業代リスク診断
  • 問題社員対応支援
  • 退職合意書作成
  • 就業規則見直し
  • 予防法務(管理職研修)

人事労務における課題の発見と改善、あるいは企業秩序維持のための各種規定の策定と運用など、虎ノ門法律経済事務所名古屋支店では使用者側経営労務における価値ある支援を提供しています。

退職代行は「突然」ではありません

退職代行は、
会社にとっては突然でも、
従業員側では積み重なった結果であることが多いです。

適切に対応し、
必要であれば組織改善の機会とする。

そして、
不当な請求には毅然と対応する。

そのための法的支援を行います。

お気軽にお問い合わせください。

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